2023.06.02

LIFESTYLE

これは映えます!! 食べるのがもったいないほど美しい! 進化する老舗の和菓子はどこで買える?

羊羹ファンタジア Fly Me to The Moon 会津長門屋。

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コンビニから名店まで、スイーツの存在感は高まる一方。そうした洋高和低のマーケットに新風を吹き込む、「映える」美しさで進化した和菓子が話題を呼んでいる。

SNSを意識したネオ和菓子


谷崎潤一郎は随筆集『陰翳礼讃』の中で、羊羹の美しさを「瞑想的」と表現している。「玉ぎょくのように半透明に曇った肌が、奥の方まで日の光りを吸い取って夢見る如きほの明るさを啣ふくんでいる感じ、あの色あいの深さ、複雑さは、西洋の菓子には絶対に見られない。」

俳句や盆栽などに顕されるように、身近なもの、小さなものに奥行を持たせ、深い趣を感じさせるのは日本人の得意とするところだ。谷崎が見出した和菓子の艶にもそれは通底する。
 


短い周期でさまざまな食の流行が生まれる昨今、色鮮やかなスイーツに押され、和菓子の地位は安泰ではない。確かに材料の小豆は植物由来で健康面から注目されているが、洋菓子にも取り入れられつつあることを考えると、つくり手が危機感をおぼえるのも無理はないだろう。


こうした現状を背景に生まれてきたのが、創業100年を優に超える老舗が打ち出すネオ和菓子と呼ばれる一群。SNSを意識し、映えるビジュアルにこだわっているのが特徴だ。



思いと物語がつまった菓銘


和菓子は通常、饅頭や最中といった分類名だけでなく、菓銘を持つ。多くが地域の名所や花鳥風月、和歌に典拠した見立ての一種で、風情だけでなくストーリー性を感じさせる。これはネオ和菓子でも例外ではない。たとえば会津長門屋の「羊羹ファンタジア Fly Me to The Moon」。ロマンチックなジャズのスタンダードナンバーにふさわしく、月と青い鳥が断面ごとに異なる姿を見せる。まるで一篇の掌編小説を思わせる仕掛けがサプライズ。この意匠には「震災からの復興を願い、未来へつなげていこう」という思いが込められているのも興味深い。

我々の生活で闇の蠱惑はすっかり希薄になった。ネオ和菓子も昔ながらの羊羹に比べてずっと明るく、「カワイイ」というセンスが強調されている。それでも半透明の質感がもたらす夢見のような美しい曖昧さは変わらない。そこにはトレンドへの安易な迎合ではなく、老舗のしたたかな不易流行を見るべきだろう。

眼福と口福をアップデートした新しい甘味。味わえない文豪の嘆息が聞こえてきそうだ。

文=酒向充英(KATANA) 写真=藤田由香

(ENGINE2023年6月号)

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