2025.03.19

CARS

買収から投資に変更か? 日産への距離を縮める台湾・鴻海の動きを国沢光宏氏(モータージャーナリスト)が考察する

2025年3月11日に行った新経営体制についての記者会見に続き、19日にターンアラウンドの取り組みを推進するための4月1日からの新しいリーダーシップ体制を発表した日産自動車。業績の回復に向けて前進していることは間違いないが、一方で、自力での復活は難しいとの意見も多い。その中で取りざたされているのが台湾の鴻海の動きだ。果たして、日産が鴻海と手を組むことはあるのか、また、その場合はどのような結果が待ち受けているのか、モータージャーナリストの国沢光宏氏が考察する。

台湾・鴻海の動き

抜本的な改革を行わない限り日産の財務状況は確実に悪化していく。どんな手を打ってくるのか? そんななか、「台湾の鴻海は近日中に日本の自動車メーカーと電気自動車の開発&生産に関する業務委託契約を結ぶ」という情報が流れている。出所は鴻海のオンライン説明会だ。鴻海の劉揚偉会長曰く「2カ月以内に日本の電気自動車関連の企業と開発と生産の契約を締結する見込みです」。



どうやら買収は断念

日本の自動車メーカーで鴻海向け電気自動車の開発と生産を引き受けられるのは日産くらいしか考えられない。しかも会長の発言である。おそらく動いているんだと思う。果たしてどうか? 様々なパズルを組み合わせてみると、鴻海の戦略が何となく見えてくる。まず当初考えていた「日産の買収」は断念したようだ。アメリカ政府がUSスチールの買収を認めないのと同じ構図。

そこで「投資」に切り換えた。日産の株式をある程度購入するというもの。3分の1を超えると「議決権」(重要事故の決議を否定できる)が生じるため、33%以下になるだろう。ルノーが第3者機関に供託している日産の株数は18.7%。ルノー保有の日産株式15%と合わせれば、33%を無理なく入手可能。この時点で鴻海は日産が運転資金を借り入れる時の保証人になってくれるだろう。

さらに電気自動車の開発と生産委託を受けることで厳しいリストラを回避できる。日産の財政基盤を整えようとすれば、すでに発表している9千人のリストラじゃ全く追いつかない。3万人とも4万人とも言われる人員削減が必要。社員を3分の2くらいにしなければならないということ。工場の生産能力だって20%程度削減する必要がある。しかし日産は「やらない」と言っている。



これなら工場を閉鎖しなくていい

どこからそんな自信が出てくるのか? 鴻海からの開発と生産委託を受けるのなら納得できる。鴻海としても年産24万台規模の工場を立ち上げようとしたら用地買収から始まり、生産設備の購入、人員の確保までしなければならない。大ざっぱに言って1000億円規模の費用が掛かる。開発だって同じ。自動車の開発は鴻海にとって初めて。やはり1000億円規模を初期投資しなければならない。

日産の株を3分の1買おうとすれば5300億円くらい必要になるけれど、2024年の純利益7000億円の鴻海からすれば無理な金額じゃない。そもそも5300億円で買った日産の株33%分は、日産の株価が10年前の水準に戻れば3倍の1兆5000億円になる。しかも好調な業績を上げることで株主配当だって受けられる。日産を再建すれば鴻海にとって素晴らしい資産になるということ。



ホンダか、鴻海か

鴻海側の動きや日産の対応を見ると、この動きは障害なく進んでいそうな雰囲気。日本政府も「買収でなく投資」であれば納得するように思える。鴻海の投資が決まれば、動きは早いだろう。ただちに鴻海向け電気自動車の開発がスタートする。現在進行形で開発している電気自動車のプラットフォームも鴻海向けに使う? いずれにしろ通常より早いスピードで事業展開するだろう。

販売とサービスだって問題なし。鴻海ブランドの電気自動車はネット販売とし、納車とサービスを既存の日産ディーラーで行う。鴻海の投資は最小限で済む。唯一の課題は鴻海が中国政府と近いことながら、これは拒否嫌の無い3分の1以下の株主ということで影響なしと判断する? いずれにしろ鴻海の会長が「2ヶ月以内」と発言している通り、連休あたりに結論でるだろう。

これで日産に再建を手伝うのは、ホンダか鴻海に絞られたと考えていい。日本のクルマ好きとしてはホンダと組んで欲しいところながら、5年で150万台以上販売台数を落とし、業績悪化に悩むホンダからすれば重荷。リストラや工場閉鎖も行わなければならない。鴻海であれば日産くらいの荷物を背負っても問題なし。リストラと工場閉鎖は回避できることだろう。

どちらかになると思う。その場合も日差が単独で業績を伸ばさなければならない。日産の頑張りどころです。



文=国沢光宏

(ENGINE WEBオリジナル)

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