トヨタ・モビリティ神奈川は、2025年2月22日と23日に開催されたクラシック・カー＆ヒストリック・カーのイベント「ノスタルジック2デイズ2025」に、トヨタを代表する高級車のクラウンとセンチュリーの初代モデルを展示した。
1955年式のワンオーナーを譲り受けるこの初代クラウンはデビューした年の1955年式で、ワンオーナーとして60年間乗られていた個体をトヨタ・モビリティ神奈川が譲り受けたものである。前オーナーは譲り受ける際の条件として「転売しないこと」、「今後もひとりでも多くの人に見てもらうべく努めること」を条件としたという。前オーナーの意向に合わせ、トヨタ・モビリティ神奈川ではレストアし、普段は同社の「ビジネスモビリティセンター」に展示されている。
できる限り分解入庫後、初代クラウンはできる限り分解され、レストアされた。フレーム単体になるほどにバラされ、各所のサビを落とし、再塗装し、再び組み上げるという作業だ。担当したのは鈑金関連が9人、メカニックが2人、ガラス関連が1人。きちんと整備され、保管状態もいい個体であったのだろう。作業は約2カ月で終わったという。
左右のロッカー・パネルやクォーター・パネル、フロア・パネルは欠損があったためオリジナルとは異なるものになっているという。ボディは全塗装されているが、当時とは異なる手法が採られた。60年前はボディ・パネルに下地処理として防錆塗装したのちにソリッド・カラーを塗るという方法であったが、現在の環境に合わせた塗料を使いボディ・カラーを塗った上にクリアを吹き付ける方式を採用している。
3Dスキャンで再生リア・ウインドウのレギュレーター・ハンドルは割れており、補修パーツもなかった。そこで採用したのが現物を3Dスキャナーによって計測し、そのデータを元に3DのCADデータへ変更して、部品を作り出すという手法。この手法なら、元のパーツがあればあらゆる部品を作り直すことが可能だという。
このパーツの復刻を担当したTOKYO HOKUTOの植田健二氏によれば、トヨタS800のフロン・ウインドウ復刻する場合はデータ作成や型作りで200万円、ガラス製作は1枚5万円程度とのこと。オーナーズ・クラブなどが20枚単位で申し込めば、1枚の単価は15万円程度で収まるという。
1979年式の3.4リッター版さて、もう1台の初代モデルがセンチュリー。センチュリーは1967年のデビューである。このモデルは1979年式で、67年式とはいくつか仕様が異なっている。初代センチュリーは一貫してOHVのV8エンジンを搭載したが、当初の排気量は3.0リッター、1973年には3.4リッター、1982年には4.0リッターとなる。つまり、この個体は3.4リッターのV8エンジン仕様だ。
エンジンもさることながら、初代センチュリーで特徴的なのは3.0および3.4リッター時代のフロント・サスペンションとステアリング機構。かなり特殊だ。この時代のセンチュリーはオレオ型ストラットというサスペンション&ステアリング機構を採用している。少しくわしく説明しよう。
希少なステアリング機構を採用クルマはステアリングを切るとタイヤが向きを変えるが、多く（というかほとんどすべて）のクルマは、かじ取り装置がタイヤ（正確にはハブ・キャリア）に取り付けられていて、タイヤの部分のみが向きを変える仕組みだ。ちょうど台車や旅行用キャリーケースのキャスターが向きを変えるような感じだと思ってもらえばいい。ところがオレオ式では、かじ取り操作はサスペンションのストラットの上部と繋がっていて自転車のようにタイヤまわりとそれを支えているストラットなども一緒に向きを変える。
オレオ式はステアリング・ロッドがタイヤの上下の動きに干渉しないことや、エンジンを低く搭載できることなどがメリットだが、保守点検に手間が掛かる。世界的見てもオレオ式サスペンションを採用しているクルマは少なく、センチュリーも1982年の改良で一般的なサスペンション＆ステアリング機構に変更されている。つまり、初代センチュリーの前期、中期は貴重な存在なのである。
このように、当時のトヨタがいいクルマを作るために先進的なことにチャレンジした貴重なクルマがセンチュリーなのである。
文＝諸星陽一
(ENGINE WEBオリジナル)
