2023.06.16

CARS

F1への復帰、新型ジェットの商品化! “モノづくり大国日本”の復活を上昇気流にのせるホンダの凄い組織

ホンダが開発した小型ジェット機「ホンダジェット」の新シリーズが北米で商品化されることが発表された。従来よりも大きめの11人乗りだが、主翼の上にエンジンを配置するという特徴はそのままだと見られている。

今回に限らず、このホンダジェットに関する報道には、期待を込めたコメントが寄せられることが多い。自動車メーカーであるホンダが、航空機開発に挑戦したというその姿勢そのものに、ロマンや「日本のモノづくりの復権」を感じる人が多いということだろう。

当然ながら、その開発は険しい道だった。航空機の開発は、ホンダの創業者、本田宗一郎の夢でもあったとはいえ、企業として取り組むにはリスクが極めて大きいプロジェクトである。実際に開発に着手してから販売に至るまでにはなんと30年もの年月を要している。

Honda Jet 2600 Concept


ボーイングは馬鹿にしていた

ホンダジェットは主翼の上部にエンジンを配置するという前代未聞のコンセプトにチャレンジしているが、航空機産業は当初、そんなバカな飛行機は見たことがないと嘲笑し、開発は絶対に上手くいかないと思われていた。

 開発までの悪戦苦闘が綴られた『ホンダジェット 開発リーダーが語る30年の全軌跡』(前間孝則著・新潮文庫)では、理論計算を実証するため、ボーイング社の施設を借りて風洞実験をしたときの様子を当時の開発リーダー藤野道格(現・ホンダエアクラフトカンパニー社長兼CEO)の言葉として、こう活写している。

「最初、ボーイングの技術者たちはわれわれのコンセプトを見て馬鹿にしているような様子で『まあ、やってやるか』といった受け止め方でした。でも、試験を進めていく中でデータが出てくるに従い、その態度が変わってきた。彼らも認めざるを得なくなりました」

 それはまさに、機体もエンジンも一つの会社が作って、自動車のように販売する──ボーイングがそれまで考えたこともない「いつかは飛行機を自社で開発したい」という創業者・本田宗一郎の夢が現実にならんとする第一歩だった。

 本田宗一郎が「いよいよ私どもの会社でも飛行機を開発しようと思っていますが、この飛行機はだれにも乗れる優しい操縦で、値段が安い飛行機でございます」と全社員に語りかけたのは、昭和37(1962)年6月のこと。

 だが、実際にホンダが小型飛行機の開発に乗り出したのは1980年代の半ばであった。30年前、社内にも極秘で始まった研究開発は、当然のことながら、苦難の連続だったという。

Honda Jet 2600 Concept

開発を支えた「フラットな組織」
 
バブル崩壊による業績悪化やトップ交代などでプロジェクトは幾度となく廃止になりかける。

 通常の企業なら、莫大な開発費がかかるこのプロジェクトをとっくに断念していたかもしれない。しかし、ホンダには、若い優秀な人材が自分の考えを直接、経営トップに近い人間に話せるような「フラットな組織」が保たれていた。そのおかげで、藤野はプロジェクトの存続が危うくなると、いちスタッフでしかなかった時代から、その時々のトップに革新的な構想を提案して、難局を打開してきた。当時の模様をホンダの4代目社長の川本信彦は、前掲書『ホンダジェット』のなかでこう語っている。

「組織というのはどうしても硬くなってしまいがちだが、ホンダでは役員室が大部屋になっていて皆がいる。そこへふらっと担当者(藤野)が入って来て『川本さん、時間空いてますか? ちょっと聞いていただきたいことがあるのですが』という感じですよ」

 また藤野自身がプロジェクト全体を統括する立場になった折には、

「私が最も気をつけていたのが、フラットな組織で、できる限り直接、各スタッフとコミュニケーションをとって具体的な仕事の指示を与え決定を下すことでした。そうすると、私もメンバーの一人一人も非常に忙しくなる部分はありますが、全体としては効率良く開発を進めることができます。大きな会社になればなるほど階層化されて判断が遅くなる。あるいは新しくポジションをつくったために、さらに余計な仕事が発生することがありますからね」

 と、常に現場とともに考える努力をしてきたと語る。

 ホンダは四輪分野での参入も、国内自動車メーカー11社のなかで最後発だったが、自由な発想と独自の技術を強みにモノづくりへの飽くなき挑戦を続け、現在のポジションを獲得している。そして今、またしても常識にとらわれない自由な発想で、航空機産業にも乗り込んだ。これからこの分野で、世界のトップ企業になることも夢ではないかもしれない。

 日本の“モノづくり”がかつてほど元気がなくなっている今だからこそ、ホンダジェットの存在は多くの人の心を掴むのかもしれない。



『ホンダジェットー開発リーダーが語る30年の全奇跡』(新潮文庫) 前間 孝則  著
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自動車メーカーが飛行機をつくる――。この無謀な試みに、航空機王国アメリカで果敢に挑み、遂にHONDAは小型ビジネスジェット機開発に成功した! 創業者・本田宗一郎の精神を受け継ぎ、双翼の上にエンジンを立てる画期的なデザインと、優れた燃費性能を武器に、その分野で販売トップに躍り出た新鋭機の飛翔までの道程を、経営者と技術者への聞き書きを軸に辿るモノづくりストーリー。


(ENGINEwebオリジナル)

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