2025.01.11

LIFESTYLE

70年代の息吹をそのまま伝える奇跡の喫茶店「珈琲ロン」 建物を設計した86歳の建築家に今脚光が当たり始めている!

1969年に設計された店舗は内外ともにほとんど姿を変えていない。

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1969年に設計された東京・四谷の老舗珈琲店。今でも古さを感じさせないこの建物を手掛けたのは? ご存知デザイン・プロデューサーのジョー スズキ氏がリポートする。

世界一のタマゴサンド

常連だった作家の井上ひさしさんが「世界一のタマゴサンド」と評し、自身が2004年度の文化功労者に選ばれた際には、ここで記者会見まで行った東京・四谷の「珈琲ロン」。創業70年になる老舗で、レトロなインテリアと懐かしいメニューが人気だ。創業者の息子である小倉洋明さんが50年近く2代目マスターを務め、数年前から孫の真智子さんが手伝う家族経営の店である。驚いたのは、1969年に設計された今の店舗が、内外共に当時と殆ど変わっていないこと。そんな珈琲店の、建築としての評価が近年高まるにつれ、設計した86歳の無名の建築家にも脚光が当たり始めている。

コンクリートの打ち放しに中が見えないガラス扉のモダンな外観を、「オーナーの人となりが出るよう考えた」と設計した池田さんは話す。そんなオーナーは、洒落て華のある人。外の螺旋階段を上った、窓が見えている3階で暮らしていた。

ロンは、人通りの多い新宿通りに面して建つ、間口6m奥行き8mの小さな店だ。それでも、一目で特別な建築と分かる存在感がある。設計は、当時20代後半だった池田勝也さん。勤めていた建築事務所、第一工房から独立する際、ご祝儀としてロンの仕事をプレゼントされる。オーナーから求められたのは、40席の店舗のみ。あとはお任せだった。

2024年12月1日に開催された 『建築家池田勝也氏ロンの建築を語る』で。(撮影=ジョー スズキ)

店の外から、奥の螺旋階段まで厚い煉瓦が敷かれ、街と店内が繋がった構成。

考え抜かれた設計

池田さんがまず考えたのは、店の外観が「街に表情を与える」こと。当時流行り始めたコンクリートの打ち放しで、リブの入ったニュアンスのある外壁を作り出した。今見ても古さを感じない意匠だ。この無機質な外観から、一歩店内に入ると懐かしさを覚える温かな空間が迎えてくれるのも狙ったところ。

1階の店内。この煉瓦の上が吹き抜け。奥に行くにつれ店幅を狭くし、広く見える配慮も。


左奥が、井上ひさしさんが記者会見した席。

狭い店舗を広く見せるために柱をなくし、効率の良い螺旋階段を採用。一部を吹き抜けにして、視線が抜けて広さを感じられるよう配慮した。小ぶりなサイズの、居心地の良い家具も手掛けている。

吹き抜けのお陰で、1階の様子だけでなく、ガラス扉越しに街の気配も伺える。


伝票裏には、名物の「サンドヰッチ」の文字が。珈琲はオープン以来ネルドリップ。何も言わずに灰皿が出てくるが、時代の要請もあり第三土日は禁煙で営業。

池田さんは建築界の本流となるような仕事を好まなかったので、業界内でも名前は殆ど知られていない。しかし相当な情熱を傾けて、ロンを設計したのは間違いない。小さな店舗の随所に、熟考を重ねた跡が窺える。オープンから今日に至るまで、著名な建築家を含め、多くの建築好きがロンを訪れているのも納得だ。実際に空間を体験してほしい名建築である。

文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー) 写真=田村浩章

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(ENGINE 2025年2・3月号)

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