コカ・コーラがアトランタで誕生してから140年余り、和漢方のレシピを取り入れた東京発のクラフトコーラが話題を集めている。ジャンクなイメージを一新させる味わいはコーラ好きだけでなく、苦手だった人にもインパクト大!
そもそもコーラは東洋×西洋の薬だった
「風邪気味なんですけど」
「コーラを飲んでおきなさい」
別に中途半端なコントではない。スイス在住の日本人が実際に医者で言われた言葉。軽症でも必ず薬を処方する日本とは異なり、ヨーロッパではコーラは薬の一種として認識されている。ファーストフードやスナックのようなジャンクなものという見方は一面的だ。
コーラの歴史を紐解いてみよう。源流は1886年のアメリカ合衆国ジョージア州アトランタ、他ならぬ薬剤師のジョン・S・ペンバートンの発明だった。当時は南米産のコカの葉とアフリカ産のコーラナッツを使った飲料水で、前者の覚醒作用があるコカイン(微量)、後者のカフェインと独特の苦みから、当初は薬局で滋養強壮剤として売られていたそうだ。
コカ・コーラの名前の由来はこのふたつの成分に由来する。本格的な人気を集めたのは、薬っぽさを爽やかさに変える炭酸水を加えたことから。やがてコカの成分は取り除かれ、アメリカ文化の普及に伴ってグローバルなノンアルコールドリンクとなった。
甘い清涼飲料水は数多くあるが、世界中で飲まれるようになったこと、そして多くのコピーを生んだことの背景には、「なんか体に良さそう」という薬ならではの奥深さ、言い方を変えればミステリアスなニュアンスがあるだろう。
▲シロップは45mlを3倍の炭酸水で希釈する。ミルクや焼酎、ウイスキーやラムで割ったり、アイスクリームやパンケーキにかけたりと応用レシピはさまざま。左/THE JAPAN EDITION Sサイズ(100ml)1400円 右/THE DREAMY FLAVOUR Sサイズ(100ml)1200円
「コーラは東洋的な素材を西洋流に解釈したドリンクです」
今回紹介するイヨシコーラ代表の小林さんはそう語る。奇しくも小林さんの祖父は、新宿区下落合で和漢方薬を調合する「伊良葯工(いよしやっこう)」という工房を営んでいた。もともと小林さんは大好きなコーラを独学でつくっていたが、残されていた祖父の調剤方法に着目。和漢方の製法からインスピレーションを得たクラフトコーラづくりを開始した。
「通常のコーラは漢方薬の原料でもあるコリアンダーやクローブ、ナツメグから抽出した香料を使用しています。そこでイヨシコーラでは香料ではなく、元の素材をそのままを生かしてつくろうと思いました」
素材を丸ごと使う——これは確かに漢方的なアプローチだ。さまざまな試行錯誤の末、これまでのコーラとはまったく異なるものが生まれた。供される際はパウチにコーラのシロップを入れ、強めの炭酸水やミルク(!)が注がれる。それをストローで撹拌しながら飲むのだが、ひと口めに感じるのは形容しづらい微かな薬っぽさ。だが、抑えた甘みと適度な炭酸の効果もあって不快感は皆無で、すぐに心地よさに変わる。口中で五味が巧みにブレンドされ、「体にいいもの」が隅々まで行き渡るようだ。
▲オーナーの小林さん。イベント会社に勤務後、脱サラをしてブランドを立ち上げた。
▲コーラ×ミルクの想定外の組み合わせ。やわらかな甘みが絶妙にマッチする。イヨシミルクコーラ700円。同様のパウチでTHE DREAMY FLAVOUR 600円、THE JAPAN EDITION 700円もラインナップ。
江戸時代から続くエンタメの本拠地、浅草に新店舗をオープン
さまざまなスパイスや生薬を使った絶妙のブレンドは、まさにクセになる大人の味わいと言っていい。定番はレモンライムが爽やかなTHE DREAMY FLAVOUR、外国人に人気なのがゆずや山椒を使ったTHE JAPAN EDITIONで、それぞれ瓶入りのシロップでも販売中。
特に注目なのは冬虫夏草や高麗人参などの高級素材を配合したTHE GOLD EDITIONだ。250mlで1万800円という金額には驚くが、とっておきの滋味を試す価値は大いにある。
▲缶入りのイヨシコーラ(左 250ml 300円)は銭湯やキャンプ施設でも販売している。販売当初から話題を呼び、2018年にフードトラック、2020年に祖父の工房と同じ下落合に路面店、2021年に神宮前のキャットストリートに2号店と順調に店舗を拡大してきた。そして今年6月に「イヨシコーラ 浅草六区店」をオープン。浅草ROXの側という好立地だ。
▲昔からあった大人のおもちゃ屋をリノベーションした。随所に残る改装前の痕跡も味がある。「江戸時代、浅草は文化の中心でした」と、小林さんは三店舗目の出店先に浅草を選んだ理由を土地の歴史に紐づけて語る。「武士の文化や東京のカッコよさを、コーラを通じて表現していきたいと思っています」
小林さんは本家であるアメリカへの進出を目標に掲げる。ちなみにイヨシコーラのブランドロゴはカワセミ。鳥でありながら水へ飛びこんで魚を獲る姿に、限界を打ち破るチャレンジ精神を重ねた。SNSで知ったのか、取材中も多くのインバウンドの顧客が足を運んでいるのを見るにつけ、それは決して泡のごとく消える夢ではなさそうだ。
まだまだ酷暑が続く今、日本発のイノベーティブなコーラで心身ともにエネルギーをチャージしてみたい。
■イヨシコーラ 浅草六区店
台東区浅草1-24-8 営業時間:13時~18時 無休
https://iyoshicola.com
文=酒向充英(KATANA)
(ENGINE Webオリジナル)