2010年12月、ロンドンで開催されたサザビーズのオークションで、畳半畳ほどもある巨大な画集が落札された。その額は印刷された書籍としては過去最高(当時)の730万ポンド(約9億6000万円)。19世紀前半にアメリカの鳥類学者、ジョン・ジェームズ・オーデュポンにより出版され、120セットしか現存していないという『アメリカの鳥類』だ。このオークションが開かれる6年前、米ケンタッキー州で『アメリカの鳥類』を狙った強盗事件が起きていた。犯人は中産階級出身の4人の男子大学生。その嘘のような顛末を描いたのが映画『アメリカン・アニマルズ』である。
彼らが狙いをつけたのは、地元の大学図書館が所蔵していた画集である。犯行当時、1200万ドル(約12億円)の価値があると言われていたそのセットは、人目につきにくい2階の閲覧室でガラスケースの中に収められており、部屋にいるのは年配の女性司書一人という無防備な状態だった。老人に変装した4人は、『アメリカの鳥類』のほか、ダーウィンの『種の起源』の初版本など、閲覧室にある稀覯本をまとめて強奪し、闇のバイヤーに売り飛ばそうとしたのだ。この作品が珍しいのは、俳優が演じるドラマとあわせて、犯行に及んだ本人やその家族、さらには被害に遭った女性司書までが映画に登場し、それぞれの立場から事件を振り返っていることだ。
4人のアマチュア強盗団は、犯罪を計画するに当たって『オーシャンズ11』などの映画を参考にする。だが彼らは当然ながらブラッド・ピットになれるわけもなく、観ているこちらが呆れてしまうほどの無様な失敗を繰り返す。その滑稽な姿に何度も笑ってしまいながらも、あまりの駄目っぷりに時折、シンパシーすら抱いてしまうのである。彼らの行動はあまりに愚かなものだったが、その目的は金銭のためよりも、退屈な日常から脱却するためだった。この異色のクライム・サスペンスは、冒険と呼ぶにはあまりにも苦い、ある青春の記憶でもある。
文=永野正雄(ENGINE編集部)
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