2024.11.26

CARS

純内燃エンジンのリアル・スポーツカー、ロータス・エミーラと918馬力のウルトラSUV、エレトレ どちらの方がドライバーズ・カーなのか?

エレトレRとエミーラ1stエディション、ロータス同士を乗り比べる!

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この30年が特殊だった
 
ロータスといえば軽量スポーツカー、という思いが強い人にとって、エレトレの登場は大事件だ。全長5m超? 車重2.6トン? ありえないことばかりと、悲しみに近い思いを抱いたはずだ。でも冷静に歴史を俯瞰すると、実は1995年のエリーゼの登場から今までの約30年間だけが、ロータスにとっては特殊な時代だった、とも考えられる。



産みの親のロジャー・ベッカーによれば、エリーゼはいわば初代ヨーロッパのリ・クリエイション・モデルであり、その名も継がせたかったそうだ。もし創始者チャプマンが存命だったら、先進的な彼が、こうした過去を振り返るようなモデルを造る可能性は限りなく低かったはずだ。そしてそれに続くエキシージ、エヴォーラのような軽量スポーツカーたちは、会社の経営状態の悪化によって、延命に延命されたからこそ運良く生き延びてきた。

車体がエミーラよりはるかに巨大だということをさっぴいても、ドライバーズ・カーとしての運転環境はエレトレのほうがよくできている。RHD車ながらステアリング・ホイール、シート、ペダルの相互関係はほぼ完璧。フットレストも幅広くしっかり踏ん張れる。


エミーラは素晴らしいドライバーズ・カーになってはいるが、エリーゼの遺産を延々引きずってもいる。そこには抜本的な刷新は少ない。ロータス・セブンに対するケータハム・セブンとまでいうとちょっと極端だけれど、あくまでもオールドスクールなスポーツカーなのである。

そんなエミーラに比べると、特にエンジニアリング面においてエレトレは見事なまでに隙がない。ほぼ完璧なインターフェイスなど、ドライバーズ・カーとして見た場合、実は完全にゼロから構築されたエレトレのほうが上回る部分も多々ある。

前席はサイズも大ぶりでサポート性も上々。


さらに動力性能に関しては、もはや比較にならないだろう。試乗車のエレトレRであれば、前後アクスルの2モーターにより、システム上918psと100.4kgmをマークするが、その途方もない力を先進アルミ合金とスチールの混合シャシーは、なんなく受け止めている。他グレードと違いエレトレRだけは摩擦板クラッチを採用した2段ATを備えており、高速域でも加速ののびがまったく鈍らない。なお0-100km/h加速はエミーラAMGの4.4秒に対し、エレトレRは3秒を切る。料金所からのスタートダッシュなど、重量を一切感じさせない加速は、まさに異次元感覚だった。



加えて挙動はリアルタイム解析され、4輪の駆動配分と車高は自動調整する。状況に応じてスタビライザーを切り離したり、ブレーキによるベクタリングも行う。後輪操舵だってする。そうしたもろもろの最新の技術がみごとなまでに整然と統べられているからこそ、恐ろしく重く大きなSUVにもかかわらず、ロータスの名にふさわしい身のこなしを得ている。しかもプログラムを切り替えれば、まるでドイツ製のハイエンド・サルーンもかくやの静粛で上質な世界を見せる術も持っているのだ。



エレトレに旧来のロータスらしさを感じるのは、ステアリングの感触くらいだろうか。同じカーショウの手によるもののはずなのに、こちらはまとわりつくような重さをほぼ感じさせず、路面の様子を丁寧に伝えてくれる。油圧を用いない純電気式で、ここまでフィールが心地よいと思ったのは、はじめてである。

車体の大きさや重さを本当に意識させないためには、こうしたドライバーの操作に対する反応こそ重要。電子制御の緻密な積み重ねによるものとは思えないくらい、自然なものへと仕上がっている。 

冷静に観察すればエミーラだって、エリーゼなどに比べればドライバーに伝える反応は本当に自然なものではなく、造られたものになっているのが分かる。けれどエレトレはレベルが違う。違和感の消しっぷりは、もはやそら恐ろしいほどだ。

エレトレの驚異的な力をはじめとするこうした新たな世界は、常に冷静さを保たないと探りきれないのでは、という思いが試乗中ずっと払拭できなかった。それほど奥が深く、見極められない。分かりやすく純粋で、わくわく心が躍るエミーラの楽しさとは、見事に対照的だった。

どちらもドライバーズ・カーであることは間違いない、とは思う。でも両者はもはや、次元が違うといっても過言ではなかったのである。

文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=神村 聖


■ロータス・エレトレR
駆動方式 前後2モーター4輪駆動  
全長×全幅×全高 5103×2002×1636mm  
ホイールベース 3019mm  
トレッド(前/後) 1706/1684mm  
車両重量(前軸重量:後軸重量) 2640(1250:1390)kg  
モーター(エンジン)形式 永久磁石同期モーター  
総電力量(排気量) 112kWh  
最高出力 918ps  
最大トルク 100.4kg m  
トランスミッション 2段AT  
サスペンション(前) マルチリンク/エア  
サスペンション(後) マルチリンク/エア  
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク  
タイヤ(前/後) 275/35R23/315/30R23  
車両本体価格 2215万4000円  

■ロータス・エミーラ1stエディション
駆動方式 ミドシップ横置きエンジン後輪駆動  
全長×全幅×全高 4413×1896×1226mm  
ホイールベース 2575mm  
トレッド(前/後) 1626/1608mm  
車両重量(前軸重量:後軸重量) 1470(570:900)kg  
モーター(エンジン)形式 水冷直列4気筒ターボ  
総電力量(排気量) 1991cc  
最高出力 365ps/7200rpm  
最大トルク 43.8kg m/3000-5500rpm  
トランスミッション 8段デュアルクラッチ式自動MT  
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル  
サスペンション(後) ダブルウィッシュボーン/コイル  
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク  
タイヤ(前/後) 245/35ZR20/295/30ZR20  
車両本体価格 1661万円  

(ENGINE2024年12月号)

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