開発陣のトップとして当初から新型アルピーヌA110に深くかかわっているジャン-パスカル・デュース氏。インタビューの第2弾では、A110で目指した方向性、開発での苦労、ライバルとの違いなどについて伺ってみた。
2012年後半にアルピーヌ復活のプロジェクトがスタートした当初から、そのトップとして技術面だけでなくプロジェクト全体を見てきたジャン-パスカル・デュース氏。彼はアルピーヌを復活させるのに際し、A110以外のモデルにすることは考えられなかったという。新しいA110を見ると、スタイリングなどに初代のイメージを色濃く残す一方、エンジン搭載位置をRR(リアエンジン・リアドライブ)からミドシップに、またボディの素材をFRPからアルミに変更するなど、初代とは異なる新しい技術や考え方が取り入れられた部分も少なくない。
「新型A110ではアルピーヌらしさ、すなわちコンパクトで、軽量で、俊敏という要素は外せませんでした。それらを実現するのに、クルマの基本レイアウトはRRよりもミドシップの方が好ましかったというのがミドシップを採用した理由です。同じようにクルマを軽く作るにはFRPよりもアルミ製の方が適していました。また、先代よりも大きく進化した点はエルゴノミクス。当時よりも体格が良くなった現代の人でも楽に乗り降りできるようにしています」
当初はルノー・スポールとスポーツカー専業メーカーのケータハムとのジョイント・ベンチャーだったが、途中でケータハムが離脱してからは、ルノーの応援を得ながらルノー・スポールのみで開発が行われてきた。ルノー・スポールはモータースポーツ活動やそのための車両開発などが中心で、イチからクルマを作った経験はそれほど多くはない。そんな中で、まったく新しいモデルを作り上げるのは大変な作業だったはずだ。
「軽量化と脚まわりについてはとくに情熱を注ぎました。デザインは、A110の特徴である4灯式のヘッドライトやリアまわりの意匠を見たとき、その完成度の高さに“ここにはこれ以上の情熱は必要ない”と思いましたね。開発で一番気に掛けたことは、“やっておけばよかった”ということを無くしたかったこと。とにかく妥協はしたくなかったのです。ケータハムと別れてから入ってきたルノーから来た人たちはすぐにコストのことを気にしました。大量生産する実用車を作ってきた彼らにとってコスト管理は重要課題ですから。しかしアルピーヌは違います。とにかく彼らにはコストではなく性能を上げることに注力して欲しいと言いました。また、ルノーのスタッフが入ると小回りが利かなくなるのではと心配しましたが、そこではモータースポーツという何にでも対応しなくてはいけない部署に居た経験が役に立ちましたね」
ロータス・エリーゼ、アルファ・ロメオ4C、ポルシェ・ケイマンなど、A110のまわりには強力なライバルが多数存在する。彼らに対抗できるA110の訴求ポイントはどこにあるとジャン-パスカル・デュース氏考えているのだろうか。
「ケイマンがライバルと言っていただけるのは光栄です。ケイマンは今でこそ4気筒になりましたが、本来ケイマンは6気筒を搭載していたモデルで、A110と比べるとかなりラグジュアリーでプレミアムなモデルですからね。エリーゼはオンボード・ライクなハンドリングが魅力だと思います。日常使いでは厳しい面も多いですが、スポーティさがそれをカバーしていますよね。4Cはカーボンのボディが素晴らしい。ただし、全体的にちょっと未完成な感じも受けるものの、デザインもよく、カーボンを使う利点がしっかりと表れています。この3台を頂点とする三角形があるとすると、A110はその中心に居て、お互いをリスペクトできる関係にある。それは良かったと思っています」
アルピーヌに情熱を持つ人が、その情熱を余すことなく注ぎ込み、妥協することなく作り上げたクルマ、それが新型A110なのだ。彼の話を訊けば、A110が惚れ惚れするような高い完成度を持つことに納得せざるを得ない。
航空機メーカーを経て、ルノーに入社。シャシー関連のエンジニアを10年間務める。その後、ルノーF1ティームでF1の開発に携わったのち、ルノー・スポールでクリオV6、2代目メガーヌR.S.など、7年間に亘りスポーツカーの開発を行う。そして、2012年11月、ケータハム社との合弁会社でアルピーヌA110の開発をスタート。2014年4月にケータハムが離脱した4か月後までの2年半以上に亘り、企画と技術面のトップとしてプロジェクトを指揮する。その後、再びルノー・スポールに戻ったのち、2018年2月にアルピーヌに復帰。現職に就く。
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文=新井一樹(ENGINE編集部) 写真=茂呂幸正
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