心踊るホリデーシーズン。この秋冬は、逸話あふれる一生モノの腕時計を、大切な人や自分への贈り物として選びませんか。“時計愛&好!”をもって任ずるENGINE時計委員会9名が、知見・体験や思い入れをふまえて「推し時計の歴史やストーリー」、「時計と自信の物語」エモーショナルに紡ぎます!
今回取り上げるのは、ディオール「シフル ルージュ グレー ウルトラマット」。誕生から20年以上の時を重ねた名作。 メゾンを象徴するディテールの数々に、エレガンスとクチュールの美意識が宿る。
着けた人の一部になる
初めて「シフル ルージュ」を手にしたのは、私がまだ雑誌の編集者だった頃だ。フランス語で“赤い数字”を意味する名前も、なんと粋な趣向だろうと思った。実際に着けている人を目にしたことがあるが、ディオールの装いを好むその人の腕に実によく似合っていた。仕事柄、ディオールの時計について書くことは多いが(多くはレディス)、そのクリエイションは常にぶれることなく、メゾンの物語と見事に連動している。それは、確固たる矜持とも言おうか。だからこそ、この時計はポジティブな意味で着ける人を選ぶものなのかもしれない。そしてその文脈で言えば選んだ人の腕にすっとなじみ、揺るぎなきスタイルの一部となる。そんな時計なのだと思っている。
(野上亜紀/時計&宝飾ジャーナリスト)
20年経ても思い出す衝撃
2000年代初頭は、ラグジュアリー・ブランドが高級時計の分野に続々と進出する時期だった。個人的には“餅は餅屋主義”なのだが、ディオールの時計は、ちょっと気になる存在だった。というのも2001年に「ディオール オム」が立ち上がり(現在は再びディオールに統合)、そのスリムなロックスタイルが一世を風靡していたから。僕は骨太な体形ゆえに、ジーンズもジャケットもうまく着こなせなかったけど、2004年デビューの「シフルル-ジュ」のファッションと同じ世界観で機械式時計をつくるという手法も新鮮だった。これ以降、餅屋じゃなくても美味しい餅をつくることができるのだと、考えを改めた。だから今でもディオールの時計は、気になる存在だ。
(篠田哲生/時計ジャーナリスト)
ディオール シフル ルージュ グレー ウルトラマット

代表的なコレクション「シフル ルージュ」が誕生20周年を迎えた2024年にリニューアル。アシンメトリーケースや4時位置リュウズなどのデザインコードを継承しながらアップデートした新生シフル ルージュは、ウルトラマットグレーにムッシュ ディオールが「生命の色」と呼んだレッドに彩られたディテールが鮮烈に映え、さらにダイアルや自動巻きムーブメントのローター、ラバーストラップにディオールの永遠の象徴とされる「カナージュ」のモチーフを施している。グレーPVDコーティングのスティール、ケース直径38mm、10気圧防水。170万円。
問い合わせ=クリスチャン ディオール Tel.0120-02-1947
写真=宇田川 淳
(ENGINE2026年1月号)