2024.09.02

CARS

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唯一無二の新しいスター、アルピーヌA110で青春を取り戻せ モータージャーナリストの高平高輝氏がA110の魅力を再確認

発売から6年以上が経過した今も、ライトウェイト・スポーツ・モデルのベンチマークとして高い評価と熱い支持を受けているアルピーヌA110。最速モデルのA110Rチュリニがカタログ・モデルに昇格するとともに、新しい受注プログラムが開始されるなど、さらなる熟成も行われている。そんな最新のA110に、モータージャーナリストの高平高輝氏が久々に試乗した。

今でも鼓動が速くなる

アルピーヌA110を見ると今でも鼓動が速くなる。2017年のデビューからだいぶ時間が経ってすっかり見慣れているはずだし、乗った回数も覚えていないほどだが、いつも胸の奥から何かが湧き上がって来るのは、若いころの記憶と共鳴するからだろう。

ボディ・カラーは、新しい受注プログラムで選べる「バニーユ」と呼ばれるクリーム色がちょっと入ったイエロー。

新しい受注プログラムが開始されるなど、さらなる熟成が図られたアルピーヌA110の詳しい情報はコチラ

偉大なラリーカー


私のような昭和半ば生まれのオジサン世代は、当初この新型を素直に「A110」と呼ぶことにちょっと抵抗があった。オリジナル・モデルの初代A110があまりにも偉大なラリーカーだったからだ。

ご存知WRC(世界ラリー選手権)創設初年度である1973年のチャンピオン・マシーンであるアルピーヌ・ルノーA110は、当時海外への憧れとスポーツカーへの欲望に悶えていた古いラリーファンにとっては伝説のアイドルのような存在だったのである。先ごろ亡くなったフランソワーズ・アルディといったところだろうか。その憧れのスターをリバイバルさせるなんて、という気持ちは若い人にも分かってもらえるだろう。

A110 Sの内装は、ルーフトリム、ダッシュボード、センターコンソール、ドアパネルにマイクロファイバーを用いた専用の仕立てとなる。

評価はもはや揺るぎない

だいたいそういう復刻ものはほとんど成功したためしがない、なんて高を括っていたわが身を今は大いに恥じている。現行アルピーヌA110の評価はもはや揺るぎない。唯一無二の新しいスターである。

エンジン本誌の人気企画「HOT100」で昨年まで何と5連覇していることでも明らかである。オジサンだろうが若者だろうが、本物の魅力はクルマ好きのハートを真っ直ぐ打ち抜くのである。

A110 Sは、サベルト製の軽量モノコックバケットシートを装着。リクライニング機能は備わっていないが、スライドとステアリングのテレスコピック機構により、ドライビング・ポジションはバッチリ決まる。

軽量コンパクトで軽快機敏

もう改めて繰り返すまでもないが、軽量コンパクトで軽快機敏、かといってスパルタンすぎない日常的な実用性も併せ持つライトウェイト・スポーツカーが現代のアルピーヌA110である。現在はスタンダードの「A110」と装備充実の「A110 GT」、より締め上げられたサスペンションを備えてさらに軽量化を突き詰めた「A110 S」、そして極めつけの硬派高性能モデルたる「A110 Rチュリニ」がラインナップされている。

スタンダード・モデルは252psと320Nmを生み出す1.8リッター4気筒ターボを、GT以上は同じエンジンを300psと340Nmにパワーアップしたユニットをミドシップに搭載する。

ブレーキは全モデルでブレンボ製を装着。フロントはアルミ製モノブロック対向式4ピストン・キャリパー、リアはアルミ製シングルピストンキャリパーとなる。

飛び抜けて軽量コンパクト

軽量コンパクトとはいっても、オリジナルA110と比べれば、当たり前だがサイズはずっと大きい。最後期型の「1600S」でもパワーは140ps程度だったが、全長は4m以下で全幅は1.6m以下、車重は800kgぐらいだったのである。

もちろん、最新のA110も現代の基準からすると飛び抜けて軽量コンパクトなことに疑いはなく、これほどスポーツカーの定理に忠実なミドシップ2シーターは今ではほかに例がない。現実的なライバルと目される「ポルシェ718ケイマン」(1360kg)と比較しても1120kgの車重(スタンダード・モデル、GTは1130kg、Sは1110kg、Rチュリニは1100kg!)は際立って軽いのだ。

ホイールベースは2420mm。

ランニングシューズ感覚

したがって、A110はピタリとフィットするランニングシューズ感覚である。軽快敏捷、自由自在のシャープな身のこなし、さらに後輪が滑り出しても(なかなかそうはならないが)十分にコントロールできるピーキー過ぎないバランス感覚が好ましい。

かつての「ロータス・エリーゼ」ほど剥き出しのスパルタンさはなく、ケイマンほどガッチリ「装甲」されている堅苦しい感じもせず、身軽さと扱いやすさがちょうどいい塩梅であり、さらにはアルミ・ボディ各部の建付けなども、失礼ながら以前の「アルファ・ロメオ4C」などとは比べ物にならないぐらい「ちゃんとした」隙のない出来栄えである。

身軽さと扱いやすさはライバルと比べてちょうどいい塩梅に仕立てられている。

ツイスティな山道に打ってつけ

ちなみに7段DCT(デュアルクラッチ式自動MT)を介したスタンダード・モデルの0-100km/h加速は4.5秒、最高速は250km/h(リミッター作動)と十分以上に速いが、正直言って広いサーキットよりも現実のワインディング・ロード、それもモンテカルロやコルシカのようにタイトでツイスティな山道が打ってつけの舞台だろう。いっぽう簡潔でキュートなスタイルをあえて捨てて、大きなスワンネック式カーボン製リア・ウィングやフロントおよびサイドのエア・スプリッターなどの空力付加物を装備するRチュリニは4.0秒と284km/hに向上する。

標準型シャシーを備えるスタンダードとGTに比べて、SやRチュリニの乗り心地はよりダイレクトで引き締まっており、ハンドリングもシャープだが、ひらりひらりとしたカジュアル感が気持ち良い標準型とどちらがいいかと問われると大いに迷う。限られたパワーを使いこなすほうがアルピーヌの哲学に相応しい気がするし、どうせ後々モディファイするならベーシック・モデルで十分とも思える。

現代の基準からすると飛び抜けて軽量コンパクトなボディがA110の大きな特徴だ。

遠い存在ではない

しかも円安に伴う値上げで以前よりはだいぶ高くなってしまった。とはいえスタンダード・モデルで990万円からという価格は、ポルシェ911などに比べれば一般人にとってはずっと現実的だ。もちろん気軽に手を出せる金額ではないが、端から諦めるほど遠い存在でもない。思い悩むにはこれまたピッタリというか、実に憎らしい設定なのである。

ご存知のようにアルピーヌもまた電動化を推進しており、A110に残された時間もそれほど長くはないはずだ。昔よりずっと身近になったアイドルを思い切って手に入れるか、実は私自身もずっと悩んでいるのである。

フロント・マスクは初代A110のラリー仕様車から始まった丸型4灯式をアレンジして採用。

文=高平高輝、写真=神村 聖

(ENGINE WEBオリジナル)

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