2025.04.13

CARS

フェラーリ12チリンドリ・スパイダーにポルトガルで試乗! “人馬一体感”は、常に風と音を身近に感じているスパイダーの方がより強くなる

フェラーリ12チリンドリ・スパイダー

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昨年5月に米マイアミでデビューしたフェラーリの新フラッグシップ、12チリンドリ。9月のルクセンブルクを舞台にしたクーペの国際試乗会に続き、今度はスパイダーのそれがポルトガル・リスボン周辺で開かれた。果たして、その走りはどうだったか? エンジン編集部のムラカミが報告する。

スパイダーに相応しい風

ルクセンブルクでのクーペ・モデルの国際試乗会では、山の中のワインディング・ロードを延々と走り続けたのに加えて、グッドイヤーのテスト・コースで、さらにタイトなコーナーを攻め、直線で300km/h近いスピードを出すハードなプログラムが組まれていたものだから、夏に骨折した肩がまだ完治しないうちに参加した私は、持てる力をすべて使い切り、言葉も出ないくらいヘトヘトになったのを憶えている。



そこから一転、今回のポルトガルで行なわれた12チリンドリ・スパイダーの国際試乗会は、午前中はリスボン市内を観光して、国民詩人フェルナンド・ペソアの足跡を辿り(名前さえ初耳だったが、驚きの発見がたくさんあり、このツアーがすこぶる面白かった)、午後に風光明媚な海沿いの道を中心にスパイダーに乗るという、誠に優雅なプログラムが用意されていた。パフォーマンスとコンフォートのパーフェクト・バランスを謳う12チリンドリだが、クーペの時はパフォーマンス性能をより強調していたのに対し、スパイダーではどうやらコンフォート寄りのアピールをしようということらしい。

クーペ同様、運転席と助手席が独立して繭に包まれたようなデザイン。

試乗前夜のディナーの際に、なぜこの地をスパイダーの試乗会の舞台に選んだのかと尋ねたら、広報担当者の口からは、「景色や道の良さもあるけれど、なによりも大西洋から吹きつける激しい風が、このスパイダーに相応しいと思ったからだ」という答えが返ってきた。その時は、ずいぶん変なことを言うものだと思ったけれど、翌日に実際に走ってみると、「なるほど、その通りだ」と深く頷かされることになったのだ。

スパイダーはシートにネック・ウォーマーを装備。

古典と未来の融合

その理由はあとでじっくり述べるとして、今回の試乗会に用意されていたスパイダーは全車同じヴェルデ・トスカーナ、すなわちトスカーナの緑と名づけられたボディ・カラーを纏っていた。クーペの試乗会の時のジャッロ・モンテカルロ(モンテカルロの黄色)も素敵な色だったけれど、フェラーリといえば赤というイメージから離れたこういうシックな色の選択は、大人のクーペ&スパイダーである12チリンドリに誠に相応しいものであると思う。

そして、スパイダーのインテリア・カラーは、テッラ・アンティーカ(古代の土の色)。これまたトスカーナの緑にピッタリとマッチする、素晴しい選択だと思った。



クーペもスパイダーも、1968年のGTB4デイトナにインスパイアされたフロント・マスクを持ちながら、その一方で、フロント、ルーフ、リア・ウイングにブラック・アウトされたアクセントを持ち、クラシックにフューチャリスティックな要素を融合させたデザインになっている。なによりも、このデザイン・テイストを崩さないために、スパイダーでもソフト・トップではなく、リトラクタブル・ハードトップを選んだということらしい。

リア・ウインドウは風仕舞いに効く。

クーペとスパイダーの違いは、ルーフからリア・エンドにかけて、クーペではまるで宇宙船のような造形になっているのに対して、スパイダーではルーフが収まるトノー・カバーの上に2本の大きなフィンが付いていることで、クラシックな趣が強いデザインになっている。

どちらがいいか、好みが分かれそうだが、クラシックな部分とフューチャリスティックな部分が別々に存在するようなクーペのデザインよりも、それがより自然に溶け合っているこのスパイダーのデザインの方が完成度が高いように私は感じている。

サーフィンのメッカで

試乗はまず海沿いの道から始まった。この日はとても良く晴れた絶好のドライビング日和だったが、海を見るとかなり波があるのがわかる。実はこのあたりはサーファーの間ではよく知られたサーフ・スポットなのだそうで、大西洋からの強い風が絶好の波を作るのだという。

ルーフは時速45kmまでなら、走りながらでも開閉できるが、そんな強風を横から受けても、私は屋根を閉じようとはまったく思わなかった。両サイドの窓と、ウインド・ディフレクターの役割もする垂直のリア・ウインドウを上げていさえすれば、風の巻き込みなどまるで感じなかったからだ。なるほど、この快適性を味わわせたくて、この地を国際試乗会の舞台に選んだということか、と私は深く頷いたのだった。

リトラクタブル・ルーフは軽量かつシンプルな構造で、時速45kmまでなら走行中でも14秒で開閉可能だ。クーペの270リッターには及ばないが、ルーフの開閉に関係なく200リッターの荷室が確保される。

