2025.10.25

LIFESTYLE

シャガールもピカソも超える 葛飾北斎は令和も大活躍!

「HOKUSAI-ぜんぶ、北斎のしわざでした。展」が開催中。『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』 個人蔵

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展覧会も映画もグッズも大盛況。いま、今年も北斎が熱い。『HOKUSAI-ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』が話題を呼び、10月17日(金)には長澤まさみ主演の映画『おーい、応為』も公開。時代を超えて注目を集めるのは、90歳目前まで筆を置かなかった奇才・葛飾北斎だ。

天才画家は長生き?

シャガール98歳、バルテュス92歳、ピカソ91歳。なぜか画家には長寿な人が多い。理由には諸説あるが、絵を描くことが頭頂葉、前頭葉など脳を活性化させ、老化を食い止めるらしい。それでも生活環境や医療インフラの影響は少なくないだろう。

先に挙げた3名は主に20世紀に生き、活躍した。そう考えると、日本人の平均寿命が約45歳だった江戸時代後期、90歳近くまで絵筆を握り続けた葛飾北斎の存在は驚異的だ。浮世絵にとどまらず、ジャンルレスに描いた作品数は3万点を優に超える。

また、奇人としての逸話も事欠かない。生涯で93回とも伝えられる引っ越し歴、ゴミ屋敷のような借家での創作活動、洒落っ気など無関係のがさつな見てくれ。ただひたすら画業に精魂を尽くす純粋さは晩年に至るまで尽きることなく、75歳の『富嶽百景』序文で「90歳で奥義を極め、100歳で人知を超え、その後百数十歳で描いたものが生きているようになるだろう」と目標を定め、80代で「自分は猫一匹まともに描けない」と言って涙を流し、今でも大往生と言っていい年齢での臨終の際には「あと5年あればホンモノの画家になるのに」と無念を隠さなかったという。

『唐詩選画本 七言律』 浦上蒼穹堂蔵
▲葛飾北斎『唐詩選画本 七言律』 浦上蒼穹堂蔵

『画本東都遊』 浦上蒼穹堂蔵

▲葛飾北斎『画本東都遊』 浦上蒼穹堂蔵

『椿説弓張月』続編 巻之三 浦上蒼穹堂蔵
▲葛飾北斎『椿説弓張月』続編 巻之三 浦上蒼穹堂蔵

ドラマでも人気 俳優の名演技を引き出すキャラ

こうした人物像はドラマチック極まりなく、これまでも多く映像化されてきた。記憶に新しいところではNHK大河ドラマ「べらぼう」でのくっきー!、そして現在公開されている映画「おーい、応為」では永瀬正敏。後者の主役は娘の応為(おーい)ことお栄。

父親の血を引き継いだ変わり者という設定には似合わない美しさを見せる長澤まさみに対し、永瀬は壮年期から最晩年期をさまざまなメイクで演じている。主役でなくても見せ場いっぱい、オファーされる側は役者冥利に尽きる役と言っていいだろう。



▲写真家としての顔を持つ永瀬正敏が、感性豊かに初老期から最晩年までの北斎を演じている。映画「おーい、応為」 監督・脚本:大森立嗣 長澤まさみ 永瀬正敏 配給:東京テアトル、ヨアケ 公開中
(C)2025「おーい、応為」製作委員会

代表作のビッグウェーブはお札からインクまで押し寄せる

売れっ子過ぎたことと作品数の膨大さが災いしてか日本でのアカデミックな評価はイマイチだった。そんな潮目が大きく変わったのは1998年、アメリカの写真誌『LIFE』で「この1000年で最も偉大な業績を挙げた世界の人物100人」に選ばれたこと。これがきっかけとなったのか、2000年を越える頃から頻繁に展覧会が開かれ、メディアでの特集が組まれるようになるなど、再評価の機運が一挙に高まる。

北斎は群を抜いて作品数が多いだけでなく、描く対象も多岐に渡った。美人、豪傑、役者などの人物画、動物や植物、はてはお化けまで。どれも高い水準だが、北斎といえばやはり名所絵と呼ばれた風景画は見逃せない。

特に傑作揃いの「冨嶽嶽三十六景」の中でも「神奈川沖浪裏」(かながわおきなみうら)はレベルを越えている。新札1000円の裏、日本国パスポートの査証ページ、フランスの切手という国家レベルの公的なものから、サーフブランドのロゴ、LEDライト、インクのモチーフになるなど、現在も引用され続けている。ここまで幅広くアレンジされるアートは世界的にも稀だろう。




▲グラビア印刷を手掛けるメーカーが開発したLEDライト。通常の印刷で使われる4色ではなく、10色の特色を独自に作成。色の重なりや質感まで忠実に再現した。上/『神奈川沖浪裏』 下/『凱風快晴』1万6500円(モシャコレ/大和グラビヤ) 


▲北斎ならではのダイナミックな構図、鮮やかで大胆な色使いをイメージ。各作品をイメージしたカラーをラインナップ。パッケージもマット調に仕上げている。歌麿や写楽、広重もあるが、特に北斎のものは人気とか。浮世絵インク  1936円(TACCIA/ナカバヤシ

北斎の魅力、スケールを語るにはまだまだ紙幅が足りない。最後に現代の浮世絵師として活躍し続ける石川真澄氏の適確な視点で集約してみたい。

「浮世絵は時代に寄り添いその時の需要に応えながら発展した庶民の文化ですが、北斎はこの枠にとらわれずに森羅万象、この世界の理を描くことに情熱を注いだことが今日における北斎の作品がもつ普遍性に繋がるのだと思います」

北斎の画号は北斗七星に由来するという。星そのものではないものの、1991年に発見された水星のクレーターはHOKUSAIと名付けられている。100歳の長寿は叶わなかったが、死後150年たっても現役のような活躍ぶりに、空の上から「してやったり」と笑っているに違いない。

文=酒向充英(KATANA)

「HOKUSAI-ぜんぶ、北斎のしわざでした。展」

〜11月30日( 日 )まで 
CREATIVE MUSEUM TOKYO 東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 6F [開館時間]10:00-18:00 [東京・京橋] ※毎週金・土曜および祝前日は20:00まで開館 ※最終入場は閉館の30分前まで 会期中無休  

(ENGINE Webオリジナル)

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