2025.11.15

LIFESTYLE

これは魂が震える映画だ 『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』 アメリカ・ロック界スーパースターの真実の姿

この秋、最大の注目映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』。スーパースターの真実の姿に魂が震える。

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1970年代にデビューして以来、半世紀以上にわたって第一線で活躍し続けるブルース・スプリングスティーン。その輝かしき栄光の陰に隠されていた、世界的ミュージシャンの苦悩を描く異色の伝記映画が公開された。この秋、最大の注目映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』に描かれた"ボス"の真実の姿とは?

勇気あるアルバム『ネブラスカ』

全世界で1億3500万枚以上のレコード・セールスを記録するアメリカ・ロック界の重鎮、ブルース・スプリングスティーン。この“ボス”の愛称で親しまれるスーパースターがある時期、深刻なうつ状態に陥っていたことを知る人は、熱心なファン以外は少ないことだろう。

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『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』は、『ボーン・イン・ザ・U .S .A .』が世界的に大ヒットする前夜、自身の創作活動における葛藤と、誰からも理解されない精神の病に苦しんでいた“ボス”の姿に焦点を当てた、異色の伝記映画だ。

物語が始まるのは1981年秋。最新アルバム『ザ・リバー』が大成功し、レコード会社からも次なるヒット作を切望されていた時期である。しかし本人はそんな周囲の期待に背を向け、故郷ニュージャージー州にある小さな村に移り住む。そして4トラックの録音機を手に入れた彼は、自宅の寝室で1本のマイクと向き合いながら、きわめてパーソナルなアルバムをつくりはじめる。スプリングスティーンの長いキャリアの中でも、最も実験的かつ勇気のあるアルバムとされる『ネブラスカ』だ。



デモ音源をそのままミキシングして完成させたアルバムは、レコード会社の反発を受けながらも、全米チャートで3位を記録した。映画ではその制作や発売までの経緯が詳細に綴られる。

一方、ミュージシャンとしての名声が高まるつれ、本人は深い孤独を抱えるようになり、自身の家庭環境に起因するトラウマに苛まれることとなる。それは家族に愛情を注ぐ術を知らない、抑圧的な父親の記憶からくるものだ。本作では、同じくうつ病を抱えていた父親の苦悩を我がことのように理解し、そして赦していくプロセスが描かれる。



本作の主役として、類まれなる才能をもったミュージシャンのカリスマ性と、人間としての脆さを表現したのはジェレミー・アレン・ホワイト。時折見せる表情が若かりし日の本人にそっくりなうえ、劇中の歌唱を自身で行っているのにも驚いた。

ちなみに今なお精力的にライブ活動を行っているスプリングスティーンは今年で76歳。その音楽の魅力を深く知るうえでも興味深い作品だ。

文=永野正雄(ENGINE編集部) (C)2025 20th Century Studios



■『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』

原作は、ウォーレン・ゼインズが2023年に発表した著書『Deliver Me form Nowhere』 。英雄物語のような描写を避けることを条件に今回の映画化を許可したという。主演のジェレミー・アレン・ホワイトは、アメリカのTVシリーズ、『一流シェフのファミリーレストラン』でゴールデン・グローブ賞を獲得した注目株。本作で猛特訓を受けるまで、ギターを弾いたことがなかったという。監督は『クレイジー・ハート』で高評価を得たスコット・クーパー。120分。11月14日(金)全国ロードショー。配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

(ENGINE2025年12月号)

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