4日間で約5万台を売り、発売後瞬時に受注停止となったスズキ・ジムニー・ノマドをはじめ、現在、日本市場ではフレーム・シャシーを備えた本格派オフローダーが大きな注目と支持を集めている。その頂点に立つのが、このメルセデス・ベンツGクラスだ。ジムニーのことをよく、「プアマンズGクラス」と称することがあるが、ジムニーを基準にするとさしずめGクラスは「リッチマンズ・ジムニー」ということになるだろうか。
ローンチ・エディション2024年に、その場で旋回するGターンと呼ばれる超信地旋回などで話題のメルセデス・ベンツGクラス初の電気自動車=バッテリーEV(BEV)となる「G580 with EQテクノロジー」とともに、内燃機関版のGクラスも一部改良を実施。今回は新しくなった内燃機関のGクラスの中からトップ・グレード、AMG G63に設定された導入記念モデルとなる「AMG G63ローンチ・エディション」にモータージャーナリストの高平高輝氏が試乗した。
重量級だというのに俊敏一般道を走り出してびっくりした。「こんなに軽快だったっけ?」 BEVのG580から乗り換えた直後ゆえの驚きではあるが、冷静になってもやはり従来型とは身のこなしが違う。G580より500kg以上軽いとはいえ、G63でも車重2500kg以上の重量級だというのに俊敏といえるぐらいに感じられたのだ。
4.0リッターV8ツインターボ+マイルド・ハイブリッド今やメルセデス・ベンツの金看板ともいえるGクラスは2024年秋、大掛かりなマイナーチェンジを受けた。同時に追加されたGクラス初のBEVで、4輪をそれぞれ別個のモーターで駆動する「G580 with EQテクノロジー」に注目が集まるのは当然ながら、G63も格段に洗練されていたのである。
その理由の第一はエンジン車がすべてISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)付きのマイルド・ハイブリッド仕様に変更されていること。AMG自慢の4.0リッターV8ツインターボ(エンジン自体のスペックは585psと850Nmと変わらず)を積むG63も、直6ディーゼル・ターボを搭載する「G450d」も新型はトランスミッションにモーターを内蔵するISG付きだ。
踏めば獰猛(どうもう)モーターの最高出力は20psだが、最大トルクは208Nmで、これが発進時にアシストしてくれるのでターボが苦手とするアイドリング近辺の出足が軽快になる。さらに縦置きエンジンと9段ATの間にモーターが配置されるISGの美点は、滑らかに静か(モードによるけれど)にエンジンが始動することだ。アイドリング・ストップ機能が煩わしいという人もISGなら満足するはずである。
もちろん、踏めば獰猛に走ることはいうまでもない。円熟のV8ツインターボはどんな回転域でも逞しく、そして滑らかで濃密な回り方でドライバーに応えてくれる。ちなみに0-100km/h加速は4.4秒という(G580は4.7秒)。
シャシーも洗練その2はG63にAMGアクティブ・ライドコントロール・サスペンションが採用されたことだ。これは電子制御のアクティブ・スタビライザーに加え、ダンパーも各輪独立、しかも伸び縮み別に無段階可変制御するというものだ。おかげでラダーフレーム構造のクルマには宿命ともいえるゆらゆらフラフラが大幅に減っている。
2018年にモデルチェンジした現行型Gクラス(フロント・サスペンションはダブルウィッシュボーンに変更)は、それ以前のモデルに比べ一気に直進性や乗り心地が現代的になったとはいえ、それでもやはりほかの乗用車ベースの一般的なSUVとは同列に語れないものだった。それが今回はさらに洗練されている。もちろん、フレーム車独特の落ち着かない乗り心地なんて気にしないという人もいるでしょう。だからこそ日本でも年間5000台レベルで売れているのである。
変わったところと変わらないところそしてインストルメントやインフォテインメント・システムがほかのメルセデスと同じく最新仕様に一新された。ARナビゲーションなどを特徴とする第2世代のMBUXを採用、12.3インチの横長ディスプレイ、タッチパッド、キーレス・エントリーなども新しい。
とはいえダッシュ中央に3つ並んだデフロック・スイッチやプッシュ・ボタン式ドア・ハンドルも、施錠解錠の際の「ガチャッ」という大きな音も従来通り。空力性能向上のためにわずかに改良されたルーフ前端やAピラーまわりを除いた外観とともに、変えないほうが好まれると判断した部分には手を付けていない。さすが分かってらっしゃる。
ただし本体価格は3080万円である。ダイヤモンド・ステッチのナッパレザー・シートなどの専用装備を持つローンチ・エディションということもあるが、EVのG580(2635万円)よりさらに高い。でもそんなことは関係なく、注文殺到間違いなしである。
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文=高平高輝 写真=望月浩彦
(ENGINE WEBオリジナル)