2024.01.12

CARS

レクサスLMは、いかにして誕生したのか? 再び世界が震撼するトップ・オブ・レクサス【その1 プロローグ:変わるレクサス】

レクサスから、これまでの高級車とは違う新しいコンセプトでつくられた2台の注目の新型車が登場した。それが、大きな「LM」と小さな「LBX」だ。ジャーナリストの山本シンヤ氏が、このレクサスの新たな挑戦を解読するシリーズ。1回目の今回はそのプロローグとして、1989年から始まったレクサスが大きく飛躍するきっかけとなった「あのモデル」の登場と、LMとLBXへと続く道筋をどうつくり上げたのかを明らかにする。

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世界のプレミアムブランドが震撼

トヨタのプレミアムブランド「レクサス」は1989年の創業以来、「高級車の概念を変える」を目的に様々な挑戦を行なってきた。

その一つが創業に合わせて登場した初代LSだ。世界の高級車市場でガチンコ勝負をするために全てをゼロから開発。原因を元から断つ「源流主義」をスローガンに、走る/曲がる/止まるの「基本性能」はもちろん、これまでクルマの性能の中ではネガ潰しでしかなかった振動騒音を逆に商品力にした圧倒的な「静粛性」、そして精密機械のような「高品質/高精度」を実現。このクルマの登場で、世界のプレミアムブランドが震撼、その後のクルマづくりが大きく変わるキッカケとなった。



もう一つが1997年に登場した初代RXだ。「高級セダンの快適性を兼ね備えたSUV」として開発、プレミアムクロスオーバーSUVという新たなジャンルを開拓した存在で、今ではこのジャンルには無縁だったハイエンドメーカーも無視できないほどの盛り上がりを見せている。

更に2010年に限定500台が発売されたスーパースポーツLFAはトヨタ2000GT以来の本格スーパースポーツで、V10エンジンやカーボンモノコックなど、それまでレクサスが経験したことのないモノづくりに挑戦。「性能や速さだけでなく、『乗ってどう感じるか』という数値に表れない官能性を大事にしたい」との開発者の想いから、マスタードライバーの成瀬弘氏に評価と味付けを一任し、開発もニュルブルクリンクを中心に行なわれ、試作車でレースに参戦するなど、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」と「味づくり」の基盤を築き上げた存在だ。

しかし、それ以外のモデルは、語弊を恐れずに言えば高級車の概念を超えていなかった。特に2000~10年くらいのモデルは、見た目はレクサスだが中身はトヨタと大差ないモデルが乱立していた感もあった。

だが、2010年代になるとその流れは変わる。それを象徴するのが17年に登場したフラッグシップクーペのLCである。このモデルは「純粋なコンセプトカーの量産化」というプロジェクトだった。当時のトヨタ/レクサスの技術とリソースでは「市販化は無理」と判断した佐藤恒治チーフエンジニア(当時)は、豊田章男社長(同前)にそれを嘘偽りなく伝えると、豊田氏はこう語った。

「今できないのは分かってる。できるようにするためにはどうすればいいか?変えるしかないでしょ」



そこで佐藤氏はプラットフォームを含む主要構成部品を新規開発、市販化にこぎつけた。「限界を決めずに挑戦する」、その精神が、LC以降のレクサスに明確に宿るようになった。その結果、レクサスはトヨタのクルマづくりの構造改革「TNGA」を活用しながら、レクサス独自の「味」をより明確に表現できるようになったのだ。

ただ、その一方でブランドとしての「軸」や「方向性」が明確に見えてこない部分があった。筆者は、2017年に発足したスポーツブランド「GR」の成長に比べて、完全に出遅れていたように感じていた。そこでトヨタ社長に就任したばかりの佐藤氏に「レクサスの今後」について聞いてみると、こう答えてくれた。



「私がレクサスのプレジデントを務めていた時に行なっていたのは『ブランドの体幹を鍛える』ことでした。とにかく、いいクルマをつくるために当たり前を徹底的にやる。それをレクサスのメンバーに叩き込みました。つまり、表舞台には出ずに裏庭で薪を割るようなことをずっと行なっていたのです。その結果、レクサスには基礎体力ができました。そして、これからはフレーバーを乗せる段階になります。料理で例えるなら、しっかりダシが取れた状態で、いよいよ調味料を入れ、味付けをしていくタイミング。ここから先は、渡辺(剛)プレジデントが“レクサスらしさとは何か?”を、もっともっと追求してくれるでしょう」

現在、レクサスが特に注力しているのは、「電動化」、「知能化」、「多様化」の3つの柱だ。中でも多様性(ダイバーシティ)を持つことは、ライフスタイルの変化により、これまでの常識とは異なるニーズが存在しているから重要だ。

残念ながら多くのプレミアムブランドはまだブレイクスルーできていないが、レクサスは再び高級車の概念を変える挑戦を行なった。それが今回紹介する新時代のレクサス、「LM」と「LBX」だ。これまでの枠組みを超えた新しいものへの挑戦。まさにもうひとつのキーワードである“プッシング・バウンダリーズ(境界を押し拡げる)”を体現したものだと言っていいだろう。

◆「境界を押し広げる」とはどういうことか? 話題はいよいよLMの誕生へ!【その2 「高級ミニバン」ではない!】に続く!


文=山本シンヤ 写真=レクサス・インターナショナル

(ENGINE2024年2・3月号)

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