ルノーの菱形エンブレムである“ロサンジュ”を再解釈し、大きく左右に配するなどしてフロント・マスクの印象を大きく変えたルノー・ルーテシア。そんなルーテシアと一緒に小春日和となった年の瀬のある日、実はルノーとも、フランスともゆかりのあるものが多いという鎌倉と横須賀を、早朝からぐるりと駆け巡ってみた。
ルノーはずっと昔からモビリティ・カンパニーだった
フランス車に乗っていると、どうしてもフランスとゆかりのある場所を目指したくなる。日本とフランスの関係は、昔からいろいろな分野で育まれてきているので、足を伸ばせば何かに触れることができるという地域は、多いのではないかと思っている。

その中から今回は東京からほど近い、神奈川県の2つのスポットを選んだ。今回の相棒が、2025年10月に発売されたルノー・ルーテシア・エスプリ・アルピーヌ・フルハイブリッドE-TECHだったことが大きい。

コンパクトなボディに輸入車ナンバーワンの低燃費を誇るパワーユニットの組み合わせは、やはり都市を駆け巡るのがふさわしいし、2025年のマイナーチェンジで精悍になった顔つき、エスプリ・アルピーヌのスポーティでありながらクールな仕立ても、街で映えると思ったからだ。

まず向かったのは鎌倉市。といっても大仏や鶴岡八幡宮がある古都エリアではなく、昔から鉄道の要衝として栄えてきた大船だ。
大船駅はJRが3路線乗り入れているうえに、現在日本で8路線しかないモノレールの始発駅でもある。藤沢市の湘南江の島駅へ向かう湘南モノレールだ。

モノレールとはその名のとおり、1本のレールを使った鉄道のことで、レールに跨る形の跨座式と、逆にレールからぶら下がる形の懸垂式がある。湘南モノレールは、現在営業している日本のモノレールでは、初めて懸垂式を採用した。

その方式が、ルノーやミシュランなどが設立したサフェージュ(SAFEGE=フランス経営管理研究株式会社)の技術を継承し、三菱グループが国内での展開を進めたタイプなのである。
ルノーはクルマだけを作ってきたわけではない。1930年代には飛行機製造会社のコードロンを買収して「コードロン・ルノー」を設立し、空の世界に参入している。“風”に関連する名前を多く付けていたそうで、代表作であるラファルの名は、新型ルーテシアに設定されているボディ・カラー、グリ・ラファルに引き継がれている。

エスプリ・アルピーヌということで、多くの人は今回の試乗車がまとうブルー・アイロンを選ぶような気もするが、それ以外の色にもストーリーが込められているというわけだ。
そして鉄道にも関わっている。こちらは飛行機よりひと足早い1920年代に参入。主力はオートレールと呼ばれた気動車で、製造は1960年代まで続けられた。
中央部を展望室にした「パノラミーク」など独創的な車両も多く、フランス国鉄の気動車の主力として長く使われていたという。
こうした経緯を知れば、サフェージュ式モノレールへの参加は自然なことと考えてもらえるだろう。

現在は飛行機や鉄道からは手を引いたものの、同じフランス生まれの世界初の貨物帆船ネオラインとの協業を最近発表したりするなど、モビリティ・カンパニーとしてのルノーは健在だ。
クルマについても、5(サンク)を電気自動車として復活させる一方で、自宅で充電できない人向けに、欧州ブランドでいち早くフルハイブリッドを手掛けたという動きは、クルマをモビリティとして考えている証拠だと思っている。
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自分の真上をモノレールが走る不思議な感覚
湘南モノレールの下には、ほぼ全線にわたり道路が走っている。ここはかつて、日本初の有料道路かつ自動車専用道路だった。当初は通常の鉄道を敷こうと考えたそうだが、起伏が激しいために有料道路化したそうで、その後アップダウンに強いサフェージュ式モノレールの導入となったという。

なので空中を飛行しているような感覚のモノレールだけでなく、下をクルマで走るのも、独特の楽しさがある。よってルーテシアでも、このルートを辿ってみた。

先が見通せない場所もあるこういう道では、なによりも信頼感あふれる接地感がありがたい。

しっとり動く足まわりが安定したグリップを提供するうえに、その様子がステアリングを通してしっかり伝わってくるので、安心してペースを上げていける。

身のこなしはルノーらしく自然。しかもSUVと比べると腰の低さを実感する。路面に張り付いたようにコーナーを抜けていけるのは、ハッチバックのアドバンテージ。エスプリ・アルピーヌの仕立てに恥じない足さばきなのである。

