2025.11.09

CARS

幸せを感じるデザイン 1970年型のフィアット500と現行モデルの電気の500eの共通点と言えばコレです

フィアット500e(2024)とフィアット500L(1970)。そっくりではないか!

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体積は3倍くらい違う!?

疲れ知らずに愛知県の瀬戸市にあるカーザ・チンクエチェントに到着した。二度の充電時間は良い休憩時間になったし、それ以上に運転しやすく疲れないクルマだったからだ。これでもう少し安ければ我が家のパンダに代わる日常のパートナーになってくれるのに、などと思いながら敷地内にノーズを突っ込むと前に愛しのゴールド・マドンナがいた。

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電気自動車を降りて思わず駆け寄る。自分好みにこってりと塗られたゴールドのペイントコンディションを確かめるようにボディを撫でる。こだわりのタータンチェック・ロールトップにも触ってみる。ドアを開けて青いビニールレザーを軽く押す。京都の職人に仕上げてもらったホーンボタンやシフトノブ、センターコンソールの状態を確かめる。キーが付いていたので久しぶりにエンジンも勝手に掛けてみる。乾いたキュルキュル音と共に元気に目覚めた。昼寝から覚めて欠伸をしてからすり寄ってくる猫のように可愛らしい。

「2台を並べてみましょう」。編集者の声に我を取り戻す。オシゴトだ。カメラマンの指示に従って新旧“大きさと中身のまるで違う”チンクを並べてみた。体積にすると3倍くらいの開きがありそうだ。それでも血の繋がりは十分すぎるほど見て取れる。

改めて新旧2台を比べてみて、デザイン的に似ている箇所はたくさんあってそれは当然とは思ったものの、個人的に最も驚かされたのはこの景色のみせる空気感が想像以上にそっくりだったこと。結局のところエクステリアで意識を持ちインテリアで確定される“チンクな気分”がやっぱりハッピーの源なのであった。

とぼけた表情だけじゃない。丸っこいシルエットにウインドウの切り方、サイドのキャラクターライン、ドアの切り方、フェンダーアーチの場所、そしてテールエンドの流れ方。これらは全てパッケージングにも関連したデザインであり、今も昔も効果的なレイアウトには一定の美しき方程式のあることを示唆するものだ。

もちろん、500eをもっとクラシックに仕立てることはできたに違いない。けれども行き過ぎたクラシックの再解釈や再表現は時に陳腐なデコレーションに陥って、工業製品としての安心感や信頼感を損なう。今も昔も500は実用車なのであって、1970年式のチンクのように趣味で割り切れるようになるには半世紀という歴史が必要だ。

その点、500eなら問題ない。大きくなったとはいえ、現代のレベルで相対的に語ればこれでもなおコンパクト。震えるようなエンジンの振動も、素早く走らせるためのシフトチェンジテクニックも今となっては無縁で、そこは確かに寂しい気もするけれど、圧倒的に静かで心地よく、そこらのスポーツカーには負けないダッシュをペダルひとつで実現する魅力もまたデイリーカーとしては他に代えがたい。そして社会の充電器不足を嘆くより贔屓のガススタがわが家のガレージになる喜びという最大のメリット……。

何より見た目は誰がなんと言おうとチンクなのだよ、500e。笑顔で日々のドライブを始めることのできる幸せもまた、何物にも代えがたい個性や魅力だと思いませんか?

文=西川 淳 写真=望月浩彦 取材協力=チンクエチェント博物館

(ENGINE2025年7月号)

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