フェラーリ250GTスパイダー・カリフォルニアの初代オーナーは、作家のフランソワーズ・サガン　コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023リポート

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ジャッジは世界的テノール歌手のヨナス・カウフマン

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コモ湖畔を舞台にしたイタリア最古の自動車コンクールがこの初夏に開催された。今年は世界的なテノール歌手がクルマのエンジン音を審査するという、一風変わった賞も創設された。

デューセンバーグが歩んだ数奇な経歴

今年のコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステは、昨年より1クラス多い8クラスに53台がエントリーした。招待日のゲスト投票による「コッパ・ドーロ・ヴィラ・デステ」に選ばれたのは、1961年型のフェラーリ250GTスパイダー・カリフォルニア。このクルマの初代オーナーは、終生にわたりスピードを愛し、「ウィスキーとギャンブル、そしてフェラーリは家事よりも楽しい」の名言を遺した作家のフランソワーズ・サガンだ。

一方、審査員投票によるベスト・オブ・ショーには、1935年型のデューセンバーグSJが輝いた。「強大なマハラジャたちの、めくるめく自動車の愉しみ」クラスに参加した6台中の1台である。この“デューシー”の経歴も数奇だ。世界恐慌で経営危機に陥ったデューセンバーグは、36台製造したモデルSJのシャシーの最後の1台をロンドンに送る。そこでコーチワーカー、ジョン・ガーニー・ナッティングにより、華麗なボートテール・スピードスターのボディが着せられた。購入したのは当時28歳の若きマハラジャ。彼は戦争に備えていったんクルマをカリフォルニアの邸宅に運び、事態が沈静化してからインドへと移送した。

コモ湖畔に響き渡るサウンド

今年は、最も美しいエンジン音のクルマに捧げられる、「トロフェオ・イル・カント・デル・モトーレ」なる賞も設けられた。面白いのは、ジャッジに世界的テノール歌手のヨナス・カウフマンを選んだこと。カウフマンは大会スポンサーであるBMWのお膝元、ミュンヘンの出身で、学生時代はアルバイトとしてBMWのイベントで運転手をしていたこともある。2009年からは同社のブランド・アンバサダーを務めているが、そんな彼がベスト・エンジン・サウンドに選んだのは、1970年型のポルシェ917 K。ポルシェ911用のフラットシックス2基を“合体”させ、180度V型12気筒に仕立てた4900cc580hpターボを搭載したモデルである。

その迫力あるサウンドは、ワーグナーの『ワルキューレ』でジークムントを演じるカウフマンの歌声の如く、朗々と会場のコモ湖畔に響き渡っていた。電気自動車の時代だからこそ、エンジン音の魅力を見直した、この新たな賞の創設を歓迎したい。

文・写真＝大矢アキオ Akio Lorenzo OYA

（ENGINE2023年8月号）

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