サンセットビーム・オレンジのボディは、ライトに照らされるたびに色の深さを変えて輝き、まるで生き物のように存在感を放ちながら観客を釘付けにしていた。その印象は、単なるコンセプトカーという枠を超えている。この一台には、AMGが未来に向けて積み上げてきた技術と哲学が凝縮されており、「AMGはこれからも情動を裏切らない!」という強い意思表明そのものだった。
CEOが語るAMGの本質。「AMGは感情で選ばれるブランド」
プレスカンファレンスのステージに立ったのは、Mercedes-AMG CEOのマイケル・シーベ氏だ。満場の聴衆を前にしたプレゼンテーションの冒頭で、彼はこう切り出した。
「AMGを購入するというのは、いつだって感情的な決断です。なぜならAMGはただの移動手段ではありません。生きている実感を与える存在だからです」 その言葉には、AMGを単なる高性能車メーカーとして扱われることへの抵抗と、ブランドへの確信が込められていた。
さらに続けてこう語る。
「自動車業界がEVへと向かおうとも、我々はドライビング・パフォーマンスという本質を見失いません。それはスローガンではなく、文字通りブランドの核なのです」


プレゼンテーションで披露されたGT XXは、その象徴といえる存在だ。3基のアキシャル・フラックス・モーターを搭載し、システム総合出力は1360馬力超。最高速度は360km/hを上回る。さらに、わずか5分で最大400km分の電力を充電できる急速充電性能や、Cd値0.198という空力特性も兼ね備えている。
もちろん、これらのスペックは驚異的だ。しかしシーベ氏は、数字そのもの以上に「感じる性能」、つまり走りがもたらす情動を重視していると強調した。
なぜアキシャル・フラックス・モーターが必要なのか?
GT XXに採用されたアキシャル・フラックス・モーターは、従来主流であるラジアル・フラックス・モーターに比べ、小型・軽量でありながらパワー密度は3倍に達する。さらに、F1の技術を受け継ぐ直接冷却式高電圧バッテリーにより、急速充電時でもサーキット走行時でも発熱と出力を最適制御。つまり“瞬発力”だけでなく“持続力”まで備えたパワートレインなのである。
「EVは0-100km/h加速なら簡単に速くできます。しかし、それでは本物のAMGではありません。何度加速しても同じ性能を発揮し、走り続けてもパワーが落ちないクルマであってこそ、我々はAMGを名乗れるのです」
その言葉が、後に語られるテストデータによって証明されることになる。
プレゼンテーションから対話へ。CEOとのラウンドテーブルへ移行
ステージでの発表が終わると、場はブース奥のプライベートエリアへ移った。ここでは、限られたメディアを前に、シーベ氏とのラウンドテーブルが行われた。先ほどとは異なる落ち着いた空気の中で、より踏み込んだ質疑応答が始まる。
最初に投げかけられたのは、「なぜ今も新型V8エンジンを開発しているのか?」という質問だった。
「たしかに世界の電動化は加速していますが、そのスピードは地域によって異なります。アメリカや中東には今もICE(内燃機関)への強い需要がありますし、インフラが整わなければEVは快適に使えません。だからこそ、私たちは選択肢を残すべきだと判断したのです」
AMGが掲げる未来像は、「どんなパワートレインであってもAMGである」という考え方だ。ICE、ハイブリッド、EV、そのすべてを並列で成立させることで、顧客が胸を高鳴らせる選択を失わないようにするというわけだ。
「何度でも加速できるEV」。ナルド・サーキットでの挑戦
GT XXが持つ真価を裏付けるデータとして紹介されたのが、イタリア南部のナルド・サーキットで実施された耐久テストだ。これまでEVによる24時間最長走行距離は3400〜4000kmが限界だったが、GT XXは24時間で5500km以上という記録を達成。さらにそれを7日半継続し、最終的には地球一周に相当する4万75kmを走破してみせた。
「記録を狙う目的もありましたが、何より重要なのは、このパワートレイン技術が来年登場する量産車にそのまま採用されるという事実です」
つまり、ナルドで証明されたのは「一発の速さではなく、走り続ける速さ」という、次世代AMG EVの走行哲学だった。

電動のAMGがもたらす“感性の未来”
ラウンドテーブルの中でシーベ氏は、「EVでもV8を運転しているかのような体験を再設計する」という言葉を何度も繰り返した。見た目だけでなく、五感に触れるすべてが“走りの情動”に関係してくるという考えだ。
ステアリングの重み、ペダルの反応、車体を通じて伝わる振動、そして人工的に再構成されたサウンド。これらを組み合わせることで、EVであっても“エンジン車のような身体感覚”を生み出すという。
「AMGは音も振動も、すべてを設計します。それが電気の力であったとしても、運転して鳥肌が立つクルマでなければ意味がありません」
その言葉には、時代に左右されず官能を継承するブランドとしての誇りが宿っていた。CONCEPT AMG GT XXは、未来の量産モデルに採用される技術のショーケースであると同時に、「AMGとは何か?」という問いへの最新の回答でもあった。

文=佐藤 玄(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦/佐藤慎吾(ENGINE編集部)/メルセデス・ベンツ
(ENGINE Webオリジナル)