マツダの新世代ラージ商品群の第一弾として2022年に登場したCX-60の2025年モデル試乗会が開かれた。なぜマイナーチェンジでもないのに試乗会なのか。その理由は、乗ってみるとすぐにわかった。エンジン編集部のムラカミがリポートする。
乗ってみなければわからないフルモデルチェンジやマイナーチェンジとは関係なく、年次改良でも必要とあらば新たな技術をどんどん投入してくるのが、最近のマツダ流だ。今回、試乗会が開かれたCX-60も、特別なモデルチェンジをしたわけではなく、あくまで2025年モデルになったというだけである。だから、外観は基本的にまったく変わっていない。ところが、中身に関しては大きな改良が施されているからこそ、とにかく試乗してもらわなければ違いがわかってもらえないということになったものと想像できる。

大きく手を入れられたのは足回りだ。これまでのCX-60には、あまりにスポーツ志向で足回りが硬く、乗り心地がよろしくないという声が上がっていた。それを改善すべく、昨年登場した兄貴分のCX-80で採用した新しい足回りをこちらにも移植したというのが、大雑把ないきさつである。具体的には、前後サスペンションのスプリング・レートとダンパー減衰力に細かな調整を行なったのに加えて、すべてのモデルのスタビライザーを取り外している。その結果、足は柔らかくなったが減衰は効く、すなわちダイレクトでリニアなハンドリングを持つけれど滑らかな乗り心地を実現したというのが、マツダのエンジニアの主張である。

そのほか、パワステの操舵力を軽くしながらセンターに戻る力を強くして操縦性と直進安定性を高めたこと。トルコンレス8段ATのクラッチを制御する油圧精度を高めて滑らかな走り感を向上させたこと。さらに走行中の静粛性を向上させたことなど、全体としてスポーティな走りの良さに磨きをかけながら、走りの質感を大幅に高めているという。
加えて、より簡素でスポーティなベース・グレード「XD SP」が登場した。マツダ自慢の直6ディーゼル・エンシンを搭載した後輪駆動モデルの車両本体価格が412万5000円。確かにお買い得感はある。
スポーツカーみたいな走り私は今回、そのXD SPの後輪駆動モデルとXDエクスクルーシブ・モードの4WDモデル、そして、XDハイブリッドのプレミアム・スポーツ(4WDのみ)の3台に試乗した。そして、その中でもっとも素晴しいと思ったのが、新グレードXD SPの乗り味だった。
マツダの新ラージプラットフォームの特徴は、フロントのほぼミドシップといえる位置に直列6気筒エンジンを縦置きし、後輪ないしは4輪を駆動するという、利便性よりもダイナミック性能を重視した構造を持っていることにある。何よりも「走る歓び」を第一の価値として重んじた哲学でつくられているのだ。だとすれば、余計な装飾をゴテゴテと付けて重量を増やしてしまうよりも、必要最小限の装備にとどめて、できるだけ素の状態にある方がいい。

今回乗ったXD SPはまさにそういうモデルだった。外観はブラックメタリック塗装の20インチホイールのほか、グリルやドアミラーにもブラックをあしらって、スポーティな印象。内装はすべてファブリックでインパネも樹脂になるけれど、ステアリングはしっかりと本革巻きがついているし、全体的な印象も廉価版というよりもすっきりと清々しくスポーティな好感が持てるものだ。
そして、走り始めると、その見た目の印象通りのすっきりと清々しい乗り味だったものだから、私は数十メートル走っただけで、「これは素晴しく気持ちがいいクルマだ!」とすっかり惚れ込んでしまったのだ。ステアリングの操舵力は重すぎず軽すぎず。その操作に対するクルマの動きも、まさにFRならではの切れば切っただけ曲がってくれるリニアなものだったから、まるでもっと小さなスポーツカーにでも乗っているような気分になった。これこそがマツダの目指す走りなのだろうと思う。
しかも、これだけスポーティな味つけになっているにもかかわらず、普通に走っていて決して乗り心地が悪いとは感じさせないところに、足回り改良の成果があるのだろう。
実は、XDエクスクルーシブの4WDモデルはこれほどすっきりした乗り味ではなく、乗り心地もそれほどいいとは思えなかった。むしろハイブリッドの方が、重たいけれど乗り心地の面では勝っていると感じたけれど、それもXD SPの走りの魅力には叶わない。素がオススメだ。
文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦
■マツダCX-60 XD SP(2WD)
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4740×1890×1685mm
ホイールベース 2870mm
車両重量(車検証) 1820kg(前軸1000kg、後軸820kg)
エンジン形式 直6DOHC直噴ターボ・ディーゼル
排気量 3283cc
ボア×ストローク 86.0×94.2mm
最高出力 231ps/4000-4200rpm
最大トルク 500Nm/1500-3000rpm
トランスミッション 多板クラッチ式8段AT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ (前後) 235/50R20
車両本体価格(税込み) 412万5000円
(ENGINE2025年5月号)