2019.04.26

LIFESTYLE

天井から3つの巨大な箱がぶら下がる圧巻の広々リビング! 十字の吹き抜けが生み出す居心地のいい空間の家 ガレージのアメリカン・マッスル・カーも必見!! 

日常にも使えるコブラ

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日頃、クルマ好きの友人から古いクルマを勧められていたものの、整備を考えて二の足を踏んでいたTさん。しかし、レプリカの新車であればそうした心配も少ないだろうと決断した。実際、5リッターのV8エンジンを積む現代のコブラは扱いやすいうえに信頼性も高く、近所のスーパーに出かけることも。週末、心地よく高速を流してその先の奥多摩の山道を駆け巡り、日帰り温泉に浸かって帰ってくるのがお気に入りのドライブ・コースになっている。

一方ポルシェ911は、通勤などの普段の足。根っからのクルマ好きなので、運転することで癒されているそうだ。今の911の前は、MTの911に10年乗った。ポルシェの後席は下の娘さんに丁度のサイズで、奥様と3人でのお出かけには重宝している。そして大学生になる上のお嬢さんをまじえ、家族でスキーなどに出かける際はアウディ A6アバントを使う。これがTさんの3台持ちカーライフだ。



こうしたスポーツカーが並ぶガレージ・エリアに比べ、玄関のサイズや意匠は控え目で上品である。どこか茶室に招かれたような雰囲気だ。それがひとたび屋内に入ると、予想外の空間に驚かされる。設計を手掛けたのは、夫婦でケースデザインスタジオを主宰している建築家の横田典雄さんと川村紀子さん。建築のスタイルが好みだったうえに、「家を建てた経験のない者にとって、ウェブで紹介されていた依頼方法が明快で誠実なこと」が二人に設計を頼んだ大きな理由という。夫婦で仕事をしていて、娘さんがいるという家族構成や、年齢が近くて話しやすいことも後押しとなった。こうしてでき上ったのは、Tさんたちの希望した「明るく」「キッチンから家全体を見渡せる」「一体感がある」「快適な」家。中庭のBBQに人が集まり、奥様が希望したガーデニングを楽しめる家でもある。だが横田さんたちはそうした要望に応えるだけでなく、この家での生活がさらに居心地の良いものになるよう工夫を加えている。そこが建築家の腕の見せ所だ。T邸の最大の魅力は、なんといっても面積以上に広さを感じるものの、家族間の距離が近く思える空間構成だろう。デザイン上のハイライトは、柱が無い、十字型の吹き抜けのある、明るく大きなリビングダイニング。建築家によれば、「自分の真上でなく、斜め上が吹き抜けになっていると目線が届き、広がりや上の階との一体感が感じられる」という。

居心地のいい家

この演出のため、2階の平たい天井から、主寝室と子供部屋、水回りの三つの箱を吊り下げた構造が採用されている。太い鉄骨でしっかりと造られているので、吊るされた部屋が揺れる心配は無用。それぞれの部屋は吹き抜けで隔てられていて、独立性も高い。



一方、箱はブリッジで結ばれており、2階に上がるために2か所階段があるので、家の中をぐるりと回遊できる、便利で無駄のない間取りでもある。そのうえブリッジの手摺はガラスで、2階の洗面所や寝室にも開口部を設けた。結果、1階にいても2階にいる家族の気配が感じられる。「それだからでしょう。次女が赤ちゃんだった頃、私が違う部屋に行っても後追いがありませんでした」と奥様は話す。広々として光が溢れ、時には心地よい風が抜けていく。T邸の暮らしは、人間だけでなく家族の一員となった2匹の猫たちも快適そうだった。それだけではない。T邸は、毎週学校が早く終わる日に、学校帰りの娘さんのお友達が集まる場所でもある。「女の子だけでなく、男の子もいますよ。少ない時で7、8名ですが、多い時は17人も。特に男子は喜んで、家の中を走り回ったり、頭から床にスライディングしたり」と、笑う。お洒落なインテリアの家に遊びに来た子供たちは、お行儀よくしているのではなく自由に楽しんでいるのだ。それは子供たちにとっても、居心地が良いからに他ならない。このクラスメイトの何十年後かの同窓会で、間違いなくこの家で遊んだことが話題になるだろう。そしておそらく、ガレージに停まっているコブラのことも。

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

■建築家:横田典雄 1967年大阪生まれ。川村紀子 1962年東京生まれ。夫婦の建築家ユニット。共に武蔵野美術大学を卒業し、建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞した槇文彦の事務所に勤務。横田は大分県の風の丘葬祭場などを担当。川村も多くの公共建築に関わった。独立後は個人住宅、別荘を中心に設計。特に軽井沢エリアの別荘が多く、上品で端正なスタイルは定評がある。

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(ENGINE2018年7月号)

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