東京ビッグサイトで開幕した「ジャパン・モビリティ・ショー2025」。その広い会場のなかで、数少ない輸入車ブランドとして存在感を放っていたのがメルセデス・ベンツだ。
ブース中央に置かれた真っ赤な一台で日本初公開となる新型CLAは、来場者の視線を集めていた。本国から来日したプロダクトエキスパートへの取材を交えながら、その全貌をリポートする。

冒頭、マイクを握ったメルセデス・ベンツ日本合同会社社長兼CEOのゲルティンガー剛氏はこう語った。 「来年、日本市場に新型CLAを導入します。このクルマは、現在メルセデスが提供するモデルの中で最もインテリジェントなクルマです。ぜひご期待ください」
この言葉に象徴されるように、新型CLAは単なるモデルチェンジではない。新開発の電動専用プラットフォーム「MMA(Mercedes Modular Architecture)」を採用し、次世代のメルセデスを象徴するモデルとして設計された“未来のエントリーモデル”なのだ。ゲルティンガー氏の語気からも、その本気度がひしひしと伝わってきた。
「革命です」。プロダクトエキスパートが語る新型CLAの真価
プレスカンファレンス後に開催されたウォークアラウンドでは、新型CLAのプロダクトエキスパート、レナ・ブルネンバーグ氏が登場。開口一番、こう切り出した。 「まず最初にお伝えしたいのは、このクルマは単なる進化ではなく“革命”だということです。これはメルセデスがこれまでに作り上げたコンパクトカーの中で最も完成度の高いパッケージであり、ブランドの未来を再定義するモデルになります」
彼女の言葉通り、新型CLAにはメルセデスの電動化戦略が凝縮されている。

スポーティなプロポーションと驚異の空力性能
ロングホイールベースに低く構えたウィンドウライン、鋭く切り立ったシャークノーズのフロントマスク。リアにはAMG GTを彷彿とさせるワイド&ローの造形が与えられている。さらに、Cd値(空気抵抗係数)0.21という業界トップレベルの空力性能により、消費電力は100kmあたりわずか12.2kWh、航続距離は最大792km(WLTP)を達成している。
フロントフェイスでは、メルセデスの市販車で初採用となるフルイルミネーションのスターライトパネルが目を引く。142個のLEDを内蔵し、乗車時や走行中にアニメーションで光が流れる演出により、クルマと人とのインタラクションを生み出している。また、夜間でもひと目で“新世代メルセデス”とわかるアイコン性も魅力だ。

MBUXスーパースクリーンによる、次世代の車内体験
だが、新型CLAでもっとも強烈な印象を残すのは、車内に足を踏み入れた瞬間だろう。インテリアには「MBUXスーパースクリーン」が横一枚に配置され、10.25インチのドライバーディスプレイ、14インチのセンターディスプレイ、14インチのコ・ドライバーディスプレイが一体化したインパネを構成している。

画面に触れると、滑らかに動くアニメーションと高いレスポンスが指先に伝わってくる。その背景では「MB.OS(Mercedes-Benz Operating System)」がすべてを統合制御。Googleとの協業によってGoogle Mapsがネイティブ統合され、走行履歴や充電状況に合わせた最適ルートの提案も行われる。単なるナビゲーションではなく、移動に寄り添う“インテリジェントアシスタント”へと進化しているのだ。
また、新型CLAは大型OTA(Over-The-Air)アップデートに対応し、購入後も車両のソフトウェアが更新される。“クルマが古くならない”という新たな価値を提供する点も注目に値する。
驚異の充電性能と、EV専用2速トランスミッション
電動パワートレインには、新時代の技術が惜しみなく投入されている。新型CLAは800Vアーキテクチャを採用し、最大320kWの急速充電に対応。CLA 250+ではわずか10分で325km分の電力をチャージできるという。これはガソリン車の給油に匹敵する利便性だ。
さらに注目すべきは、EVでは珍しい2速トランスミッションの採用だ。従来の電気自動車は単速ギアが主流だが、新型CLAは1速を発進・低速域の加速に、2速を高速域の効率向上に振り分けたことで、EVながらにドライバビリティと静粛性の両立を実現している。
ブルネンバーグ氏はこう語った。
「CLAは、効率性、デザイン、テクノロジー、そしてドライビングの楽しさを融合したクルマです。私たちは数字だけでなく、日常での体験価値を重視しています」
価格と機能の競争を超えて「体験価値のEV」へ
現在、電気自動車市場においては、航続距離や価格といった定量的なスペックが競争の焦点となっている。世界ではテスラやBYDがその最前線を走っているが、そこにメルセデスが提示したのは、スペック競争ではなく体験価値の追求という新たなアプローチだ。
プレスデーでは、新型CLAの前から人だかりが途切れることはなかった。その静かな熱気こそが、このクルマに託された期待の大きさを物語っている。合理性と美しさを併せ持ち、未来のメルセデス像を体現する新型CLA。来年、日本の道を走り出すその姿を見る日が、待ち遠しい。
文=佐藤 玄(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦/佐藤慎吾(ENGINE編集部)/メルセデス・ベンツ
(ENGINE Webオリジナル)