オーケストラやオペラを聴くとき、指揮者に目が釘付けになるというカリスマ性を備えた人はそうそう現れない。ところが、いま世界中で演奏するたびにセンセーションを巻き起こし、チケットが入手困難だといわれるテオドール・クルレンツィスは、指揮棒を持たずに手と指でオーケストラに指示を与え、スリムなからだを自在に動かして踊るような指揮をするため、聴衆の視線を一身に集めてしまう。彼はアテネ出身。94年にロシアのサンクトペテルブルク音楽院に留学し、名伯楽といわれるイリヤ・ムーシンに師事した。クルレンツィスの名が一躍知られるようになったのは、モーツァルトのダ・ポンテ三部作といわれる「フィガロの結婚」「コジ・ファン・トゥッテ」「ドン・ジョヴァンニ」のオペラを13年より録音開始して以降。ダ・ポンテの台本にモーツァルトは躍動感あふれる情熱的で劇的な音楽をつけ、傑作と称されるオペラを生み出した。クルレンツィスはそれらを04年に創設した自身のオーケストラ、ムジカエテルナとともに録音。とりわけ「ドン・ジョヴァンニ」は天国と地獄が共存するようなドラマチックで激しく熱い演奏。次いでリリースされたチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」も哀愁や悲しみを超えた慟哭の調べ。さらにマーラーの交響曲第6番「悲劇的」ではこれまで聴いたことのないような斬新で立体的な美を表現し、聴き手の心をわしづかみにする。
クルレンツィスは11年にペルミ国立オペラ・バレエ劇場の芸術監督に就任したが、そのときにムジカエテルナとともに同地に移った。ペルミはウラル山脈西側に位置するロシアの工業都市。クラシックの中心からは離れた土地だが、いまやクルレンツィスの演奏を聴こうと世界中のファンが押し寄せている。そんな爆発的な人気を博すクルレンツィスとムジカエテルナが2月に初来日を果たした。オール・チャイコフスキー・プログラムを組み、圧倒的な存在感を示す演奏を披露。クルレンツィスは黒のシャツとタイツ姿で自由闊達に動き回る。オーケストラはチェロやチューバ以外は全員が立って演奏。クルレンツィスはチャイコフスキーの美しい旋律を極限まで研究し、いま生まれたような新鮮さをもって表現した。心が高揚し、からだ中が焼け付くような感動を覚えた。まさに“革命的”な音楽に遭遇した思い。これから彼の演奏はどこに向かうのだろうか。予期できぬ魔力のとりこになりそう。
文=伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
advertisement
PR | 2024.12.26
CARS
1/19(日)開催 ゲストに島下泰久さん ENGINEスペシャル・…
PR | 2025.01.16
CARS
一歩足を踏み入れるとそこはパリ? 新しくなったルノー練馬・アルピー…
2025.01.04
CARS
希少な生息数の英国製旧車オープンカーを普段乗り! オーナーはトライ…
PR | 2024.12.27
WATCHES
落札総額12億3600万円! 世界中の時計ファンが注目したフィリッ…
2024.12.30
CARS
【海外試乗】蘇ったルノー5ターボ! EVだけど、これは乗ってみたい…
PR | 2024.12.24
CARS
「ベビーカーの頃からガタガタ道が好きでした」父から受け継いだ初代に…
advertisement
2025.01.08
新車で買える一番安いBMWがこれ! 新型BMW1シリーズのエントリー・モデル、120にモータージャーナリストの森口将之が試乗 シャシーが素晴らしい!
2025.01.13
マニュアル+ターボのミラ・イースと一緒に2台持ちしたい! ハイゼット・ジャンボ・エクステンド2は理想のモータースポーツ・サポート軽トラだ!
2025.01.02
【ドイツ車ベスト10】今年乗りたい1位はポルシェ勢を抑えてのスポーツカー!【自動車評論家が厳選!】
2025.01.11
目指すはBMWアルピナか 日産ノート・オーラ・オーテックに走りに磨きを掛けた新グレードを追加
2025.01.10
現行スズキ・スイフト・スポーツの生産終了が発表 同時に、最後を飾る特別仕様車が期間限定で登場