村上 特集の4番手は、ゴージャスな2台のオープンカーです。
上田 1台はメルセデスAMGのS634マティック・プラス・カブリオレ。V8ツイン・ターボ搭載。612馬力でお値段は2846万円。今回の試乗車は当然最上位グレード……と思いきや、この上にはまだS65なんてモデルもあります。
村上 12気筒ツイン・ターボ。
上田 そうです。ただし4輪駆動が選べるのは日本仕様はS63だけ。メルセデス・ベンツSクラスのAMGで、4座オープンで4WDという、いわば満漢全席状態ですね。
荒井 もう一方は?
上田 マセラティのグランカブリオ。登場から10年の長寿モデルですが、2017年10月に大幅なマイナーチェンジを行って再上陸。同じくV8搭載の4座オープンですがこちらは後輪駆動。460馬力でお値段は2000万円です。
大井 個人的には3000万円も2000万円も、もはやあんまり変わらないんだけど(笑)。現実的に比べる人にとっては大きな差だ。
村上 それにしても同じゴージャスなオープンカーでも、やっていることは対極だった。一方はいわば何でもアリの勝ちまくり系。ドイツ製オープンカーの頂点。まさにクルマもここまで来たかっていう感じ。
大井 最新テクノロジーを集約した感じだね。お金さえ払えばなんでもできちゃうんだって思ったよ。
村上 そういう感じも漂っていた。屋根が開いてもシートに内蔵されたエア・スカーフのおかげで首元は暖かくて快適だし、シートはふかふかだし、乗り心地は夢のようにいい。
上田 もう一方はハイテクとは正反対。昔からの素材をイタリアの職人たちが煮詰めに煮詰めたような、いわば伝統工芸品の頂点。
村上 男の魅力はお金だけじゃないでしょ、って言いそう。だいたいもうエンジンをかけた時から違う。音は色気の塊みたいだよね。これぞ職人技。しかもこの自然吸気のフェラーリ製V8エンジンを味わえるクルマは、もはやフェラーリにさえなくなった。それにこのクルマはイタリアのモデナ工場で作っているけど、今年、改装に入るのではないかという噂もある。いわば絶滅危惧種だ。
上田 非常に対照的な乗り比べでした。
村上 たぶんこれは好みがハッキリ分かれるだろうし、どっちがいい悪いっていう話じゃない。でも、皆さんはどっちが良かったですか。
荒井 マセラティは伊達というか、粋というか。やっぱり格好をつけるならグランカブリオでしょう。メルセデスはなんだか乗っている自分に対して「オマエ、ぬくぬくしてんじゃないよ」って思いました。伊達の薄着じゃないですけど。
上田 ボクはメルセデス。圧倒されました。今やドイツとそれ以外の国の技術差は本当に大きい。先月アウディA6に乗った時は、技術的に遅れていてもジャガーXFやマセラティ・クワトロポルテには古典的なクルマの楽しさがあるのか、ってシミジミ思ったんですが、今回はもうメルセデスが快適すぎて……。
大井 メルセデスは「どんな時も常に一定のサービスを致します」っていう感じ。1台でなんでもできる。
上田 たぶん雪道もOKです。
大井 そうだね。いっぽうマセラティは最初に助手席や後席に乗った時は、悪くないな、と思った。でもステアリングを握ると、ボディの緩さとか古さを感じるし、色々と文句を言いたくなる。でも、あの右足の操作1つで響くエンジンの音はね!
