2025.01.25

LIFESTYLE

まるで南国リゾートのような家 東京の自宅の隣にローコストで別荘を建てるという斬新なアイディアは、なぜ生まれたのか

ここが東京とは思えない空間が広がるFさんの驚きの別荘。それにしても自宅の隣に別荘とは、発想が斬新過ぎる!

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実はローコスト建築

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もっとも急に土地を手に入れたため、資金などの準備もしていない。そのため、コストを掛けない倉庫のようなシンプルな建物をお願いした。それでも別荘で使う2階部分は、できるだけ天井高を稼ぎたい。そこで、地面を1m掘って、建物の土台を下げることにした。これなら厳しい高さ制限もクリアできる。森さんは本宅を設計した経験から、この場所の地下1mにある岩盤が非常に硬く、そのまま土台として使えることを知っていたのだ。ちなみに1階部分は、Fさんの会社が業務に使用している。この時出た残土は、処分に費用がかかるので、まとめて築山にし2階に繋がるアプローチにした。植物などは、Fさん自らが植えている。

キッチン裏の食器棚もFさんのDIY。

実は、DIYが得意なFさん。仕事柄、店舗作りのノウハウもあり、協力してくれる業者も知っている。飾り気のない建物は、自らの施工やインテリアで豊かなものに変えた。間取りは大きなワンルームのこの別荘、床にタイルを張り、照明や家具類の海外への発注もFさんが行った。会社の店舗で使っていた什器を組み合わせてキッチン周りのカウンターにするなど、工夫もこらしている。こうして完成した空間の、温かみがあって魅力的なこと。

一方建物の壁は、半透明のポリカーボネートを二重にしたパネルを並べただけの簡単なもの。部材を仕上げることなくそのまま使っている。なんといっても、コスト面で安価なポリカーボネートの採用は大きい。室内は明るいが、太陽光は和らぎ眩しさは皆無。ペアガラスよりも熱を通さない仕様で、夏でも冷房を入れれば室内は快適だ。逆に冬はかなり温かく、せっかく入れた暖炉もこれまで一度しか使う機会がなかった。そのような環境ゆえ、室内では植物がよく育つ。しかも日の出とともに明るくなるので、ここで暮らし始めて早起きになったと奥様は話す。

西側の壁は、全面が半透明のポリカーボネート。外は見えないが、室内に十分な光が入り、植物がよく育つ。強い西日でも眩しいことはない。斜線制限が厳しい敷地で、高さをできるだけとるため、屋根は家の形をした切妻型となった。天井は高いところで6.1m、低いところでも2.6mある。珍しい意匠のダイニングセットはドイツ製。ネットでオーダーした。床のタイルもFさんが施工。

隣り合った2軒を行き来する暮らし方もユニークだ。Fさんは、この別荘で夕食をとることが多い。レストランに行くのも苦労したコロナ禍の時期は、ここで社員たちに食事をふるまうこともあった。もっとも長年本宅で暮らしていた愛猫たちは、別荘に移ることを拒否。Fさんは猫たちと本宅で眠ることも少なくない。

社長ならベンツ?

300m先のお店にランチに出かけるのも、都内の仕事先を巡るのも全てクルマというFさんのカーライフも興味深い。18歳で起業した当時、「ベンツに乗っている社長は会社を潰すことが多い」と巷でささやかれていた。「それなら、自分はベンツに乗っていても会社を潰さない社長になる」と決意し、19歳で最初の一台を手に入れる。以来4、5年ごとにベンツを乗り換える人生を送ってきた。これまで乗ってきたのは9台。フォーマルな雰囲気が好きなので4ドアと決めており、これまで4台のSクラスに乗った。

普段は本宅の駐車場に停められている愛車のAMG GT43。これまで乗ってきたクルマは、黒が多い。

現在の愛車はAMG GT43(2022年製)。最近のSクラスがあまりにもスポーティになったので、それならば、と乗り換えてみたのだ。運転していて楽しいのはもちろん。ハッチバックなので、DIYで使う大きな合板も載せることができ、極めて便利だという。他にはクルマを所有せず、ベンツ1台での生活を、ずっと続けている。

家とクルマに対する独特のこだわりで、普段の生活を楽しんでいるFさん。こんな素敵な別荘があれば、わざわざ南国まで行く必要はないかもしれない。

文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー) 写真=田村浩章


■建築家:森清敏、1994年 東京理科大学大学院修了。川村奈津子、1994年京都工芸繊維大学卒業。大成建設の同期入社で、同じ部署に配属。後に、公私におけるパートナーとなる。王子木材工業本社ビル(2001)の設計を請けたことを機会に独立し、共同で設計事務所MDSを主宰。以後、住宅を中心に数多くの建築を手掛けている。写真は、Fさんが見て仕事を依頼してきた「目白の家」(2004)。

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(ENGINE2025年2・3月号)

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