軽井沢でいま楽しみたいのは、ゴルフでも買い物でもなく、心身を整える滞在である。森と美食に身を委ねる時間は、旅に新たな豊かさをもたらしてくれる。
軽井沢を訪れる理由は人それぞれである。避暑、散策、ゴルフ、美術館巡り。だが近頃は、「何もしないために行く」という贅沢が、最も価値ある目的になりつつあるようだ。そんな時代の価値観に寄り添う新たな滞在先が、7月22日に開業したラグジュアリーホテル「ESSENCE KARUIZAWA」である。

全12室はいずれもスイート仕様で、プライベートサウナ付き。建物は敷地中央のカラマツ林の斜面に寄り添うように配され、光や風、木漏れ日が静かに室内へ流れ込む。駅から車で約5分という距離にありながら、森に抱かれた静寂を享受できる。その時間をより豊かなものにしているのが、ここならではの食である。
風土を味わうレストラン
宿泊プランに組み込まれる食事は、東京・外苑前のミシュラン二つ星「傳」の長谷川在佑氏が監修する和食。厨房を預かる田中博料理長は同店で研鑽を積み、その精神を受け継ぎながら、信州の恵みを軸にその季節だけのコースを組み立てる。

ディナーの冒頭を飾るのは、信州の郷土料理を現代的な感性で再解釈したおやき。お造りの熟成信州サーモンには、「傳」で好評の海苔酢が添えられ、酸味と磯の香りが旨味に寄り添う。
熟成鰻の揚げ浸しは、この店のスペシャリテ。師の技法を受け継ぎ、熟成させて骨を抜いた鰻の、ふっくらとした食感と凝縮した旨みが印象的だ。淡い旨みの出汁あんが、その味わいを引き立てる。


強肴の「信州りんご和牛」は、長野県産りんごを配合した飼料で育つため、酸味と酵素の働きにより、とろけるような柔らかさ。リンゴを使ったステーキソースは、まろやかかつ芳醇で、ワインにも日本酒にも合う。
新しさや奇抜さを競うのではなく、土地の恵みを真っすぐに生かしながら、一皿ごとに信州の風土を映し出す。その実直なコースが、この土地ならではの滞在価値を形づくっている。
店名は、「心」に由来する。「以心伝心」への思いを込めたその理念は、料理だけでなく、この場所で過ごす時間全体にも息づいている。
文=小松めぐみ(フード・ライター)
■ESSENCE KARUIZAWA
長野県北佐久郡軽井沢町大字長倉字広原21-44
https://essencehotels.jp/karuizawa/
(ENGINE2026年9・10月号)