村上 あれはもう楽器だよ。
荒井 ヴァイオリンのストラディバリウスとマセラティのエンジン音は共通点が多いとか。日本の研究所がマセラティの依頼で調べたそうですよ。
村上 イタリアのクレモナっていうところでストラディバリウスは作られるんだけど、マセラティの本拠地の、モデナから近いんだよね。
上田 走っていてちょっとだけ右足を踏み込んだ時のふぅーって回転が上がっていく時の音が絶品でした。2500回転くらいの、パーシャルで右足をキープしている時は、なんか本当に排気管の中で音が響いている感じがした。大きな音を立てなくても心地いい。
村上 スポーツ・モードは少しボコボコするけれど自然。だからメルセデスに乗り換えると、いや、さすがにちょっと……みたいな気分になる。
大井 同じV8なのにね。ドロドロドロ……ってもう全然違う。
上田 メルセデスは走行モードを変えるとバリバリ言い出しますし。
村上 あの極端さはすごい。コンフォートはちょっとドロドロしてるくらいだけど、スポーツにすると、お、なんか変わったぞ、となって、さらにスポーツ・プラスにしたとたん、バリバリ、ボコボコ……って。でも、この音以外はもう、完全に脱帽。もはやクルマとして精緻を極めたものだと思う。
大井 荒井さんが試乗後に「トロけそう」って言ってたんだけど、走り出した瞬間に「あぁ、このことなのか」って思った。しかもワインディングのちょっと路面がうねっているようなところでフルストロークしても、ぜんぜん乱れない。
村上 ちょっと驚異的だよね。いわば何があっても顔色を変えない優等生みたいな感じ。
上田 でも、いざとなれば血管を浮き出させるくらいのことはできる。
大井 その「私は何でもできます」っていう感じが嫌だ。単に悔しいだけかもしれないけど。
村上 秀才な上に運動もできて……。
荒井 ……しかもお金持ち。かたやマセラティは不良っぽいかな。
村上 いや、まさに不良でしょ。女の子を口説かせたら天下一品の、セリエAのエース・ストライカーみたいな感じ。運動も得意だけど、ブレーキのタッチとか少々癖もある。(荒井)最初は予想より効かなくて「え?」って思った。
村上 リニアじゃない感じは色々なところにあった。
上田 何をしても反応がなめらかで一定で、引っかかるようなところがないメルセデスとは正反対。マセラティは「俺に合わせろよ」って言われているみたいだった。
大井 だからドライバーがいい運転をすると音もいいし、走りも光る。
(村上)昔のマセラティよりもぜんぜんイージーになったとはいえ、それでもやっぱりデリケートですよ。
上田 マセラティは助手席だと風の巻き込みはメルセデスと差がないと思ったんですが……。
大井 でも後席は着座位置が高くて、風がおでこを直撃みたいな感じ。26歳の時、徳大寺さんの911カブリオレを借りて、うれしくてオープンのまま伊豆の海岸線を延々石廊崎まで走って風邪を引いたことを思い出した。そこまでハードじゃないけど、シチュエーションを選んで幌は開けたい。メルセデスは逆に後席はしっかりと身体が収まる感じ。
上田 “ちょんまげ”とポップアップ式リア・ディフューザー、効きます?
荒井 あぁ、エア・キャップのことね。助手席はさらに速度が高いと差が出るね。アウトバーン用だよ。
大井 マセラティはたとえ同じものを思いついても「こんな格好悪いものを付けるか!」って言いそうだ。
村上 こうした装備も含め、すべてにおいてメルセデスはデジタル時代のクルマになっている。マセラティはぜんぜんまだアナログ。
上田 メルセデスの渋滞追従やレーンキープのボタンの横に、見慣れないマークがあるな、と思ったらナイトビュー・アシストだった。かたやマセラティは始動するのにまだ鍵をさしてひねらなきゃならない。大井さんも始動ボタンを探してましたね。
荒井 ボクも探しちゃったよ。
村上 うれしいことにメーターにはちゃんとリアルな針が付いている。
上田 やっぱり時代を感じるなぁ。
村上 そうだとしてもこういうクルマがなくなっちゃうと寂しい。メルセデスが素晴らしいことは間違いないし、あれが1つの到達点であることは断言できるんだけどね。
荒井 マセラティの方が意識してクルマを運転している気がする。レヴカウンターを見て、あ、そうか、ここまで回しているからこの音なのか、という具合に感じるけど、メルセデスは応接間にいるみたい。
大井 あれ、俺が運転しなくちゃいけないの? みたいな気分になる。
上田 クルマじゃないものになりつつある何か、みたいな気がした。
村上 それでもやっぱりすごい「クルマ」なんだよ。いやぁ、それにしてもよかった。メルセデスとマセラティ、こういう対照的なオープンカーがあるからこそ、改めてクルマって楽しいものだと思ったよ。
話す人=大井貴之/村上 政+荒井寿彦+上田純一郎(ENGINE編集部)
写真=神村 聖
■マセラティ・グランカブリオ・スポーツ
メルセデスAMG S63 4マティック+カブリオレ
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