2024.08.05

LIFESTYLE

モーツァルト国際コンクールで日本人として初優勝したピアニスト、菊池洋子 そのライフワークを聴く!

モーツァルト国際コンクールで、日本人として初優勝

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2002年の第8回モーツァルト国際コンクールで、日本人として初優勝したピアニストの菊池洋子。彼女がライフワークと位置づける3枚のアルバムを聴いた。

世界の子守唄を収録


ヨーロッパと日本を拠点に活動を行い、モーツァルトをメインに据えたプログラムで高い評価を得てきた菊池洋子。彼女が20年以上前から勉強を続け、コロナ禍で一気に集中して取り組んだJ・S・バッハの『ゴルトベルク変奏曲』の録音をリリースしたのは昨年7月。冒頭のアリアからクリアな響きと自然体の奏法が聴き手を1時間20分のバッハの旅へといざなう。30の変奏の後、最後の「アリア」が再び登場して終わりを告げるが、菊池洋子はここからまた新たな旅が始まるような、絶妙の余韻を残している。

「この曲は大変な集中力と覚悟を必要とし、最後を見据え、そこに到達するまで強い精神力を維持しなくてはなりません。自分のすべてを賭ける、全力を出し切るという作品ですね。他のことはいっさい考えられません。でも、終わるとまた弾きたくなる不思議な引力を備えています」

「《ゴルトベルク変奏曲》は大きな宇宙を感じさせ、自分の原点に戻る感じがする」と語る。演奏も年1回続けていく(エイベックス)。


同年9月にリリースしたのは、世界の子守歌を集めた「子守歌ファンタジー」。レコード会社のディレクター宮山幸久氏が所蔵していた膨大な楽譜から世界の子守歌を29曲選んで収録した。「私はモーツァルトをライフワークとしていますので、今日ではベルンハルト・フリース作といわれる《モーツァルトの子守歌》から始めました。すべての曲が初めて演奏するもので録音もなく、宮山さんと相談してテンポなどの助言もいただきながら1曲ずつ時間をかけて仕上げました。恩師の田中希代子先生の熱心なファンだったという美智子上皇后の《おもひ子》でアルバムを締めくくっています」

「子守歌ファンタジー」ブラームス、シューベルト、ショパン、草川信、ニーノ・ロータなど各国の曲を収録(キングインターナショナル)。


ベートーヴェンの協奏曲

今年3月には子どものころから目標とし、夢見ていたベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲録音第1弾をついにリリース。これは協奏曲全曲を3年間かけてライヴ録音するプロジェクトだ。「まず、昨年9月9日ザ・シンフォニーホールで第3番と第4番をライヴ収録しました。昼夜2公演をそのまま録音する形で、極度の緊張感を抱きました」

カデンツァもさまざまなものを考慮し、工夫を凝らしている。「第3番は田中希代子先生が第1楽章だけライヴ録音を残され、カール・ライネッケのカデンツァを演奏していますので、先生の遺志を継ぐ意味でライネッケを。演奏される機会のないカデンツァですので貴重だと思います。第4番第1楽章はベートーヴェンのカデンツァのもっとも長い100小節を選び、第3楽章はブラームスのものを弾いています」

現在はウィーンで暮らし、昨年3月からウィーン国立音楽大学でアシスタント・プロフェッサーを務め、地に足を着けた音楽人生を歩んでいる。次々に夢をかなえる前向きな姿勢が演奏に反映し、聴き手に勇気を与える。

ベートーヴェンのシリーズの第1弾はピアノ協奏曲第3番、第4番。共演は山下一史指揮大阪交響楽団(キングインターナショナル)。

文=伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)

(ENGINE2024年6月号)

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