フルハイブリッドE-TECHもこういうシーンが似合う。エンジン側4速、モーター側2速のギアを連携させての走りはダイレクト感にあふれていて、ハイブリッドという言葉から連想するファジーな感触はまったくないからだ。

しかもDレンジのほかにBレンジがあるうえに、ドライブ・モードはでエコ、マイセンス、スポーツの3種類あるので、シーンに合わせた走りが選べる。

とりわけスポーツ・モードは、下り坂ではエンジン・ブレーキを効かせたりするなど、スポーツ・ドライビングを知り尽くしたルノーらしいチューニングだ。
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日本の近代化に尽力したフランス人たち
湘南モノレールに別れを告げて、横浜横須賀道路から首都高速道路と乗り継ぎ、横浜の海沿いを流しながら南へ向かう。

こうした場所では、ルノー伝統の磐石の直進安定性とフラットな乗り心地が乗り手をリラックスさせてくれる。真の快適性は固いとか柔らかいとかではなく、揺れないことなんだと教えられる。

アダプティブ・クルーズ・コントロールをはじめとする先進運転支援システムが、日本の交通状況に合っていることも実感する。我が国の道を知るエンジニアが多いルノーならではと言えるかもしれない。

再び横浜横須賀道路に入って終点まで行き、フェニックスが並ぶ海沿いの道を西へ。まもなく横須賀市の中心部に入る。

さらに進むと、右手に入江が望めるようになる。ここが2番目の目的地、横須賀本港だ。

目の前に米国海軍の横須賀基地があることもあって、アメリカとのつながりを連想しがちな街であるが、開港にはフランス人が関わっている。この地に港が開かれるきっかけになった横須賀製鉄所の建設で首長を務めたのが、エコール・ポリテクニーク出身のフランソワ・レオンス・ヴェルニーだったからだ。

さらにこの製鉄所に関わったフランス人技師たちは、市内の水道整備や観音崎灯台の建設を行なったほか、世界文化遺産に登録されている群馬県の富岡製糸場の設計も手掛けている。市内の三笠桟橋から船で10分の猿島では、日本では数少ないフランス積みレンガのトンネルを見ることができる。

横須賀市ではこうした功績を称え、製鉄所があった米軍基地の対岸にある公園をフランス式庭園の「ヴェルニー公園」として再整備した。園内西側には造船で使われたスチームハンマーなどを展示した「ヴェルニー記念館」もある。

さらに公園の東側には、「よこすか近代遺産ミュージアム ティボディエ邸」もある。

こちらは製鉄所の近くにあった副首長ジュール・セザール・クロード・ティボディエの官舎を、小屋組みなどを活用しつつ再現したもので、製鉄所の歩みなどが展示されている。
ティボディエ邸の隣には、2年前にオープンしたイタリアン・レストラン「アマルフィイ マリナブルー」がある。木造の建物は周囲の景観と調和していて、中に入ると大きな窓から港や公園が一望できる。


この日はランチで訪れたが、神奈川県産の食材を使ったコースは彩りも味わいも魅力的で、平日でありながらほぼ満席という賑わいに納得した。

フランスというと我が国では、アートやファッションが話題に上がることが多いが、テクノロジーでも日本に影響を及ぼした部分が多いことがお分かりだろう。

独創のフルハイブリッドであるE-TECHに、アルピーヌのスポーツ・マインドを融合させた新型ルーテシアだからこそ、そういう角度からフランスを見ていくドライブもお似合いではないかと思う。
◆ルノー・ルーテシア・エスプリ・アルピーヌ・フルハイブリッドE-TECHの詳しい情報はこちら文=森口将之 写真=岡村智明
(ENGINE Webオリジナル)
■ルノー・ルーテシア・エスプリ・アルピーヌ・フルハイブリッドE-TECH
全長、全幅、全高はそれぞれ4075mm、1725mm、1470mm。ホイールベースは2585mm。車両重量は1300kg。1.6リットルの水冷直列4気筒DOHCエンジン(最高出力と最大トルクはそれぞれ94ps/5600rpm、15.1kgm/3200rpm)とメイン(49ps/1677〜6000rpm、20.9kgm/200〜1677rpm)およびサブ(20ps/2865〜10000rpm、5.1kgm/200〜2865rpm)の2つのモーターを搭載。4+2段の電子制御ドッグクラッチ式ATを介して前輪を駆動することによりWLTCモードで25.4km/リットル、JC08モード燃費は29.7km/リットルを達成している。車両本体価格(税込)は399万円。