2025.04.20

CARS

「人生を豊かにするというメッセージを感じた」と森口将之(自動車評論家)が絶賛したクルマとは? 5台の注目輸入車にイッキ乗り!

森口将之さんが乗ったのは、ポルシェ911カレラ、ベントレー・ベンテイガEWBマリナー、ロータス・エメヤR、DS 3オペラ、シトロエン・ベルランゴ・マックスの5台

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今年も乗りまくりました2025年版「エンジン・ガイシャ大試乗会」。各メーカーがこの上半期にイチオシする総勢33台の輸入車に33人のモータージャーナリストが試乗! 

森口将之さんが乗ったのは、ポルシェ911カレラ、ベントレー・ベンテイガEWBマリナー、ロータス・エメヤR、DS 3オペラ、シトロエン・ベルランゴ・マックスの5台だ!

ポルシェ911カレラ「素晴らしいチャレンジ」

最新が最良だとは思わない。フロントのウインカーをヘッドランプに入れ、メーターをフル・デジタルにしたのは、ともにビジュアルで大事な部分だし、コストダウンの匂いも感じさせて残念だ。ただポルシェが素晴らしいのは、911のような看板車種でさえ、このようなチャレンジを欠かさないこと。

ポルシェ911カレラ

直近では7段MTを6段に戻したりしているが、リスクを恐れず、ユーザーに試してもらって決めるという姿勢に、作り手と乗り手の対話を感じる。

走り始めると、昔と比べて前後左右のタイヤが自分から遠くなった印象。でもコーナー立ち上がりのトラクションはしっかり体感できる。

ポルシェ911カレラ

エンジンは流しているととにかく静かだが、3000rpmあたりからは、フラット6ならではのサウンドが届いてくる。3リットルは爆発音が強調されず、回転音が伝わるところがいい。

スロットルを絞り気味にして、ターボならではの排気音を抑え、完璧にバランスされたクランクの回りっぷりを堪能する。ここは昔のままだった。

ベントレー・ベンテイガEWBマリナー「特等席はやはりリア」

いまや日本ではベントレーの販売の4割はこのベンテイガが占めていて、サルーンのフライング・スパーは3割に落ちているとのこと。最初はベントレーのSUVなんてと思ったけれど、たしかに改めて乗るとちゃんとベントレーになっている。

ベントレー・ベンテイガEWBマリナー

試乗車はビスポーク部門のマリナーが手がけた最上級仕様だが、キャビンはきらびやかさとは無縁。シックなコーディネートに真の高級を教えられる。

センター・パネルに並ぶダイヤルの、カチカチッと節度あるタッチにも魅せられる。

エクステンデッド・バージョンなのに運転席だけで過ごしてしまったけれど、とろけるような乗り味は満喫できた。

ベントレー・ベンテイガEWBマリナー

でも特等席はやはりリア。シートがもうひとつ入りそうなほどの足元、ふっかりしたヘッドレストなど、贅を尽くした空間だ。ここで過ごしたEPCの方からは、運転席とは違いが明確なドライブモードの切り替えをほとんど感じないという報告もあって、広さだけではない作り分けの妙に感心した。

ロータス・エメヤR「アイデンティティが揺らがない」

ロータスがこんなになっていいの? と最初は自分も思ったけれど、昔から他社とのコラボでスポーツ・サルーンを送り出してはいたし、もともと先進的なイメージがあるし、F1を含めてパワーユニットは外部調達が多く、エンジンよりもシャシーで魅了するクルマが持ち味だったことを考えれば、これもひとつの進化のカタチと言えるだろう。

ロータス・エメヤR

それにサルーンとしては低いウェッジ・シェイプやモダンなインパネ、スウェード巻きのステアリング・ホイールはエスプリあたりを思い出させて、電動化してもアイデンティティが揺らがないところはさすがと思った。

試乗は駐車場内限定だったので、走りは味見程度だったけれど、パドルの右でドライブモード、左で回生ブレーキのレベルを調節できるうえに、下側を弾いて戻すこともできるアクションは使いやすかった。

ロータス・エメヤR

圧巻はガラスルーフの瞬間調光機構が三角形に分割してあって、自分好みのグラフィックが描けること。蓮をイメージしているのかもしれない。

DS 3オペラ「文化を味わう乗り物」

エクステリアにはリトラクタブル・ドアハンドル、インテリアには高級腕時計を思わせるクル・ド・パリ文様を施したスイッチに、極上の掛け心地をもたらすウォッチ・ストラップ・デザインのシートなど、贅を尽くした仕立てが、コンパクトなボディであることを忘れさせる。

DS 3オペラ

キャビンにちりばめたダイヤモンド型のモチーフは、センター・パネルやメーターだけでなく、Aピラーのスピーカーにまで反映している。細部にまで手を抜かないデザインはやっぱりフランス。

最近、日本のプレミアム・ブランドからもこのサイズのクロスオーバーが出たけれど、ファッション視点ではDSにかなわないと実感するし、好き嫌いが分かれるのを承知で自己主張する姿は、うらやましいとさえ思える。

DS 3オペラ

3ドアだった先代DSが上陸したとき、日本で走っているのにフランスで通勤しているような錯覚を受けたことを思い出した。

フランス車は文化を味わう乗り物だと個人的に思っているけれど、それをもっともわかりやすく表現したクルマだ。

シトロエン・ベルランゴ・マックス「自分の家より心地いい」

マイナーチェンジで顔はフツーになったけれど、明るくて広いキャビンに収まると、やっぱりこれは日本のミニバンとは育ちが違うと思わせる。

まずは頭上のモデュトップ。ガラス・ルーフの中央にスケルトンのトレイを渡したことで、開放感と機能性を両立したうえに、独自の眺めも手に入れている。多くの人が7人乗りのロング・ボディに行きがちなところ、5人乗り独自の個性を与えているところに感心する。

シトロエン・ベルランゴ・マックス

柔らかい乗り味にも魅せられる。なによりもほんわかした乗り心地にうっとり。

ハンドリングもおっとりしているし、1.5リッターのディーゼル・ターボと8段ATのコンビも、角のない丸みのある加速を届けてくれる。それを太陽がいっぱいに降り注ぐ、大きな部屋の中で味わう。自分の家より心地いいんじゃないかと思える空間が、自分の思いどおりに移動していく。単に便利な箱で終わっていない。

シトロエン・ベルランゴ・マックス

やっぱりドライブを楽しく、人生を豊かにするというメッセージを感じるところが、フランスならではだと思った。

スゴイというより、凄み

相変わらずムダが多いなあと思いました。もちろん褒め言葉です。

これが日本車だったら、同じ33台でも、もっと均一で整然とした並びになるでしょう。でもクルマ好きなら、バラバラであることにこそ、魅力を感じるはずです。



たしかに今のガイシャたちは、壊れなくなったし、燃費も悪くない。でもそれ以上に大事にしていることが伝わってきます。美しさとか、楽しさとか、心地よさとかです。

ガイシャを作る人たちは、ムダとはゼイタクのことであり、人生を豊かにさせるものと考えているのではないでしょうか。「贅」という字を辞書で引くと、「むだ」と出てくる日本とは、根っこの部分から違うような気がするのです。

そもそも彼らにとってクルマとは、自由の象徴。だからムダを楽しみ、ゼイタクを嗜む。激動の時代にあっても、デザインや走りで遊ぶことを忘れない。スゴイというより、凄みと表現したほうがいいかもしれません。

文=森口将之

(ENGINE2025年4月号)

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