荒井 本誌、春恒例のオープンカー特集。一番手は上陸したばかりの新型BMW Z4です。
村上 その前に「オープンカーの楽しみは、無限大!」というタイトルを何故つけたか言っていい?
荒井 どうぞ。
村上 屋根が開いているから。
荒井 ハハハ。マジですか。
村上 そう。頭の上に空が広がっていることと、オープンカーにもいろいろあって、楽しみもいっぱいあるという両方を合わせたタイトルです。
塩澤 オープンカーは大きく分けて2つあるよね。そもそも屋根がないことが基本のレーシングカーみたいなものから派生した2座のロードスター、それから屋根を開けることもできるという4座のゴージャスなコンバーチブル。
荒井 新型Z4は2座ロードスターの流れを汲むものです。ちょっと歴史を振り返ってみましょう。
齋藤 1996年にデビューしたZ3が前身になる。
荒井 結構ユルくて、アメリカ西海岸をのんびり走るのが似合うようなクルマだった。
塩澤 お手軽なオープンだった。
齋藤 初代マツダ・ロードスターのフォロワーだったからね。初代マツダ・ロードスターは死に絶えていたオープンカー市場の蓋をパカッと開けた。世界中で売れて、多くのメーカーが追随した。Z3はそのひとつ。それが証拠に最初は4気筒しかなかった。でも、BMWのロードスターに求められているのは、そういうお気軽なものじゃなかった。それにBMWも早々に気付いて、早い段階でZ4の開発は進むんだけどね。
村上 アメリカではZ3と初代メルセデス・ベンツSLKはセクレタリー・カーって呼ばれていた。
齋藤 まあ2座なんだけどね。BMWにしろ、メルセデス・ベンツにしろ、マツダ・ロードスターみたいに本気でゼロから開発したものではない。エンジン以外もいろいろ流用している。でも、それではお客さんが取れなくていろいろ模索した。
村上 で、2002年のパリ・サロンに登場した初代Z4はガン!と男らしいクルマになった。
齋藤 最初は6気筒モデルしかなかったからね。
荒井 クリス・バングルのデザインで、ロング・ノーズ&ショート・デッキのスタイリングが印象的だった。キャビンがずっと後ろにあって。
村上 走りもスポーティだったなあ。
塩澤 2代目は2009年のデトロイト・ショーでデビュー。女性デザイナーにより、ちょっとエレガントなスタイリングになった。幌屋根もハードトップになった。
村上 走りもオトコっぽいワイルドなスポーツカーというものから、GT指向の強いエレガントなものに変わった。
荒井 で、新型は3代目ということになります。新型Z4は2代目からどう変わったのか? ハナシを進めていきましょう。日本における新型Z4のラインナップは4種類。2リッター直4ターボ・モデルにスタンダード、スポーツ、Mスポーツの3グレード、そして3リッター直6ターボを搭載するM40i。我々が乗ったのはM40iです。
村上 見た目から言うと、ずっと押し出しが強くなった。
荒井 顔がメルセデス・ベンツみたいになった。エグイ感じ。
荒井 バングル時代のように初めて見るような造形ではないんだけど、化粧がキツイ。M40iはキドニー・グリルのフレームやエア・インテークの縁どりまで黒だからね。
塩澤 メルセデス・ベンツのアグレッシブなデザインは、ほかのブランドに影響を与えていると思う。アグレッシブじゃないとダメだっていう流れになってるよね。
村上 一方、プロポーションはものすごく綺麗だよね。とりわけ幌を開けたときの姿がいい。やっぱり開けてこそのオープンカーだなと思った。幌を閉じると、余計なものが付いた感じがある。
齋藤 カタログ写真も全部オープン。幌を閉めた姿は、説明用の1枚だけ。
村上 キャビンがすごく後ろにあった初代や2代目と印象が違う。
荒井 ヘッドライトが横長でボディ・サイドまで回り込んでいるのと、Aピラーの付け根の位置が先代より前で、大きく傾斜しているから、ロング・ノーズな感じがしないのかもしれない。
齋藤 あえてロング・ノーズを強調しなかったんだと思う。メルセデスAMG GTなんかを見て、BMWもバランスがいいプロポーションの方がいいと思ったんじゃない?
