今年もやりました2025年版「エンジン・ガイシャ大試乗会」。大磯プリンスホテルの大駐車場に集めた注目の総勢33台の輸入車にモータージャーナリスト33人が試乗! 世界の自動車業界が大変革期の真っ只中にある今、各メーカーがこの上半期にイチオシするそれぞれのニューモデルに5人のジャーナリストが試乗。計165本の2025年注目輸入車の試乗記を順次公開。
ケータハム・スーパーセブン600ラインには、佐野弘宗さん、斎藤慎輔さん、関耕一郎さん、藤原よしおさん、小沢コージさんが試乗。まずは佐野さん、斎藤さん、関さんの「ここがスゴイ」リポートをお届けする。
「手のウチで楽しめる」佐野弘宗ネトフリ・ドラマ『地面師たち』のセリフではないけれど、ケータハム・セブンは現在入手可能な新車で、おそらく最もフィジカルで、最もプリミティブで、最もフェティッシュな1台だ。
とくに今回の600のパワートレインは、われらがスズキ製。エンジンは85psまでチューンされた軽自動車用ターボで、5段MTとリア・アクスルは軽トラのキャリイからの移植。車幅もナロー仕立てなので、日本では軽自動車扱いとなる。
乾燥重量440kgという超軽量車でも、パワーも限られるのでスピードや限界性能はそこそこ。走行中にさらされる風量はスゴイけれど、加速は軽妙で、フィジカル(肉体的)な負担は大きくない。
リジッド・アクスルに155/65R14という軽サイズのタイヤなので、ステアリングとアクセルの操作バランスを少しでも間違えると、低速でもスルッとテールを振り出してしまう。ただ、その動きはプリミティブ(原始的)で、アマチュアでも手のウチで楽しめる。この瞬間の笑ってしまうほどの気持ち良さも一種のフェティシズムなのか?
「時を止めてくれている」斎藤慎輔時が止まっている。止めてくれているというべきかもしれない。
スズキの「軽」に搭載の縦置き直列3気筒658ccターボ・エンジンを載せたスーパーセブン600は、2014年発売のスーパーセブン160から続く、軽規格(に収めた)セブンだ。聞けば、国内で売れるスーパーセブンのうち8割が「軽」セブンだそうだが、この600は内外装がやけに瀟洒だ。
でも、走らせてみればこれまで通り。何も変わっていない。普段走りの領域から楽しめるのは、もちろん地べたがすぐそこの位置に座って、速度感が他のクルマとは違うこと。ちょっとした加速のつもりでも1速から3速まですぐにレブ・リミッターが作動域に達しても、体感ほどに速度は上がっていない。だからこそ楽しめるわけで、なんたって車重は440kgしかないので、箱根の上りも4速でグイグイいけてしまう。
でも、これまた面白いのは、曲がるのはオン・ザ・レール感じゃないこと。まだまだグリップしているのに闘っている感覚、これがクセになるんです。
「毎日味わいたい非日常」関耕一郎「カワイイ……」。それが第一印象だった。個人的なセブンのイメージはアルミ地肌のボディにサイクル・フェンダーだが、このスーパーセブン600は古式ゆかしいフレアード・フェンダーでフルペイント。ホイールまで上品なボルドー・レッドで、随所に白いパイピングを加え、キャビンも白でコーディネート。エレガント。
とはいえ、走り出せばそこはセブン。横一線に並んだ車内外のミラーは絶えず震え、ステアリングもシフトノブも重く、クラッチを踏むとき以外は左足が邪魔になるほど狭い。オープンでは、ドアをつけても激しい走行風に髪をかき回される。およそエレガントとは程遠い。
しかし、ただただ楽しい。景色の流れるスピードはみるみる上がり、コーナーでは後輪直前に座る自分が振り回されるような感覚が、法定速度上限程度で味わえる。440kgのウェイトと、スズキ製658ccの織りなすエンターテインメント。いい意味でこれ以上はいらない、絶妙のバランス。毎日味わいたい非日常感。世の中、変革しなくていいものは、確かにある。
■ケータハム・スーパーセブン600スーパーセブン1600やセブン・スプリントおよびスーパー・スプリントに続くクラシカルな仕立てのセブン。クラムシェル・フェンダーを採用し、標準のアルミ+4色に加えてスーパーセブン専用の11色の車体色を選択可能。フロントに最高出力85ps/6500rpm、最大トルク11.8kg m/4000-4500rpmを発揮するスズキ製の658cc直列3気筒ターボ・ユニットを搭載し、5段MTを介して後輪を駆動する。全長×全幅×全高=3380×1470×1090mm。ホイールベース=2225mm。車両乾燥重量=440kg。車両本体価格=866万8000円。
写真=神村 聖(メイン)/小林俊樹(リア)/茂呂幸正(ディテール)
(ENGINE2025年4月号)