2019.04.04

LIFESTYLE

21世紀のカリスマ指揮者! チケットは入手困難

2月に初来日したテオドール・クルレンツィス。指揮棒を持たずに手と指でオーケストラに指示を与え、スリムなからだを自在に動かして踊るような指揮。いま世界中で演奏するたびにセンセーションを巻き起こす。

革命的な音楽に出会う

オーケストラやオペラを聴くとき、指揮者に目が釘付けになるというカリスマ性を備えた人はそうそう現れない。ところが、いま世界中で演奏するたびにセンセーションを巻き起こし、チケットが入手困難だといわれるテオドール・クルレンツィスは、指揮棒を持たずに手と指でオーケストラに指示を与え、スリムなからだを自在に動かして踊るような指揮をするため、聴衆の視線を一身に集めてしまう。彼はアテネ出身。94年にロシアのサンクトペテルブルク音楽院に留学し、名伯楽といわれるイリヤ・ムーシンに師事した。クルレンツィスの名が一躍知られるようになったのは、モーツァルトのダ・ポンテ三部作といわれる「フィガロの結婚」「コジ・ファン・トゥッテ」「ドン・ジョヴァンニ」のオペラを13年より録音開始して以降。ダ・ポンテの台本にモーツァルトは躍動感あふれる情熱的で劇的な音楽をつけ、傑作と称されるオペラを生み出した。クルレンツィスはそれらを04年に創設した自身のオーケストラ、ムジカエテルナとともに録音。とりわけ「ドン・ジョヴァンニ」は天国と地獄が共存するようなドラマチックで激しく熱い演奏。次いでリリースされたチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」も哀愁や悲しみを超えた慟哭の調べ。さらにマーラーの交響曲第6番「悲劇的」ではこれまで聴いたことのないような斬新で立体的な美を表現し、聴き手の心をわしづかみにする。


今年2月に初来日公演を行ったテオドール・クルレンツィスとムジカエテルナ。オール・チャイコフスキー・プログラムで臨んだ東京3公演のチケットはすべてソールド・アウト!(写真は2月13日のサントリーホール公演)。 (C)suntory hall

クルレンツィスは11年にペルミ国立オペラ・バレエ劇場の芸術監督に就任したが、そのときにムジカエテルナとともに同地に移った。ペルミはウラル山脈西側に位置するロシアの工業都市。クラシックの中心からは離れた土地だが、いまやクルレンツィスの演奏を聴こうと世界中のファンが押し寄せている。そんな爆発的な人気を博すクルレンツィスとムジカエテルナが2月に初来日を果たした。オール・チャイコフスキー・プログラムを組み、圧倒的な存在感を示す演奏を披露。クルレンツィスは黒のシャツとタイツ姿で自由闊達に動き回る。オーケストラはチェロやチューバ以外は全員が立って演奏。クルレンツィスはチャイコフスキーの美しい旋律を極限まで研究し、いま生まれたような新鮮さをもって表現した。心が高揚し、からだ中が焼け付くような感動を覚えた。まさに“革命的”な音楽に遭遇した思い。これから彼の演奏はどこに向かうのだろうか。予期できぬ魔力のとりこになりそう。


昨年11月に発売されたテオドール・クルレンツィスとムジカエテルナによる『マーラー:交響曲第6番イ短調「悲劇的」』。クルレンツィスはマーラーの交響曲をコンサートでは取り上げているが、ディスクとしてはこれが初の録音となる。
2017年度の「レコード・アカデミー賞」(主催・音楽之友社)で大賞に輝いた『チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調 作品74「悲愴」』。
クルレンツィスの斬新な解釈が楽しめる『モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」K.527(全曲)』。(すべてソニーミュージック)

文=伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)

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