2025.11.09

CARS

幸せを感じるデザイン 1970年型のフィアット500と現行モデルの電気の500eの共通点と言えばコレです

フィアット500e(2024)とフィアット500L(1970)。そっくりではないか!

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片やRRの内燃機関車、片やFFの電気自動車、大きさも違うし、ハードやメカニズムに共通点はほとんどない。しかし、どちらに乗っても“チンク”気分に浸れてしまうのはなぜ? スペシャルショップでドンガラから組み立て直し自分好みに徹底的に仕上げたというかつての愛車、1970年型の500に会うために、モータージャーナリストの西川淳は電気の500eで東京を出発した。

東京から名古屋まで

自動車におけるデザインの重要性をこれほど分かりやすく伝えてくれるモデルはほかにないと思う。フィアット500eのことである。

機能とデザインを突き詰めたらこうなる。模範解答の1つ。不要なパートはなく、全てに機能があってそれゆえ形と場所の理由があるデザインだ。

1957年に登場したヌォーバ・チンクエチェント(以下チンク)を内外装のデザインモチーフとしたことはどこからどうみても明らかなわけだが、それを除けば偉大なる祖先とのハード&メカニズム的な共通点など全くと言っていいほどにない。

現行モデルは(今のところ)電気自動車一本だし、大ヒットした2007年デビューの先代にしたところでRRではなくFFで、しかもポーランド生産だった。なんならフィアットというブランド名は同じでも会社そのものもまた変質してしまっている。あえて似た点を探せばイタリア産に戻ったということくらいだろうか。

けれども乗ってしまえば先代も現行も確かに“チンク”気分に浸れてしまうのだ。つい最近までチンクに乗っていた私が言うのだから、あながち的外れな感覚ではないはず。ハードがまるで違っているとなれば、そんな気分の正体はデザインをおいてほかにない。そのことを確かめるために500eを駆り、東京から名古屋まで“かつての愛車”に会いにいくことにした。

京都の職人がワンオフで拵えた蒔絵技法と卵殻で作ったホーンボタンと欅に貝を埋め込んだシフトレバー、漆の鏡面仕上げとしたセンターコンソールなどこだわりタップリ。

かつての愛車とはもちろん10年ほど所有していたチンクのこと。有名スペシャルショップの手でドンガラから組み立て直された1970年式の個体で、最終的には色から何から自分好みに仕上げた、とても思い入れのある1台だった。ゴールドとブルーの2トーンカラーはマリア様から拝借したアイデアで“ゴールド・マドンナ”と名付けて悦に入っていたほど。

手放した時のまま変わりなく過ごしていることは知っている。とても大事にされていることも。なぜなら嫁いだ先はチンクの保護活動で名高いチンクエチェント博物館だから。とはいえ“変わらないぶん”会えばきっと“惜しくなる”。ちょっとセンチな気持ちで500eを走らせた。なぜ手放してしまったか、今は聞かないでくれ(泣)。



500eの名誉のために言っておくと、そもそも長距離移動を念頭においたBEVではない。シティコミューターだ。だから航続距離が十分とは言えず、東京から名古屋まで二回の充電が必要だったことをことさらあげつらうつもりはない。空冷2気筒を積んでいたチンクでも無難な巡航速度は90km/hかそこらだったのだから所要時間という意味ではむしろ先代より“伝統”に則っている。

感心したことは、ドライブフィールだった。街中から高速クルージングまでその乗り味は文句なしに500史上最高である。安定しているし、乗り心地も悪くない。かといって分厚い鉄板が動くようないかにもBEVっぽいドライブフィールもほどほどで、むしろコロコロと転がるように動く感じが上手に表現されている。そんな感覚がなぜかチンクらしいと思ってしまった。以前にはなかった乗り味だというのに。これはまたまたどうしたことだろうか。



つまりはそういうことなのだ。デザインの力。乗り手は乗る前からチンク気分にどっぷり浸かっている。そのスタイルを見て、乗り込んで、世界観を見せられて、とくに以前のチンクを知っていなくても、知っていたらなおさらに、ハッピーな気分で運転している。デザインが与えてくれた幸せ。なんのことはない、これが気分の正体だった。薄々そうだろうとは思っていたけれど。

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