アルファ・ロメオ・ステルヴィオのディーゼル・エンジン搭載モデルがついに日本にやってきた。これまで日本では、直4とV6、いずれもターボ過給が施されたガソリン・エンジンに8段ATを組み合わせたパワートレインで4輪を駆動するモデルだけが販売されてきた。新たに加わることになったディーゼル・エンジン搭載モデルもまた、8段ATと4WDの組み合わせとなる。モデル名は“ステルヴィオ2・2ターボ・ディーゼルQ4”だ。発売は4月6日。車輌価格は617万円となる。装備内容がほぼ等しいガソリンの2・0ターボQ4の655万円に対して38万円安い。戦略的な価格設定といっていいだろう。
せっかく試乗の機会が巡ってきたのだから、ガソリン・エンジン搭載モデルも一緒に連れ出すことにして、都心も含めた一般道、高速道路、山道といろいろ取り混ぜて、その実力のほどを試すことにした。慣れた通勤路も含め、いつもより長い時間と距離を走ることにしたのも、ファン・カーとしてどうかということにも増して毎日使うクルマとしてどうなのかが知りたかったからである。ステルヴィオはスポーティな性格のSUV群のなかにあっても、とりわけその色が濃い。ミドル級セダンとしてクラス・トップ級の運動性能を持つジュリアと比べても遜色ないほどのダイナミック・パフォーマンスを見せ付けるクルマと、ディーゼル・エンジンの組み合わせは首尾よく機能するのか?いちばん知りたいのはそこだ。それはスポーティなのか?アルファ・ロメオの名に相応しいものとなっているのか?結論からいこう。答えはイエスだ。日本で買える4気筒ガソリン・エンジン搭載のステルヴィオが、欧州市場では出力違いで何種類も用意されているなかでシリーズ最速の仕様であることを思い出すなら、それに見劣りしない楽しさと、ディーゼルであることを忘れさせる速さを兼ね備えたステルヴィオのディーゼルは、アルファ・ロメオの名に恥じないクルマに見事、成りおおせている。しかも、それは本来、ガソリン・エンジン搭載モデルより高くても不思議はないのに、逆に安いプライス・タグをぶら下げているのである。これこそステルヴィオの本命モデルだと言いたくなる。ミドル・サイズのSUVはそれこそ百花繚乱の今、そのどれもがディーゼル・モデルを中心に人気を集めているが、ステルヴィオのディーゼルは、そのなかでもスポーティなドライビングを楽しみたい人には一押しのクルマである。
山道でまったく痛痒を覚えないのは、考えてみれば、驚くべきことだ。ドライビング・モードでD(ダイナミック)を選んでおけば、ガソリン・エンジン・モデルとさして変わらぬペースで走り回れる。燃料噴射制御と変速プログラムが変わることで、同じエンジンかと思うほどに“回りたがる”性格へと変貌し、中高速回転域を使って、胸のすくようなピックアップ特性と、伸びの良い加速が存分に楽しめる。最高出力はたったの3,500rpmで発揮されるが、そこから優に1,000rpm以上も残る高回転域でもパワーカーブが急速に減衰する感じはなく、それがたんなるマージンではなく、使える回転域として残っているのが嬉しい。それを知って、パドルを使ってのマニュアル・シフトで走らせてみると、これがディーゼルかと思うような使い方ができるではないか。引っ張って回すことが無意味と感じないのである。
一方で、ハンドリング性能もガソリン・モデルに遜色なしだ。ステルヴィオ独特の操舵開始時の初期アンダーステアをものの見事に消し去った切れ味の鋭さがそのままここにある。鼻先が重いと感じることもない。グリップは強大で、なおかつよく粘るから、車輌重量1・8t超えのステルヴィオは背の低いスポーツ・セダンのように嬉嬉として、ワインディング・ロードを飲み込んでいく。それがスーパースポーツ用もかくやの超偏平タイヤに頼ったものではないのだから、大したものだ。強固なボディ、キャパシティの大きなサスペンション・システム、理想化された前後重量配分などに支えられたものであることは、疑いようがない。
ステルヴィオは4気筒エンジンを完全フロント・ミドシップ搭載するなどして、前後重量配分がちょうど50対50になるように設計されているが、それはこのディーゼル・モデルでもほとんど変わらないのである。アルファ・ロメオに搭載するに当たって再開発されたこの2・2リッターディーゼルは、シリンダーブロックをアルミ製として新設計し、エンジン重量を軽く抑えた結果、2・0ガソリンに対して車両重量は10kgしか重くなっていない。210psを発揮する2・2リッターターボ過給ディーゼル・エンジンの単体重量が僅か155kgしかないというのは驚異的だ。しかも、それは軽さだけを追求したエンジンではないのである。シリンダーブロックの両肩には二次振動相殺用の本格的な2軸式バランサー・シャフトが組み込んである。騒音、振動特性を車格に相応しいものとするために、手抜き一切なしの構造を採っている。ステルヴィオをステルヴィオたらしめる基本骨子を崩さないように、周到に考え抜かれた設計が施されたエンジンなのだ。ディーゼル・モデルを作るために既存のユニットを流用した安易なそれではないのである。だからこそ前軸荷重は20kgしか重くなっていない。後軸荷重はむしろ軽く、車輌重量はガソリン・モデル比で僅かに10kg増で済んでいる。前後重量配分は51対49である。駆動力は基本的に後輪に流す、FR的なそれだから、運動性能に優れるだけでなく、運転して楽しいのだ。
ステルヴィオ・ディーゼルはさらに、絶対的な出力値が日本仕様に選ばれたガソリン・モデルほどには高くないことから、脚のセッティング動力性能に合わせてきっちりあわせこまれているようで、基本的な性格は不変のまま、ほんの少しだけ柔らかくされているようだ。これが日常的な使い方では良い方に作用している。日本の公道の路面条件は決して褒められたものではないが、そういう現実への適合性がガソリン仕様より優れているように思う。ドライビング・モードをN(ナチュラル)とした状態では、このパワートレインは優れて従順で、ターボ・ディーゼルの旨みを根こそぎ引き出してくれる。扱い易い低速大トルクと多段変速機のコンビによる低燃費はまさにディーゼルの面目躍如。実用燃費でざっと5割がたは優れる。これ以上何を望むというのか。
文=齋藤浩之 写真=茂呂幸正
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