2019.03.20

LIFESTYLE

劇場で観られない映画がアカデミー賞を受賞!?

昨年9月に行われたヴェネツィア国際映画祭で栄冠を勝ち取った2本の異色作。さらに『ROMA/ローマ』は、アカデミー賞作品賞受賞こそ逃したものの、監督賞、外国映画賞、撮影賞の3冠に輝いた。

劇場公開されない映画

カンヌ、ベルリンと並ぶ世界三大映画祭のひとつに数えられるヴェネツィア国際映画祭。1932年から続く長い歴史の中でも、劇場公開されない映画が最高賞(金獅子賞)を獲得したのは今回が初めてである。2014年に『ゼロ・グラビティ』でオスカーを受賞したメキシコの鬼才、アルフォンソ・キュアロン監督。Netflixが製作したキュアロンの新作『ROMA/ローマ』は、同社の動画配信サービスでしか見ることができない。ヴェネツィアに先立つカンヌでは、この特殊な上映形態により出品が却下され、論争を巻き起こした経緯がある。



舞台は1970年代初頭のメキシコシティ。ローマという裕福な地域で働く若い家政婦と、4人の子供がいる家族の姿を描いた、監督の自伝的要素が色濃い内容だ。家政婦の妊娠や夫婦間の不和など、日常生活の中で起きる“事件”を淡々と積み重ねていくだけなのだが、登場人物に対する温かな目線が、監督のプライベートな物語を、普遍的な人生賛歌へと昇華させる。



最新鋭の65ミリフィルムカメラで撮られたモノクローム映像の美しさも格別で、従来の作品とは比較にならないほどの奥行きを持つ。音響から美術まですべてが一級品で、劇場で見られないのは、やはりもったいない、といわざるを得ない作品である。


■ROMA 


日本でも12月よりNetflixで配信が始まった『ROMA/ローマ』。物語の9割は監督アルフォンソ・キュアロンの体験に基づくもので、ヒロインのモデルとなった女性も、キュアロンの子守だった人物である。役者たちは全員、無名、もしくは演技経験のなかった素人たちで、全編の撮影がモノクローム、台詞もスペイン語とメキシコの先住民ミシュテカの言葉だけで話されている。キュアロンがあえてNetflixを製作のパートナーに選んだのは、大手映画スタジオが出資してくれるには、興行的な成功が期待されにくい内容だったからともいわれている。135分。Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』独占配信中


女王の寵愛をめぐって

今年度のヴェネツィアで最高賞に次ぐ銀獅子賞を獲得し、『ROMA/ローマ』と並んで世界中の賞レースを席巻しているのが『女王陛下のお気に入り』。18世紀のイングランドを舞台に、時の権力者アン女王と、彼女の寵愛を奪い合う2人の女性の物語だ。



2人を演じるのはエマ・ストーンとレイチェル・ワイズというハリウッドを代表する人気オスカー女優。だがクセのある作風で知られるギリシャのヨルゴス・ランティモス監督による本作は、決して一筋縄ではいかない。17人の子供を失った孤独で不幸な女王をめぐる争いは、時に痛快でコミカルでありながらも、次第にグロテスクで醜悪な泥仕合へとエスカレートしていく。広角レンズや魚眼レンズを多用した映像世界も異質で、まるで人間社会の愛憎劇を神の視点で捉えているかのような、摩訶不思議な印象を残す。



本命不在と言われた今年度のアカデミー賞に、異色でありながらも映画好きを唸らせる2本の野心作が見事ノミネート。アカデミー賞も多様性の時代である。


■THE FAVOURITE


ヴェネツィア国際映画祭では銀獅子賞(審査員大賞)のほか、アン女王に扮したイギリスの実力派、オリヴィア・コールマンが女優賞を獲得した『女王陛下のお気に入り』。そのほかコールマンは、ゴールデングローブ賞、全米映画批評家賞などの主演女優賞も受賞している。ギリシャ出身のヨルゴス・ランティモスは近年、『ロブスター』や『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』などの異色作で世界的な注目を集める映像作家。エマ・ストーンやレイチェル・ワイズを起用した本作で、オスカー候補となることが期待されている。120分。


©2018 Twentieth Century Fox

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文=永野正雄(ENGINE編集部)

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