荒井 ドヤ顔だけど、リアは綺麗だよねえ。
村上 そう。8シリーズ・クーペを思わせるよう。
塩澤 シートも良く出来ていた。素晴らしい掛け心地とホールド性。
村上 個人的に残念なのは反時計回りの液晶レヴ・カウンターだけです。
荒井 では、乗った印象を。
村上 先月の特集で乗った新型3シリーズより、はるかに乗り心地が良くてビックリした。
齋藤 あれは330i Mスポーツ、2リッター直4ターボでファストトラック・パッケージ付きだったんだけど、Z4 M40iはずっとしなやかで公道でなんの問題もない。
塩澤 直6エンジンも素晴らしい。
村上 僕はドイツで直6を搭載した340iに乗ったんだけど、あの時も本当にいいエンジンだと思った。
齋藤 ちなみにZ4の6気筒は最高出力340ps、340iはクルマが重いから最高出力370psとチューニングが異なっています。
村上 BMWの6気筒って、ターボが付いていようが、圧倒的に気持ちいいんだと思った。ターボが付いていても6気筒の回る感じ自体が濃厚に残っているから。最近乗ったクルマのなかで飛びぬけていいと思った。
荒井 オープンカーとしてもスポーツカーとしても完成してるよね。
村上 そう。悪いところがまったくない。もちろん4気筒モデルに乗ったら、鼻が軽くてヒラヒラした運転感覚が味わえるのかもしれない。でも、6気筒だから鼻が重いなんて感じることはまったくなかった。
塩澤 6気筒を搭載することを基本に開発されているんだと思う。4気筒で開発して、6気筒を無理矢理突っ込むというのではなくて。
齋藤 初代Z4にはZ4 Mがあった。7900rpmで最高出力343psを発生するM3の直6を積んだやつ。でも新型Z4のM40iは340psを5000rpmで出すんだから、新型の方が圧倒的に速い。
荒井 チューニングで370psにはすぐなるわけでしょ?
村上 でも、そんなことをする必要がないでしょ。バランスがいいから。
荒井 M2やM4もあるんだから、Z4でサーキット行く人はいないか。
塩澤 そりゃ、そうでしょ。Z4は屋根が開く方が大事。
齋藤 これ以上パワー上げると脚がガチガチになっちゃうから。340psだけど、スペックの数字以上にパワーを感じる。低回転から分厚いトルクを出すエンジンだからね。
村上 扱いやすい。どんな速度域でも気持ちがいい。走りは先代よりもずっとスポーティになった。とはいえ、ガチガチのレーシング・カー由来のロードスターとはまったく違う快適なクルマ。サーキットではなくて、公道を走るためのロードスターとして、極めて完成度が高い。頑張って走らなきゃいけないといった汗臭さはまったくないし、といって、セクレタリー・カーと言われるような甘さもない。
齋藤 山道で乗るとクルマの動きは完全にスポーツカーのそれだよね。
村上 スポーツカーはテイストが古典的であることが多いでしょう? でも新型Z4に乗ると、最新のスポーツカーはこれだ! と感じる。全然古臭くない。
齋藤 ハーシュネスが立たないまろやかでリッチなテイスト。高級感があるけど、まぎれもなくスポーツカーなんだ。
村上 “駆け抜ける歓び”は新型3シリーズよりずっとあると思う。
齋藤 ホイールベースが新型3シリーズより380㎜短いからね。
村上 街中のコーナーを曲がるだけで楽しいというのは、こういうクルマのことを言うんだと思う。“駆け抜ける歓び”はこのくらいのサイズに合っているんだよ。
塩澤 現代的でスマートなロードスターだよね。
荒井 だから屋根を開けなくても楽しい。Aピラーが寝ているから開けた感が減ったし、屋根を開けたとたんにガラッと世界が変わるというようなことがない。
齋藤 そう。新型Z4の楽しみは屋根を開ける前から十分に堪能させてもらえるよね。オープンカーであることより、新型Z4であることの喜びの方が大きい。“いいスポーツカーを運転しているなあ”という。
塩澤 でも、オープンにしたときも快適だった。音もいいし、風の巻き込みもひどくはなかった。
村上 新型はやっぱりオトコのスポーツカーにしようという感じが見た目にも出てるし、乗ってもピュア・スポーツという感じだよね。
塩澤 幌に戻ったというのが大きい。
齋藤 とても上手に初代へ先祖返りしたよね。
村上 本当に超オススメ・グルマだなあ。2座ロードスターとして、久々のヒット、いやホームラン! クルマ好きが一番好きなクルマです!
話す人=村上 政+塩澤則浩+齋藤浩之+荒井寿彦(すべてENGINE編集部) 写真=神村 聖
続きは発売中のENGINE6月号「オープンカーの楽しみは無限大!」でもお楽しみください!
BMW Z4 M40i
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