快適性といえば、乗り心地の良さも、この手のスーパースポーツカーとしては異例と言っていいほどに素晴しいものだった。これはクーペに乗った時にも感じたことだが、プロサングエを開発して以降のフェラーリは、何か技術的に大きな進化を遂げたのではないか。パフォーマンス性能はもちろんだが、それと同時にコンフォート性能を一気に向上させてきているのだ。クルマの動きのすべてがスムーズそのもので、乗っていてストレスを感じさせられる部分がまったくない。

スパイダーの乾燥重量は1620kgで、クーペより60kg重くなっている。しかし、サスペンションのセッティングはバネもダンパーもレートはまったく同じで、あとはマグネティック・ライド・コントロールを始めとするマネッティーノのコンピューター制御に任せているというが、ステアリング・ホイール上のマネッティーノのダイヤルでウェット、スポーツ、レースのどのドライビング・モードを選んでも、路面からの突き上げに襲われることはなかったし、逆に緩さを感じることもなかった。

シャシーは総アルミニウム製で、ホイールベースは812GTSより2cm短い。

812GTSよりも35kg重くなったものの、ねじり剛性を15%アップさせたというアルミニウムのスペースフレームを使ったシャシーの出来映えも素晴しく、ボディの剛性感の点でも、スパイダーゆえの不足はまったく感じられない。オープンカーを選ぶことはパフォーマンスを犠牲にすることだというのは、もはや過去の話になったのだと思った。

とてつもない“人馬一体感”

適度に風を感じながら、ユーラシア大陸の最西端に位置する海沿いの道を最新のフェラーリ・スパイダーでゆったりと走ってオープン・ドライブを楽しむ。こんな贅沢な話はないのだが、せっかくの機会なので車名にもなっている12気筒エンジンも、もっと回して楽しみたい。そう思っていたら、ちょうどいいことに、撮影のために待機していたカメラマンが試乗コースからはずれた山道に連れて行ってくれた。

フロント・ミドシップに搭載される自然吸気6.5リッターV12気筒のレブ・リミットは9500rpm。最高出力の830psを9250rpmで叩き出す。むろん、そこまでは無理としても、アクセレレーターをちょっと踏んでやれば、12気筒の気持ち良さは十分に味わえる。フツーに流している分には2000rpmも回していれば十分なトルクが得られるが、そこから右足に力を入れていくと、3000rpmあたりでフロントから聞えるエンジン音とリアから聞える排気音が変化していき、5000回転を越えたあたりからはフォーンという素晴しいサウンドになってルーフのない室内にダイレクトに飛び込んでくる。自然吸気ゆえの息の長い加速感を、回転数が上がるに連れて変化するサウンドとともに味わえるのは、スパイダーならではの醍醐味だ。

タイヤはミシュラン・パイロットスポーツ5Sとグッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツが用意されるが、試乗車は前者を履いていた。

そして、山道を走りながら驚いたのは、全幅が2176mmもある巨大なスポーツカーであるにもかかわらず、とてつもないくらいの“人馬一体感”が得られることだった。クーペで山道を走った時にも感じたのだが、12チリンドリはこれだけ長いフロント・ノーズを持っているとは思えないくらいに、コーナーに進入していく時のクルマの動きがスムーズである。ロング・ノーズ、ショート・デッキのスポーツカーにありがちな、先にノーズが入って、遅れて自分が曲がっていく感覚がない。これは812より2cmホイールベースが短くなり、後輪操舵が付いたことが効いているのかも知れないが、まるでもっと小さなスポーツカーに乗っているかと錯覚するような運転感覚がある。そして、その“人馬一体感”は、クーペより、常に風と音を身近に感じているスパイダーの方がより強くなるのだということが、今回の試乗でよくわかった。

山道での撮影で遅れをとったため、そこからはルーフを閉じて帰路を急ぐことにした。運転席と助手席の頭の上は、ドームのようにえぐれた形状になっていて、ルーフを閉じても窮屈な感じはないし、クーペと変わらない感覚である。ルクセンブルクで走ったようなクローズド・コースを攻めるのならともかく、一般道を走る限りでは、1台でどちらも楽しめるスパイダーに分があるかな、などと考えながら、夕暮れの高速道路をホテルに向けて走っていった。

文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=フェラーリS.p.A

▼エンジン編集部ムラカミの解説&インプレッション動画もぜひご覧ください



■フェラーリ12チリンドリ・スパイダー
駆動方式 フロント・ミドシップ縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4733×2176×1292mm
ホイールベース 2700mm
乾燥重量 1620kg
エンジン形式 直噴V型12気筒DOHC
排気量 6496cc
ボア×ストローク 94.0×78.0mm
最高出力 830ps/9250rpm
最大トルク 678Nm/7250rpm
トランスミッション デュアルクラッチ式8段自動MT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) ダブルウィッシュボーン/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式カーボンセラミック・ディスク
タイヤ (前)275/35R21、(後)315/35R21
車両本体価格(税込み) 6241万円~

(ENGINE2025年4月号)
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