今年も乗りまくりました2025年版「エンジン・ガイシャ大試乗会」。各メーカーがこの上半期にイチオシする総勢33台の輸入車に33人のモータージャーナリストが試乗!
田中誠司さんが乗ったのは、メルセデスAMG E 53ハイブリッド、シボレー・コルベット Z06、フィアット600e、BMWアルピナB3 GT、BMW X3 M50 xドライブの5台だ!
メルセデスAMG E 53ハイブリッド・4マチック・プラス「さすがAMGのEクラス!」日常の移動手段が先代メルセデスE220dオールテレインゆえ、新型Eクラスには強い興味を持っていた。
結論からいえば機械としての手触りに総じて大きな変化はなかったから「今のクルマは気に入っているので、保証が切れるまでは乗り続けよう」と思ってはいるのだが、新しいPHEVに惹かれる気持ちもある。

E53の電気モーター出力は163ps/480Nmと、それ単体でも筆者の220dが示す194ps/400Nmに遜色ない。西湘バイパスに合流して巡航する程度ならまったくエンジンの世話にならずに済む。
AMG RIDE CONTROLサスペンションの快適性は想像どおりだが、後輪操舵システムを組み合わせた操縦性は、ステアリング中立付近の遊びが目に見えて減り安定性がさらに向上している。ロングランをより楽しめると感じた。

主にモーターによる静かなクルージングを楽しんだので、449psの直6ガソリンターボユニットを満喫するには至らなかったが、一瞬右足に力を込めた際の鋭くも滑らかな加速には、「さすがAMGのEクラス!」と感服した。
シボレー・コルベット Z06「線が太い荒々しさ」アメリカン・マッスルカーの象徴、ということは当然にV8エンジンのFRレイアウトであったシボレー・コルベットが、8世代目でついにミドシップ・レイアウトに転じたことは多分に衝撃的だった。

ボートのように長く低いノーズをコクピットから眺め、自らの背後にはほんの少しのスペースしかない心許なさを意識させるのがかつてのコルベットだった。
新型でも標準モデルにはOHV式エンジンが受け継がれ、その響きをいままでと違うカタチで味わえるのが新しい魅力となっていた。

新しいZ06には、レーシング・マシーンであるコルベットC8.Rに由来する最高8550rpmの超高回転型DOHCユニットが搭載されている。ビッグ・トルクで押し出すものの、トップエンドでは伸び鈍ったOHVとは異なり、このエンジンはレブ・リミットを突き抜けてしまうほど高回転を好む。
官能的、というのとはまた違った、線が太く荒々しさを隠そうともしないV8は、フェラーリなどのスーパー・スポーツに乗り慣れたスポーツカー・ファンの心も刺激するはずだ。
フィアット600eラ・プリマ「絶妙なバランス」電気自動車のフィアット600eは、内燃機関車の時代にはコンパクト・カーに望むべくもなかった特長をいくつも備えている。

とくに際立つのは静粛性の高さ。電気モーターは小型のエンジンよりはるかに騒音や振動が少ない。若干重くなるぶん乗り心地もいい。前後重量配分の偏りが減り、ハンドリングも軽快だ。EVを作るなら専用プラットフォームがベターという考えもあるが、ガソリン車をベースに作るからこそ、美点が際立つという見方も成り立つ。
フィアット500やパンダに乗り慣れた人がこの600eを走らせれば、「EVにすればこんなに良くなるんだ」と驚くだろう。それでいて、愛らしいフォルム、イタリアらしいディテールはフィアットそのものだ。

54.06kWhというバッテリー容量、116kW/270Nmという出力も、車重と航続距離、加速力が絶妙にバランスしている。あまり容量が多くても、充電に時間がかかって厄介なのだ。
自宅に充電設備が据えられる人にはぜひ薦めたい理想のコンパクト・カー、値札ももう少し小ぶりになればなお嬉しい。
BMWアルピナB3 GT「やはり別格」創業家ボーフェンジーペン家が関わる最後のBMWアルピナが、エンジンにしても足回りにしても徹底的に磨き込まれ、洗練され尽くしていることは、もう多くの人に語られているから言及するまでもないだろう。

ただ、かつてさんざん東京とミュンヘンを行き来して、BMWの歴史に深く触れた経験を持つ者として、アルピナが進化の題材に選んだ素材の良さ、物理的な優秀さだけではなくブランド・宣伝・販売・整備を含むネットワークに対するアクセスのしやすさが、アルピナのように類稀なるブランドを生んだことを強調しておきたい。BMWという教科書でスポーティカーとは何かをステップ・バイ・ステップで学んだ人々が、さらなる高みを目指そうというその先にこそアルピナは生まれたのだ。

さんざんBMWを乗り回して、でもアルピナとは何なのか知りたい。僕は普段からスポーツカーを傍に置いているが、わざわざワインディング・ロードには足を踏み入れない。けれどもアルピナB3 GTで箱根ターンパイクを駆けぬける歓びは、やはり別格だった。
BMW X3 M50 xドライブ「まるでスポーツ・ハッチのよう」X3 M50を走らせたのはアルピナB3 GTの直後、最後のセッションだった。熟成しきったアルピナの足さばきとエンジンを味わったあとでは、乗り心地もサウンドも、微かに霞がかって感じられてしまうのが正直なところだ。

少し眠気を感じたので、タイトなワインディングロードに寄り道して帰る。すると、これほど大きなボディと高い車高なのに、まるでスポーツ・ハッチのように鋭いステアリング操作に的確に反応するではないか。
とはいえ前後方向の姿勢変化は隠しようもないので、ブレーキングでリアは少し浮き気味になる。まだ前荷重が残っているところへ間髪入れずにトルクを与えると、ノーズが心地よくインに向いてくれる。これは縦置きエンジン・レイアウトを活かした、フロント40:リア60というトルク配分の影響に他ならない。スポーティネスは背の高さにかかわらず適用されるべきというBMWの考え方を端的に示す、FWDベースの4WDとは全く違う操縦性。車を介した路面との対話をこのX3 M50なら楽しめるだろう。
「オールド・ボーイなりの楽しみ方」田中誠司から見た、いまのガイシャのここがスゴい!僕が初めて自動車メディアの業界に足を突っ込んでから、25年以上の月日が流れた。一人前に特集記事でフロントを張れるようになったのは7~8年経ってからだから2005年ごろ。
当時はスタビリティ・コントロール・システムが多くの高性能車に装着され、室内のボタンを押し間違えなければ誰でもハイパワーを扱える時代の始まりだった。それでも、日常的に対峙しうるパワーの限界は350psで、それ以上は持て余すだけだと経験的に理解していた。時は流れ、今日僕が走らせるクルマたちの平均最高出力は468ps!

操る人間のほうは劣化しているわけだから、もう本格的にキャッチアップするのが難しいのは明白だけれど、オールド・ボーイにはオールド・ボーイなりの楽しみ方があって、いまも結局、カーライフに対する投資は怠りない。共感してくれる読者も存在することを願いつつ、自分なりに個性豊かな最新のガイシャたちと対峙してみたい。
文=田中誠司
(ENGINE2025年4月号)