村上 今回の特集の中で唯一のスーパー・スポーツカー、フェラーリのポルトフィーノ。ENGINE誌上にポルトフィーノが登場するのは、これが6回目?
齋藤 新車紹介、海外試乗記、国内での試乗が3回、そして今回で4回目だから、合計6回。
村上 何度出してもいい。それぐらい美しいクルマだと、改めて思った。それともうひとつ、何度経験しても驚くのが、フェラーリとしては異例なまでに乗りやすいということだよね。いったいどうしたことかと思うほどに、とにかく乗りやすい。フェラーリに乗ると、独特の緊張感がある。それは、“フェラーリに乗る”と身構えるからでもあるとは思うけれど、緊張なしには乗れないのが、お約束といってもいい。スロットルの感度が敏感だったり、ブレーキの踏力も繊細な調整が要求されたりとか、ステアリングのゲイン(効き)がすごく高くて、エイヤッと扱うわけにはいかないとか、そうしたフェラーリのクルマの仕立て方の流儀に心して寄り添う必要がある。このポルトフィーノにもそうしたフェラーリの流儀はあるのに、乗りやすい。
荒井 そうだよねぇ。

村上 フェラーリの本業はレーシング・カー造りにある。
新井 つまりF1ですよね。
村上 市販ロード・カー造りは、余技みたいなところがあるというのは、否定しようのない事実の一面だよね。レーシング・カーに極めて近いものから、一般的に使えるクルマまでロード・カーとして売っている。そのなかで、いちばん使いやすいクルマがこのポルトフィーノ。それとGTC4ルッソ系かな。つまり、ポルトフィーノはフェラーリのロード・カーとして典型的な1台なんだと思う。お金さえあれば、誰でも買って誰でも乗れる。その意味で究極のフェラーリだということもできると思う。先代に当たるカリフォルニアを出した時には、これまでフェラーリに乗ったことのない人たちを獲得したいという思いがあったわけでしょ。実際にカリフォルニアを買った人の実に7割以上が、初めてフェラーリを手にする人だったと言うんだから。そういう目的もあったからだろうけれど、カリフォルニアもすごく乗りやすいフェラーリだった。でも、ポルトフィーノはさらに1段、その上を行く。こんなフェラーリ、かつてなかったんじゃないのかな。
齋藤 カリフォルニアを買ったその7割の人にしてみれば、他ブランドから乗り換えて、フェラーリの流儀にそこそこ面食らったと思うよ。当然、フェラーリにはフィード・バックが返ってくるよね。その声を真剣に受け止めて、フェラーリの側から寄り添うべきところは寄り添ってというのがあると思う。だからこそ、これほど乗りやすいクルマになったんじゃないの。その端的な例が7段自動MTの変速プログラム。モードを切り替える“マネッティーノ”にはコンフォートとスポーツとESCオフの3つしかないのも、このクルマの意図を表わしていると思うけど、ノーマルに相当するコンフォートで自動変速に任せておくと、リア・トランスアクスルのデュアル・クラッチ式変速機が、まるで良くできたトルクコンバーター付きATのようなシルキー・タッチの変速をやってのける。これまでは考えられなかったような変速マナーを見せる。これのおかげで、アクセル・ワークに神経質にならずに済むようになった。
荒井 テイク・イット・イージー。
齋藤 そして、厳しい審美眼をもったフェラーリ・オーナーたちにも手にしてもらえるように、ということで、気合を入れてスタイリング開発に取り組んだ。見た瞬間にひと目ぼれさせるような美しい肢体をもっていなければならない、というのがこのクルマの開発におけるもうひとつの課題だったわけだよね。新しいオーナーとフェラリスタ、どちらにも強く訴えかけるクルマとなることが至上命題だった。で、それをモノにすることができたから、名前も変えてポルトフィーノ。
村上 イタリアの小さな港町にして、高級保養地。
齋藤 ルーズではなくてレイドバック。のんびりゆったりしているようで、どこかに緊張感を忍ばせた乗り味というのかな。屋根を開けて、コンフォート・モードの自動変速に任せてリラックスして走っていると、夜の高速道路とか、ああ、いいなぁ、と思うよ。気がつくと片手運転になっているフェラーリなんて、このポルトフィーノ以外に知らない。1980年代終盤以降のフェラーリのほとんどに乗る機会があったけど、パワーステアリングが備わるようになってからではこれが唯一だと思う。

新井 先代モデルも名前がカリフォルニアなんだから、こうあるべきだったんですよ。でもほら、ローマは一日にして成らず。ポルトフィーノで完成しました、ということですよ。
齋藤 なんじゃないの。ノーズのリフト・アップ機構が付いていなくても東京で運用に困らないフェラーリも、これだけだよね。無頓着ではいられないにしても、いちいちノーズを上げなくてもスロープや段差で困らないというだけでどれほどラクか。
村上 驚きのクルマだと思う。しかも、現行ラインナップの中でいちばん安いモデルでもあるんだよ。
齋藤 488系のようにレース用車両のベースになる可能性を考えなくてよくて、少数限定モデルや812のように動力性能で頂点を狙う必要もなくて、ということは、あれこれと足かせをはめられることなく、性格づけできるフェラーリなんだよ。
村上 しかも、狭いとはいえ、立派な仕立てのプラス2の後席まで備わる。小さな子供を幼稚園まで送っていくような使い方だってできる。実際にやっている人を知っている。

齋藤 その一方でね、屋根を閉じてスポーツ・ドライビングを楽しもうと思えば、本気で楽しめる。複雑な格納式ルーフを持ちながら、600馬力を叩き出すV8ツインターボ・エンジンを抱えて車重1750kgって、実はかなり軽いよ。前後重量配分だって、リアにバイアスを掛けてトラクション性能は万全だし。 advertisement
村上 ポルトフィーノに乗ると、フェラーリにはこんな世界もあったのか! とまさに目から鱗が落ちる思いがする。そして、これこそフェラーリだ! という思いも湧いてくる。
話す人=村上 政+荒井寿彦+新井一樹+齋藤浩之(すべてENGINE編集部) 写真=郡 大二郎
■フェラーリ・ポルトフィーノ
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