2024.02.15

CARS

屋根を開けて、ひときわ剛性感の高い6段MTを駆使し、乾いた排気音を後方に吹き飛ばす! JCWコンバーチブルは、どんなミニだったのか?【『エンジン』蔵出しシリーズ/ミニ篇】

中古車バイヤーズガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている「蔵出しシリーズ」。今回のミニ篇は、上陸ホヤホヤのミニ最強モデルの屋根開き版、JCWコンバーチブルの2009年8月号のリポートをお送りする。414万円のホット・ミニ・オープンはいかが?


エンタテインメントな演出

長尾峠は雨だった。おまけに霧が濃くなってきて、これ以上山道を登っても無駄だった。しょうがないので引き返し、乙女峠経由で仙石原にいたった。芦ノ湖スカイラインには行かないで、湖尻から元箱根に出た。雨が上がって、信号は赤。チャンスだ!

ギア・スティックの前に設けられたスポーツ・ボタンを押すと、ブーストが早く上がり、ステアリングとスロットル・レスポンスが鋭くなる。


とばかりに幌を開ける。開閉時間は15秒。ミニ・コンバーチブルは30km/hまでなら走りながらでも操作を受け付ける。信号が青になる。後ろからクルマは来ないからその必要はないけれど、幌を畳みながらスルスルと前に出る。走りながらキャンバスの屋根が畳まれていく姿は特権的にカッコいいはずだ。と外から見た姿を想像してご満悦。オープンにすると、360度視界が広がり、床屋に行った直後みたいに頭がスーッとする。

私が乗っているのはタダのミニ・コンバーチブルではなくて、最近加わったジョン・クーパー・ワークス(JCW)であった。十分以上の速さを持つクーパーSの175ps、1.6リッターターボを211psにまで強化して、足回りを固めた、ミニ最強モデル。幌を下ろしていると、ツイン・テール・パイプが奏でるイギリス車っぽい乾いた排気音がナマで聴こえてくる。ローでリミットまで回してシフトアップすると、バックファイアみたいな爆裂音!

私なぞはノーマルでも十分。ラウンジ・タイプの革シートは32万円のオプション。


過剰なくらいエンタテインメントなJCWの演出が、幌を通さず、同じ空間で味わえるのだ。

足回りはハッチバックのJCWよりも若干ソフト方向のセッティングになっている。依然、硬めではあるけれど、小さめの入力に対する当たりはやさしくて、路面が荒れていない限り、ガツンとは来ない。

オープン・ボディは堅牢で、オープンであることのハンディをほとんど感じさせない。サイド・ガラスを下ろしてのフル・オープン状態でも風の巻き込みは軽微で、高速道路の100km/h巡航も苦にならない。この点はフツウのミニ・コンバーチブルも同じだけれど。


ファン+ファン=2ファン

エレガント&ファンなコンバーチブルと、ミニ最強性能&ファンなJCWバージョンの合体が織りなす新世界。ファン+ファンで、ファンの2倍になっているのがこのクルマの持ち味である。屋根を開けて、ひときわ剛性感の高い6段MTを駆使し、乾いた排気音を後方に吹き飛ばしながら、大観山へとひた走る。

全長×全幅×全高=3715×1685×1415mm。ホイールベース2465mm。車重1300kgはハッチバックより90kg、クラブマンより10kg重い。1.6リッター直4DOHCターボは211ps/6000rpmと260Nm(26.5kgm)/1850-5600rpmを発生。テスト車のボディ同色フェンダーはオプションのひとつ。


ステアリングはそうとう重めで、重めなのにはワケがある。低いギアでアクセルを踏み込むと、フロントの駆動輪が暴れる感がある。電子制御デバイスによって、かように野蛮な振る舞いは抑え込めるはずだが、それをしていないのは演出だからである。コーナリング中にアクセルを踏み込むと、明瞭にラインが外に膨らむから、おいそれとはアクセルを踏めない。直進安定性が強くて、まっすぐまっすぐ走ろうとする。

ダイナマイト・キッド!

という単語が浮かんだ。ダイナマイト・キッドは初代タイガーマスクと伝説的な試合を繰り広げた、イギリス出身のプロレスラー。ジュニア・ヘビー級としても小柄な体躯ながら、カミソリのように切れる動きでファンを魅了した。ステロイド、それも競走馬用の筋肉増強剤によってビルドアップし、ヘビー級としても通じる体をつくった。栄光は長く続かず、副作用で体を壊して引退した。

幸いなるかな、ミニは人間じゃないから、何本打っても副作用の心配はない。ハッチバックのミニのJCWが衣装を着たダイナマイト・キッドだとすると、ソフトトップのコンバーチブルは、上着を脱いで裸になっちゃうこともできるダイナマイト・キッドである。彼の自伝によると、レスラー仲間のコスチュームを試合直前に隠しちゃうようなイタズラ小僧だったらしい。

JCWはワゴンのクラブマンにも登場している。フツーのミニに対して、ホイールベースが80mm長い分、乗り心地がよくて、全体に落ち着きがある。いいクルマなので、ダイナマイト・キッドではない。キッドは小柄だったから、あのムーブができたのだ。

文=今尾直樹(ENGINE編集部) 写真=小林俊樹

(ENGINE2009年8月号)

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