2015年に17歳でショパン・コンクールに出場し、第4位入賞を果たしたエリック・ルー。2025年に再挑戦し、見事優勝。その新譜について語る。
シューベルトはもっとも自分の心に近い作曲家
2025年10月にワルシャワで開催された第19回ショパン国際ピアノ・コンクールで優勝の栄冠に輝いたのは、アメリカ出身のエリック・ルー、27歳。彼は10年前の同コンクールに参加し、第4位入賞を果たしている。今回は「キャリア・アップのため」と明言し、再挑戦して見事に第1位を獲得した。前回のショパン・コンクール後、2018年にはイギリスの著名なリーズ国際ピアノ・コンクールでも優勝を果たしている。2019年8月にはベルリンでショパンの作品を録音、2022年1月には同じくベルリンでシューベルトの作品を録音した。
エリック・ルーは前回のショパン・コンクールで「24の前奏曲」全曲、そして今回も抜粋を演奏している。ショパンのアルバムではその「24の前奏曲」全曲を収録。彼はけっして鍵盤をたたかず、深い打鍵と美しい弱音、情感あふれる響き、楽譜の隅々まで研究し尽くしたこまやかな表現力を特徴とするが、前奏曲でもひとつのストーリー性を備えた演奏を披露し、24曲をドラマのように描き出している。

「この前奏曲はショパンの美質がすべて入っていると思います。恩師のダン・タイ・ソンから、ショパンはうたうのではなく語らせること、という教えを受け、親密的に静けさをもって語りかける演奏を目指しています。私は15歳のときにこの24曲に出会い、まさに恋に落ちました」
これにブラームスとシューマンの作品を組み合わせた。一方、シューベルトの録音ではソナタ第20番、第14番の間に「アレグレット」を挟み込んでいる。
「シューベルトはもっとも自分の心に近い作曲家のひとりで、イ長調とイ短調のソナタという調性を考慮して選曲しました。シューベルトが若くして死を意識し、苦悩、悲劇、心の叫びなどを曲に投影した思いが伝わり、胸がいっぱいになります。内田光子さんとシューベルトに関して話をしたのですが、彼女は深い愛情と長い時間をかけてシューベルトと対峙していることがわかり、演奏もすばらしく、私は涙がこぼれてしまったほど。 ああいう演奏を目指しています」

アルバムではとりわけソナタ第20番が心に響き、印象深い。
「第20番の第2楽章は、人間の一番暗く悲しくやるせない感情が映し出され、第4楽章は純粋で草原にいるかのような晴れ晴れしさがあり、その前の苦悩がなかったかのよう。でも、暗さを知っているからこそ、美しさと希望が際立っているのです」
最近、シューベルトの歌曲集「白鳥の歌」をバリトン歌手のベンヤミン・アップルと共演し、多くを学んだという。
「歌手と共演し、シューベルトの偉大さを改めて知りました」
誠実で謙虚で温かな性格が音楽に表れ、聴き手の心を潤す。
文=伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)
(ENGINE2026年1月号)