カイエンの登場はポルシェというブランドの在り方を大きく変えた。とはいえカイエンも、それに続いたパナメーラも、そしてBEVのタイカンも、ご本尊たる911同様、いずれもポルシェの作る高性能車、であることは変わらない。タイカン、カイエン、パナメーラの注目グレード3台に試乗。モータージャーナリストの高平高輝がリポートする。
ポルシェの大黒柱
若いクルマ好きの皆さんは「またかよ」と顔をしかめるかもしれないが、長年ポルシェに憧れて育った世代にとっては、どうしても“ポルシェといえば911”だ。オジサン世代には“911”と“911じゃないほう”という見方が染みついていることをご容赦いただきたい。

しかしながら、現在のポルシェのビジネスの中心は、911以外のSUVとスポーツ・サルーンである。色々とチャレンジしてみたものの、結局は911しか売れず、その911の売れ行きが鈍ると即経営危機につながった30年あまり前とは、明らかに様変わりしているのである。
過去数年の自動車業界は、コロナ禍による生産の停滞、そしてEV推進の減速が大きく影響していたもののポルシェは堅調であり、右肩上がりに販売数を伸ばしてきた。昨2024年は足踏みしたものの、それでも年間総販売台数はおよそ31万1000台(前年比マイナス3%)という。
そのうちSUVのカイエンが約10.3万台。一部デリバリーの始まったEVモデルを含めたマカンが8.3万台。この2種のSUVで全体の6割ほどを占めている。BEVのタイカンはおよそ2万台で、一時911(昨年は5万台)を凌ぐほどの勢いを見せていたものの、前年比でほぼ半減しているのは仕方のないことだろう。
ここでは中国市場の後退、トランプ関税、EV化減速という嵐に立ち向かうポルシェを支える“911じゃないほう”の大黒柱モデルについて、それぞれ取り上げていく。
驚くほどフラット
ご存知タイカンはポルシェ初のBEVである。プロトタイプの「ミッションE」からほぼ5年をかけ(その間サーキットでも経験を積み)、満を持して2019年に登場したスーパーEVだ。
タイカンの完成度はその当初から高く、ほとんど弱点が見当たらないほどだった。ただし、航続距離が実質400km程度とポルシェ乗りにはちょっと物足りないこと、そして800Vの高電圧システムを備える車両側は当初270kW(現行型は350kW)までの大容量充電を受け入れるのにもかかわらず、国内では充電環境がそこまで対応していなかったことが問題だった。

そのタイカン・シリーズは昨年春にマイナーチェンジを受けて、パフォーマンスと航続距離がさらに向上した。日本仕様は「セダン」と「クロスツーリスモ」に分かれ、後者は3モデル、すなわちタイカン4、4S、そしてターボという、すべて前後アクスルにそれぞれ一基のモーターを搭載する4WDをラインナップ。ターボ・クロスツーリスモはもちろんその中の最強力モデルで、トータルの最高出力は707ps、ローンチ・コントロール使用のオーバーブースト時は884ps、同最大トルクは890Nmと途方もない。

従来型ターボは625ps(オーバーブースト時685ps)だったから、大幅な向上である。駆動用バッテリーがこれまでの93.4kWhから105kWhへ大容量化されたことに加え、リア・モーターの高出力化、サーマル・マネージメントやインバーターの改良などの結果だという。WLTPモードの航続距離は515~597kmとされ、0-100km/h加速は2.8秒、最高速は250km/hと発表されている。
ちなみにセダンはスタンダードのタイカンとタイカン4、4S、GTS、ターボ、ターボS、ターボGT、ターボGTウィズ・ヴァイザッハ・パッケージとさらに多くのモデルが用意されており、最上位のヴァイザッハ・パッケージの最高出力は1034ps。0-100km/h加速は2.2秒というからそら恐ろしい。

ターボ・クロスツーリスモは当然ながら静かに、滑走するように走り、曲がる。常にベクタリングが効いているような切れ味抜群のハンドリングには若干の違和感がないとはいえないが、追い込んでもまったく音を上げず、ただただ速い。一度ローンチ・コントロールも試したが、怒涛の加速に気持ち悪くなってしまった。0-100km/h加速3秒を切るようだと、軽々しく試さない方がいい。
BEVはバッテリーの重さのせいで荒れた路面ではブルブルとした振動が残ったり、ピッチングが気になるクルマもあるが、エア・サスペンションと可変ダンパーを備えるタイカンは別格で、路面を問わず、ほぼ完璧にしなやかでフラットな姿勢を保つ。しかもこの車にはオプションのリア・アクスル・ステアリングに加えて、新たにポルシェ・アクティブライド(これだけで121万円のオプション)という個別に油圧を供給して姿勢を制御する、いわゆるアクティブ・サスペンションも備わっていたから、驚くほどフラットだ。このシステムは昨年春に発売された新型パナメーラのPHEVモデルにも搭載されているように、高電圧システムを前提とする。

ポルシェはアクセレレーター・ペダルを戻しただけで回生ブレーキが作動する、いわゆるワンペダル・ドライブには与しないらしく、最初のタイカンにもシフト・パドルは備わらず、従来型でもステアリング・ホイールの左スポークに備わる小さなアクセレレーター・ボタンを押すと回生レベルが若干強くなるというタイプだった。マイナーチェンジ後の新型ではこのスイッチもタッチ・ディスプレイ内に移された。したがってアクセレレーター・ペダルを戻しても、前方から見えない手に引っ張られるようにスーッと惰性走行する。
普通に考えれば、ポルシェこそシフト・パドルを採用してもよさそうに思えるが、彼らはしっかりフットブレーキを使う走り方を当初から推奨している。高速走行時の効率を優先しているわけだが、低速走行での微妙な加減速時や、傾斜のついた駐車場などでのブレーキのフィーリング(実際にはペダルを踏んでもその9割を回生で賄っているという)も気にならないレベルに洗練されているのがさすがである。
◆では、新しいエアサスを得たパナメーラと完成の域にあるカイエンはどうなのか? この続きは【後篇】で。
文=高平高輝 写真=阿部昌也
■ポルシェ・タイカン・ターボ・クロスツーリスモ
駆動方式 前後2モーター4輪駆動
全長×全幅×全高 4974×1990×1988mm
ホイールベース 2904mm
トレッド(前/後) 1710/1672mm
車両重量(前軸重量:後軸重量) 2390kg(1170kg:1220kg)
モーター(エンジン)形式 永久磁石同期モーター
電池容量(排気量) 105kWh
最高出力 884ps
最大トルク 890Nm
トランスミッション(前/後) 1段/2段
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+エア
サスペンション(後) マルチリンク+エア
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク(炭素繊維複合素材製)
タイヤ(前/後) 265/35R21/305/30R21
車両本体価格(OP装着時) 2308万円(3121万円)
(ENGINE2025年6月号)