『ENGINE』8月号では「2023年、推しの1本はこれだ!」をテーマに時計を大特集(前篇)。編集部が信頼する時計ジャーナリストと目利きたちでエンジン時計委員会を結成し、時計好きとしての原点に立ち戻り、2023年のイチオシの時計について、その熱い想いを打ち明けてもらった。
今回はヴァシュロン・コンスタンタンから、1950年代のデザインから着想を得た「パトリモニー」コレクションの人気定番モデルを紹介する。
これぞタイムレスの強み
菅原 茂(時計ジャーナリスト)
雑誌編集者だった80年代後半の頃、ある画商が「バセロン」なる腕時計を見せてくれた。それは祖父から父、そして自分へと受け継がれたという戦前の代物。半世紀以上も前から動き続ける名品と自慢する小さな金時計は、彼の腕でかっこ良く輝いていた。これは、ヴァシュロン・コンスタンタンが得意とする伝統の現代的な再解釈に他ならない。ものすごくクラシカルなデザインは希少価値が絶大なアンティークのようにも見える。時計に詳しくない人に「これは、親から譲り受けたものなんだ」とうそぶいてもバレないに違いない。そして相手が「かっこいい!」と褒めてくれたらしめたもの。完成度抜群のタイムレスな時計にはそういう強みもあるのだ。
見る度に好きになる!
髙木教雄(時計ジャーナリスト)
2007年の登場時に初めてこのモデルを見た際、正直なところ「アーやっちゃったな」と思った。オリジナルのミニマルな2針のパトリモニーが、大好きだったからだ。実はバウハウスの影響が色濃い完成された機能美には、付加機能など蛇足……と、当時は思っていた。が、レトログラード式のデイデイトの追加もまた、バウハウスの思想に則っているのだと後々気付いた。デイデイト機能は、色と形で明確に時刻表示機能と切り分けているし、レトログラードとしたことでオリジナルに備わるシンメトリーな美が保たれている。そしてなにより窓表示より、はるかに見やすいからだ。あの頃の私は、時計を見る目がなかった。機構とデザインの正しい関係性を、気付かせてくれた1本。
ドレッシーを遊ぶ
篠田哲生(時計ジャーナリスト)
いわゆる王道のドレスウォッチは、意外と出番がない。カッコよくスーツを着こなすための時計なので、そういうシーンには活躍するが、それ以外はコレクションボックスの主となりがちだ。やはり時計には、ちょっとした外連味も必要だろう。その点このモデルは、二つの大きなレトログラード針がアクセントとなっており、ドレッシーな時計に外連味たっぷりの個性を加えている。これならカジュアルスタイルのアクセントとしても、そしてドレススタイルのハズシとしても活躍してくれるだろう。時計はその人をあらわすものであり、ちょっとした遊びがあるとこなれて見える。そのくらい肩の力を抜いているのが、今の気分だ。
ヴァシュロン・コンスタンタン
パトリモニー・レトログラード・デイ/デイト
反復運動によって表示するレトログラードは、ヴァシュロン・コンスタンタンの伝統的な複雑機構のひとつ。1950年代のデザインから想を得た「パトリモニー」コレクションのクラシカルなダイアルにレトログラードを取り入れた人気の定番モデルは、ダイアル上半分を占める日付と下方の曜日がダイナミックな指針式のレトログラード針の反復運動で示され、ユニークなフェイスを演出する。自動巻き。ピンクゴールド、ケース直径42.5 mm、3気圧防水。708万4000円。
問い合わせ=ヴァシュロン・コンスタンタン Tel.0120-63-1755
(ENGINE2023年8月号)
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