「誰も見たことのないクルマ」をそっくりモデルカーにするメーカーがドイツにある。創業して10数年程度、マニアックなセレクションで人気を集めるブランドをご紹介!
ポルシェ、マイバッハ、ランチアにこんなクルマが!?
「私は失敗したことがない。ただ、1万通りのうまく行かない方法を見つけただけだ」とはかの発明王、トーマス・エジソンの言葉だ。とはいえ、ひとりの天才が自分のラボにこもってトライ・アンド・エラーを繰り返す分にはまだいいが、一台の開発に莫大な予算とマンパワーがかかるクルマについてはそう簡単ではない。大ヒット、そこそこ売れた、イマイチという結果如何に関わらず、市場に流通しただけでもラッキー。ほとんど知られず消えていったクルマはその何倍もある。
ドイツのモデルカーブランド、オートカルトはそうした歴史に埋もれたモデルをミニチュアで再現するユニークなメーカーだ。キーワードは“Unknown”。すなわちネットで検索しても出てこないようなモデルをあえて選ぶ。プロトタイプやコンセプトカー、試作品のレベルにとどまらず、誰かがオーダーしたカスタムカー、果てはドローイングでとどまったものまで立体化する。素材はすべてレジン。通常のミニカー、モデルカーに使われるダイキャストよりも精密さや質感に秀でているが、ダイキャスト製の金型に比べてレジン製はゴム型のため、耐久性に欠けるのが難。
大量生産には向かないこともあり、各モデルはきっちり333台と限定されている。3並びはゲン担ぎかも知れないが、確かに少量生産ではあるだろう。それでも多くて数台、なかにはカタチにすらならなかったオリジナルに比べれば、はるかに恵まれている。関わった多くのデザイナー、エンジニアの無念さも、わずかながら報われたというべきか。
それでは、日本で購入できるおすすめのものを挙げてみたい。
オペル ブリッツ ルードヴィッヒ エアロ (1934年 ドイツ)
地を駆ける飛行船・・・のようなバス

オートカルトのサイトにつけられたキャッチコピーが“Der fahrende Zeppelin(ドライビング・ツェッペリン)”。ツェッペリンと聞いてロックバンドしか思いつかない人は航空史をおさらいしよう。
もともとは第二次世界大戦前にドイツが開発した巨大な飛行船「ヒンデンブルグ」をつくった会社。確かにこのバスの形は小さな飛行船を連想させる。オペルのブリッツというトラックのシャーシを使用しているが、特異なのは全体を鈑金で覆ったこと。当時でもバスに使用されることはなかったという。
ちなみに担当したのはルードヴィッヒという兄弟が経営するコーチビルダー。飛行船は地上にいるような感覚で空の旅を楽しむセレブな乗り物だが、このバスも外の景色がゆっくり眺められるよう、45°の角度で回転する椅子を備えていたようだ。その分、定員も他のバスに比べて制限されていた。
記録では生産はわずか4台ほど。本家ツェッペリンの飛行船は歴史に残る事故で消えたが、こちらのほうはいつの間にかフェードアウトした。オペル ブリッツ ルードヴィッヒ エアロ 1934 レッド/シルバー 1/43 ¥44,000
ルノー リーニュ フレッシュ (1963年 フランス)
まるで矢印、向かう先は反アメリカ

1960年誕生のシボレー・コルヴェアは、それまでの曲線を基調としたカーデザインを一新させる水平ラインで革新を巻き起こした。それに対してフランスのデザイナー、ロベール・ブロワイエが反旗を翻す。「コルヴェアのデザインはダイナミズムに欠ける」として生み出したのがこのリーニュ・フレッシュ、訳せば矢のラインだった。
フロントからリアのピラーまで角度をつけて持ち上げ、そこから一気にダウン。カクカクとシェイプを利かせたフォルムは斬新というより奇抜で、フランスならではのアメリカへの屈折した対抗心の象徴と見るのは考えすぎか。実現には至らなかったものの、このアイデアは後のルノー12に生かされた。ルノー リーニュ フレッシュ 1963 ブラック 1/43 ¥30,250