18年振りのオリジナル・ニューアルバム『ハックニー・ダイアモンズ』
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ザ・ローリング・ストーンズが18年振りとなるニューアルバムを発表した。32歳のプロデューサーを迎えたその作品は、彼らにとって1990年代以降の最高傑作と言っていい。
誰が想像できたか……
チャーリー・ワッツが世を去った2021年、わずか2年後にこれほど意気軒高なストーンズの新作が世に放たれることを想像できた者はいなかっただろう。実に18年振りとなるオリジナル・ニューアルバム『ハックニー・ダイアモンズ』。90年代以降の彼らのアルバムのなかで、これは最高傑作と言っていい。
プロデュースを担当したアンドリュー・ワットの働きが非常に大きい。ジャスティン・ビーバーらポップスターから、オジー・オズボーン、イギー・ポップ、エルトン・ジョンといったレジェンドまでの作品を手掛けた現在32歳。とりわけオジーやイギーらベテランの本来の持ち味を引き出しながら絶妙にモダナイズして復活させた手腕はたいしたもので、何年もの間、幾度も頓挫していたこのストーンズの新作も、輝きとフレッシュさを多大に持つものに仕上げてみせた。
ヌケがよく、ポップと言ってもいいリード曲「アングリー」で開幕。続く「ゲット・クロース」はサビがメロディアス。間奏のサックスの鳴りもいい。アコースティックで始まりミックの声が際立って前に出る「ディペンディング・オン・ユー」に続き、パワフルで開放的なロックンロール曲「バイト・マイ・ヘッド・オフ」はディストーションのかかったベースがブインブインと鳴る際の生々しさに耳が引き付けられる。このベースを弾いているのはポール・マッカートニー!
「アルバム中、最もアグレッシブなロックトラックでポールに演奏してもらえたらどんなにクールだろう」と考えたのはアンドリューで、ミックもポールも大いに楽しんだそうだ。
これまた血の踊るロックンロール曲「ホールド・ワイド・ワールド」、スライドギターの渋みもいいカントリー風味の「ドリーミー・スカイズ」、キャッチーなサビの「メス・イット・アップ」、低から高までミックの声表現の幅に改めて驚かされる「リヴ・バイ・ザ・ソード」と続いたあと、アルバム後半はキース色がグッと前に出てくる。「ドライヴィング・ミー・トゥー・ハード」はミックが歌っているものの、いかにもキースが好んで歌いそうなメロディ。続く「テル・ミー・ストレイト」はキースがヴォーカルをとる滋味深い曲だ。そして、旅のような感覚をもたらす「スウィート・サウンズ・オブ・ヘヴン」(レディー・ガガとのデュエット)に続き、最後はマディ・ウォーターズの曲でバンド名の由来となった「ローリング・ストーン・ブルース」。ガツッガツッとギターを叩く音がして、まるで目の前で演奏しているかのようなこのブルーズで締めくくるところに、オレたちの原点はここなのだというバンドの主張と矜持を感じる。2023年にこんなストーンズを体験することができるとは。生きていてよかった。
■ザ・ローリング・ストーンズ『ハックニー・ダイアモンズ』
オリジナルのスタジオ録音アルバムは2005年の『ア・ビガー・バン』以来、18年振り。亡きチャーリー・ワッツをフィーチャーした曲や脱退したビル・ワイマンが参加した曲もある。ポール・マッカートニー、エルトン・ジョン、スティーヴィー・ワンダー、レディー・ガガもゲスト参加。「スウィート・サウンズ・オブ・ヘヴン」でミックと歌うレディー・ガガのダイナミックな歌唱はまるで「ギミー・シェルター」におけるメリー・クレイトンのようだが、実際ガガは彼女をイメージして歌っていたそうだ。『ハックニー・ダイアモンズ』(ユニバーサルミュージック)
文=内本順一(音楽ライター)
(ENGINE2023年12月号)
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