毎年恒例「エンジン・ガイシャ大試乗会」、2026年もやりました! 大磯プリンスホテルの大駐車場に総勢33台の輸入車を一挙に集め、33人のモータージャーナリストがまる一日かけてイッキ乗り! 2026年上半期イチオシの各ニューモデルにそれぞれ5人のジャーナリストが試乗した、順次公開している計165本のインプレッションもいよいよ後半戦。
今回はロールス・ロイス・ブラックバッジ・スペクターに試乗した今尾直樹さん、河村康彦さん、田中誠司さんのリポートをお送りする。
>>>菰田潔さん、森口将之さんのリポートはこちら<<<
「終始一貫、おごそかな走行体」今尾直樹
巨大なドアをうっかり開いたまま乗り込むと、運転席から手が届かない。常人には持て余す大きさだ。閉めるボタンがあったはず。と探せど、見つからない。右腕を伸ばしてがんばっていたら、近くにいらしたEPC会員の方が閉めてくださった。感謝です。
でもってスタートのボタンを押す。画面に出てきたメーターのまわりが水に浮かんだ油みたいな虹色に縁どられ、ゆらゆら揺れ動く。中近東の超富裕層向けでしょうか。
走り出せば、王者のごとく、しずしずしずしず、漢字で書くと静々静々、西湘バイパスの目地段差もなんのその、終始一貫、おごそかな走行体であり続ける。電気エネルギーが生み出した贅沢の極み。

ターンパイクに至りてアクセルを踏み込めば、900Nmの大トルクでもって天井知らずに加速する。だけど、車重は3トン近い。そう気づいた私は、しずしず運転に切り替えた。さながら走る宗教施設。
EVの寿命はシルバー・ゴーストより短いかもしれない。その儚さもまた諸行無常。きょうの夢、大阪の夢。大磯のことは夢のまた夢。
「ガイシャゆえの世界」河村康彦
こうした仕事を長年やっていると実に様々なモデルに触れる機会がある。が、そんな記録をまた更新してしまったかな? と思えたのがこのモデル。
そもそも世界のラグジュアリー・ブランドの中にあっても唯一無二であるロールス・ロイスの作品に触れること自体が稀有な事柄。しかもそれがブランドとして初のピュアEVでさらに「ブランド史上最もパワフル」を謳う“ブラックバッジ”仕様ともなれば、どんどんとハードルが上がっていよいよ近寄りがたいオーラを発する存在と受け取れたのも当然だろう。

パワー機構付き前開きドアにまずおののくが、名が“スペクター”だけにその程度でたじろいでいては到底このクルマとは付き合えそうにない。
アクセルにわずかに力を込めれば、限りなく無音に近いまま恐ろしい勢いで速度が増して行く。そうした中で「これぞマジック・カーペット・ライド」という乗り味に浸っていると果たしてこれは現実なのかという思いにすら駆られてしまう。これも凄まじいガイシャゆえの世界なのだ。
「意図して残された揺らぎ」田中誠司
現代に限らず昔から、ロールス・ロイスのようなハイエンド・ラグジュアリーは総合芸術としての究極を目指すものだ。
静粛極まるEVになったことで、そのフットワークが何を表現するのかが、より注目される。
スペクターの身のこなしはしなやかだ。アクセルでノーズが自然にリフトし、ブレーキでは必要なだけダイブする。むやみに動きを制止することなく、意図して残された車体の揺らぎは、穏やかにくつろぐ猫の上品な振る舞いを連想させ、愛らしい。
加速力は凄まじく、視界から景色を引き剥がし、無音のまま後方へ置き去りにする。ビデオを早回しにしたような感覚だ。

車体は巨大で、隣の超高級車が小さく見える。しかしボディ・サイドのラインがストレートであるせいか、取り回しは意外に悪くなく、スピリット・オブ・エクスタシーを掲げた車体前端も掴みやすい。車線維持機能の介入も繊細で、前もってコーナーへの進入に備えるように動く。後席も空間とシート・クッションが極上で、星をちりばめたルーフ・ライニングが体験を決定づける。
■ロールス・ロイス・ブラックバッジ・スペクターロールス・ロイス初の純電気自動車となるスペクターだが、ブラックバッジ・スペクターはさらに同社史上もっともパワフルなモデルでもある。102kWhのリチウムイオン電池を搭載し車軸上に配される前後2つの励磁同期モーターにより前後輪を駆動。新たに加わった∞(インフィニティ)モードでは659hpを発揮。全長×全幅×全高は5490×2015×1575mm。軸距は3210mm。車重は2900kg。価格は5614万円。※スタート価格であり、カスタマイズにより価格は変動。
写真=小林俊樹/神村聖/望月浩彦/茂呂幸正
(ENGINE2026年4月号)