今回で日本での開催が記念すべき10回目を迎えたフェラーリの祭典、「フェラーリ・レーシング・デイズ2025」で、4月にワールドプレミアされた「296スペチアーレ」の日本初公開が行われた。展示されたのはクーペボディの1台で、ヴェルデ・ニュルブルクリンク(ニュルブルクリンクの緑)と呼ばれる296スペチアーレのためにつくられたグリーンのボディカラーをまとっていた。
クーペとオープンの2タイプ296スペチアーレは「360チャレンジストラダーレ」に端を発するV8およびV6のミドシップ・モデルをベースにパワートレインの出力アップなど高性能化を図ったスペシャル・バージョン。「GTB」ベースのスペチアーレと開閉式ハードトップを備えたオープン仕様の「GTS」をベースにしたスペチアーレA(アペルタ)の2タイプが用意される。
モア・ファン・トゥ・ドライブを目指すフェラーリ・ジャパンのドナート・ロマニエッロ代表取締役社長とともにアンベールに登壇したフェラーリS.p.Aヘッド・オブ・プロダクト・マーケティングのエマヌエレ・カランド氏によると、296スペチアーレは空力および走行性能を高めるとともに軽量化を施すことで、モア・ファン・トゥ・ドライブを目指したモデルで、よりフェラーリを知り、サーキット走行を含めて運転を楽しんでいる人に向けて製作したという。
カランド氏が296のエレガントな仕上がりをキープしつつもアグレッシブなイメージをプラスした外観は、歴代のV8ミドシップをベースにしたスペシャル・モデルよりも尖った印象が多少薄い。よりアグレッシブにしたがプッシュし過ぎないように気を付けたとカランド氏は付け加える。
特徴的なガンマ・ウイング360チャレンジストラダーレや「458ピスタ」など歴代のスペシャル・モデル同様、レーシングカーを彷彿させるようなウイングなどの大きな空力付加物は装着されていないが、ワンメイクレース用の「296チャレンジ」にも採用されている床面からボンネット上部に空気を流すことで空力性能を高める「エアロダンパー」をはじめ、拡大されたフロント・スプリッターやGTBに対して12%面積が広くなったフロント・バンパーグリル、新形状のリア・ディフューザーなどを装着することで空力性能の向上を図っている。
その中でも特に目を惹くのがリア・フェンダーの後端に装着された小型のリアサイド・ウイングだ。ボディサイドから続くその形状がギリシャ文字の「Γ」(ガンマ)に似ていることからガンマ・ウイングとも言われており、もちろん空力に効果を発揮するだけでなく、296スペチアーレのデザインにおける大きなアクセントになっている。これらの改良により、296スペチアーレはGTB比でプラス20%となる435kgのダウンフォースを250km/h時に得ることができるという。
50psアップの880psベースモデル同様、3.0リッターV6ツインターボに1基の電気モーターを組み合わせたプラグイン・ハイブリッドを搭載。ただし、エンジン、モーターともに出力向上が図られ、システム総合出力は50psアップとなる880psを誇る。カランド氏はこれが後輪だけで駆動する場合のほぼ上限だという。
663psから700psへと37psアップしたエンジンは296チャレンジ用のエンジン制御を採り入れたほか、チタン製コンロッドの採用、クランクシャフトの軽量化などの改良が施されている。モーターも167psから180psへと13ps向上。ちなみに、モーターだけで最高速度135km/h、航続距離25kmの走行が可能だ。変速機はベースモデルと変わらず、デュアルクラッチ式自動MTを搭載する。
60kgも軽い296スペチアーレの性能向上に大きく寄与する軽量化はGTB比で60kg軽減。、カーボン製パーツを多用した外板をはじめ、ル・マン3連覇を果たした「499P」と同じ手法を用いた1.2kg軽くしたエンジンブロック、同じく1.2kg軽くなったターボチャージャー、市販車初採用となるボルトやスタッドボルトにチタン製を用いることで1.9kgの軽量化を図ったシリンダーブロックとシリンダーヘッドなどパワートレインまわりにまでに及ぶ。
シャシーにももちろん手が加えられている。296GT3から発生した可変ダンパー、チタン製スプリングの採用だけでなく、ジオメトリーも再設定。これらの変更により、最大横加速度はGTBより4%アップし、最大ロール角も13%減少している。車高も5mm低い。
価格は、クーペのスペチアーレが5911万円、オープンボディのスペチアーレAが6715万円。限定販売ではないものの、日本市場に導入される分はすでに完売している。

文=新井一樹(ENGINE編集部) 写真=フェラーリ・ジャパン