2023.07.28

CARS

「馬もクルマも乗り心地が大事」 通算1800勝を達成した騎手、田中勝春さん これまでに出会ったクルマの中で、もっとも印象に残っている1台はなにか?

騎手の田中勝春さんと愛車のルノー・アルカナ

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クルマ好きのゲストを迎え、「これまでに出会ったクルマの中で、人生を変えるような衝撃をもたらしてくれた1台」を聞くシリーズ。今回は、競馬ファンの間ではカッチーの愛称で知られる田中勝春騎手に登場してもらった。昨年、JRA通算1800勝を達成したベテラン・ジョッキーは、多くの輸入車を乗り継いできた。馬とクルマに共通することとは?

カッチー・スマイル

白いルノー・アルカナから降り立ったのは田中勝春さん。2022年にJRA通算1800勝を達成したベテラン・ジョッキーだ。

「こんにちは」

カッチー・スマイルと呼ばれる爽やかな笑顔は、若い頃からずっと田中さんのトレード・マークである。

「アルカナを買ったのは2022年12月です。雑誌で見てこれはカッコイイと思いました。毎日、自宅から美浦のトレーニングセンターまでクルマ通勤をしているんですが、アルカナになってからガソリン代がかからなくなって助かっています(笑)。乗り心地もいいし、ハンドリングも悪くない。乗ってもいいクルマだなあと思いました。ハイブリッドなので、発進はモーター。そこも好きです。70km/hぐらいまでシャーッと気持ち良く加速します」



自宅と競走馬のいるトレーニングセンターの往復は40km。それに加えて趣味のゴルフにアルカナを使っているそうだ。

田中さんの初騎乗は1989年。18歳でのデビューである。重賞初勝利は翌1990年。クルマの免許を取ったのも19歳だった。

「最初に買ったのはBMW325i(E36)です。新車で買いました」

初めてのクルマが3シリーズと聞き、クルマお好きなんですねと言うと、笑いながら次のように答えた。

「クルマはまあまあ好きなんですけど、BMWにしたのは先輩ジョッキーなんですよ。オマエ、コレにしろって(笑)」

柴田善臣先輩

先輩ジョッキーとは、クルマが大好きなことで有名な柴田善臣さんだという。柴田先輩によるクルマ指南により、田中さんが次に乗ったのは深紅のランチア・デルタ・インテグラーレだった。

「これも新車で購入しました。インテグラーレはマニュアルでしたから運転は楽しかったです。ところが、ちょいちょい壊れましてね。エンジンを切ってもカーステレオの電源が落ちなくて、バッテリーが上がったりして。いろんな意味で楽しませてくれました」

柴田先輩、トラブルを不憫に思ったのか、次は国産車を薦めた。トヨタ・ハイラックスサーフ(2代目)である。

「ちょうどその頃、スノーボードにハマッていまして。ボードやウェアを積んでスキー場に行くための4WDを探していたんです。まあ、インテグラーレも4WDですけど、違う意味で目的地に着けないかもしれないですし(笑)」

柴田先輩のクルマ指南はさらに続いた。

「ハイラックスサーフの次はメルセデス・ベンツE500(W211)です。それまでのクルマは最初の車検を受けずに乗り換えていましたけれど、これは長かったですね。約10年、15万kmほど乗りました」

メルセデス・ベンツE500に長く乗った理由は、安心感と快適性だという。

「加速も良かったし、競馬場への行き帰りもラクチンでした」

よほど印象が良かったのだろう。次に乗り換えたのはE500のステーションワゴンだった。

「もう、ここからは先輩は登場しません。やっと自立しました(笑)」

このときに結婚をしたのも、先輩から自立した要因かもしれない。

「その後、トヨタRAV4とE500ワゴンの2台体制がしばらく続き、その2台を手放してポルシェ・マカンを購入したのが、いまから6年ほど前です」

RENAULT ARKANA /1.6リッター直4とモーターを組み合わせ、輸入車のなかで唯一のフル・ハイブリッドSUVとなる。田中さんは燃費の良さだけでなく、スタイリングも気に入っている。「リアから見たらクーペじゃないですか。そこが好きです」

純白のルノー・アルカナは、ポルシェ・マカンからの乗り換えとなる。

「素のマカンでしたけど、良かったですねえ。これまで乗ったクルマのなかで一番良かった。加速はいいし、ハンドリングもスポーティ。大きさも日本で走るにはちょうど良かった。大好きでしたね」

お気に入りだったポルシェ・マカンだったが、トラブルがあってルノー・アルカナに乗り換えたそうだ。

「クルマって年齢によって好みが変わっていくものでしょう。若い頃は速いクルマが欲しかったけれど、いまはもう飛ばさないですからね。そのときそのときで一番合ったクルマに乗ってきたつもりです」

共通するのは乗り心地

乗ると言えば本職は馬である。クルマに乗ることと何か共通点はあるのだろうか?

「共通するのは乗り心地です。馬もクルマと同じように乗り心地がいいのと、そうでないのがいます。乗り心地がいい馬はカラダの動きが柔らかいんです。上下動も少なく安定性がいい。走りが不安定な馬に乗ると、自分を支える力が必要になるから疲れます。一方、乗り心地がいい馬は負担が少ないのでずっと乗っていられる。クルマと一緒ですよ」

パドックからコースに入ってウォーミング・アップすることを“返し馬”というのだが、ここで乗りやすさを感じるのだという。

「人気のあるなしは置いておいて、乗りやすいなあとか、いい感じだなあと思うことはあります。それを感じてスタート・ゲートに向かうんです。やっぱり重賞を勝つ馬は安定感がありますね」



田中さんは2022年七夕賞をエヒトで勝っている。エヒトをクルマにたとえると?

「エヒトは乗り心地が柔らかいんです。この間、代車で借りたレクサスのSUVみたい。ちょっとフワフワしている」

1992年、安田記念でG1を初勝利したヤマニンゼファーは?

「そうそう。ゼファーがちょうどアルカナですよ。ちょっと硬め」

自分にとってクルマは生活必需品だという田中さん。

「クルマはひとりになれる空間じゃないですか。勝負前の集中力を高めるためにも必要なものです」

いまは勝つことだけにこだわらず、自分が騎乗している馬の能力をいかに引き出せるかを大事にしているのだという。

インタビューを終えた日の週末、東京競馬場での最終12レース、グリュースゴットで田中さんは勝利を飾った。

田中さん、乗り心地は良かったですか?

文=荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=仲山宏樹

田中勝春
1971年北海道生まれ。1989年にJRAの騎手としてデビューする。1990年、京王杯オータムハンデキャップで重賞初勝利、1992年、ヤマニンゼファーで安田記念を勝利しG1初制覇を飾った。2007年にはヴィクトリーで皐月賞でG1 2勝目を飾り、またシャドウゲイトでシンガポール航空ICを勝利し海外G1も制している。同年は2度目の優秀騎手賞を受賞した。そのほかのレースでも勝ち星を取り続け、2022年、史上11人目の通算1800勝を達成した。現在、通算1800勝以上の現役騎手は田中騎手を含めて4名である。

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(ENGINE2023年7月号)

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