新生アルファ・ロメオを代表するジュリアとステルヴィオの2台は、ドイツ勢に真っ向勝負を挑む国際商品。そこに、お気楽なラテン・イメージは、ないのであります。
齋藤 アルファ・ロメオは1986年にフィアット傘下に入って以来、 ある意味でずっと冷や飯を食わされてきたといってもいい。
佐野 高級車なのに、大衆車フィアット・ベースのメカしか使わせてもらえなかった。8Cと4Cは例外だけど、あれもマセラティ工場の稼働 率を上げるのが最大目的だった。
新井 アルファはフィアット傘下に入って95年に北米市場から撤退。その後も再上陸計画は何度も頓挫した。でも、2009年にクライスラーと経営統合してFCAとなり、いよいよ本気で北米再進出をはかる。でも、最初のジュリエッタに対するアメリカ人の反応は芳しくなかった。
齋藤 やっぱりフィアットと共通化 していては本物のアルファはつくれない、最大市場でメルセデスやBMWに対抗できない……と開発現場はくすぶっていた。そこで当時CEO だった故セルジオ・マルキオンネが「だったら本物のアルファをゼロからつくってみろ!」と白紙委任状を渡してつくらせたのが、ジュリアとステルヴィオというわけだ。
佐野 80年代末に免許を取った僕ら世代としてはフィアット系列のアルファも好きだけど、その気持ちもよく分かる。ただ、今回のジュリアの200psのガソリンは分かりやすく官能的なエンジンではない。アルファ伝統の「回してナンボ!」なイメージとはまるで正反対だ。
新井 この超フラットなトルク特性はまるでディーゼル。6000rpmというレブリミットも低い。
佐野 今回はステルヴィオが本物のディーゼルを積んでいたけど、ちがいは排気音だけ……みたいな?
新井 280ps版はもっと高回転型だけど、こっちは本当にディーゼルっぽい。そういうエンジンを多段ATでぽんぽん変速して低回転で使う……という思想からしてディーゼルに酷似している。
齋藤 でも、これこそ本当の意味でイタリア的なクルマづくり。イタリア車は昔から、新しいものをつくるときは直球で理想主義だから。
佐野 どういう意味?
齋藤 たとえば、70年代のアルフェッタは、普通のセダンなのにギアボックスを後ろに置くトランスアクスル方式だった。別にレーシング・カーやスーパーカーを目指したわけじゃなく、後輪駆動でも室内を広く、理想的な重量配分でパワステなしでも軽いステアリングが目的だった。
佐野 そう考えると、彼らの代名詞だった高回転型エンジンも、 60年代の全盛期はそれが正論だった。
新井 今をときめく乗用車用コモンレール・ディーゼルも世界で初めて市販したのはアルファ156だった。
佐野 イタリアすげえ(笑)。
新井 ディーゼルっぽいガソリン……というのも理詰めの産物だ。
齋藤 最近こそディーゼル離れといわれるけど、この20年以上、欧州で優秀な高級車用エンジンといえばディーゼルだった。ディーゼルを生かすために多段ATも発展してきた。
佐野 クリーン・ディーゼル黎明期は「ガソリンみたいなディーゼル」がもてはやされたけど、ディーゼルが完全浸透した今の欧州では、ガソリンでもなんでも、ディーゼルみたいな味わいが好まれていると……。
新井 理屈としては、エンジンはできるだけ回さないほうがフリクション・ロスも振動騒音も有利だ。
齋藤 マルキオンネ直轄で自由に開発できたジュリアとステルヴィオで は、技術者たちもそれは嬉々としてつくったんだと思う。
新井 エンジンだけじゃなく、ジュリアとステルヴィオは重量配分へのこだわりも執念めいている。
齋藤 さすがにトランスアクスルは現実的ではないから、ホイールベースを前に伸ばして、エンジンを完全なフロント・ミドシップにした。そういう理詰めのクルマづくりは、同じ方向性のBMWより徹底している。
佐野 BMWは空車状態では少しノーズ・ヘビーなのが多いし、SUVになると逆にリアのほうが重い。対してアルファは空車状態でほぼ50対50。しかもジュリアとステルヴィオで前後重量配分が変わらない。
新井 それにしても、セダンとSUVの乗り味が、ここまで共通しているのもめずらしい。
佐野 どちらも前後重量配分がピタリと同じになるように設計されているし、乗員のヒップポイントとロールセンターの位置関係も、ジュリアとステルヴィオで同じになるよう精密に設計されているとか。
新井 ステルヴィオのハンドリングはもっともSUVらしくない1台だ。運転席も目線こそ上がっているが、運転環境はセダンと変わらない。
佐野 操縦性はほぼスポーツカー。
齋藤 ポルシェ・マカンもかなりスポーツカーだけど、あれはチューニング技術の賜物という感じで、パッケージなどの芯の部分でスポーツカーらしいのはステルヴィオだ。
佐野 アルファというと伝統的にしなやかに積極的にロールさせていたけど、ステルヴィオもジュリアもビシッと硬くて姿勢変化も小さい。
新井 そのあたりはドイツ車に引っ張られている部分は多分にある。なんだかんだいっても、世界的にドイツ車的なのがトレンドだから。
齋藤 ただ、ドイツ車はステアリングをここまでシャープにしない。
新井 とくに切りはじめのところはビックリするくらい鋭い。
佐野 しかも、セダンのジュリアとSUVのステルヴィオが体感的にほとんど同じくらいに敏感だ。
齋藤 昔のアルファは姿勢変化をいとわない、しなやかさが特徴だったけど、同時に初期アンダーステアを嫌っていた。それは今も受け継がれていて、アルファの開発陣はとにかく切りはじめのアンダーが大嫌い。
佐野 そこにタメをつくるメーカーもあるが、アルファはタメない。
齋藤 でも、必要以上に曲がるオーバーステアも嫌いだから、反応の立ち上がりは電光石火でもステアリングそのものはすごくリニアだ。
新井 最初は戸惑っても慣れると運転しにくくはない。逆に大きく切らなくてもいいぶん、街中をクルクル走り回るときは肉体的負担も軽い。
齋藤 どちらも、ステアリングをギュッと握りしめてガバッと切るような運転には向かない。ステアリング・リムを軽く掌で包むようにして操るのが心地よく走るコツなんだ。
佐野 だから、ステアリングのグリップも細いんだ。「握りすぎるなよ」という無言のメッセージなのか!
齋藤 戦前のアルファは今のフェラーリ以上のスーパーカーだったし、戦後も60年代まではレースでも強く、最先端のスポーツカーやスポーツセダンをつくっていた。当時は新興勢力だったBMWなどは「アルファに 追いつけ追い越せ」だった。あのときのアルファを思わせるクルマをここまで理想主義的につくったのは、フィアット傘下では初めてだ。
佐野 でも、イタリア人がそうやって自由にクルマをつくると、すごく真っ当なものになる。「おっちょこちょいだけど底ぬけに明るい」という、日本のクルマ好きがいだく典型的な「ラテンの血」感はまるでない。
新井 それは大問題。真正面からいいクルマになっちゃった(笑)。
■アルファ・ロメオ・ステルヴィオ 2.2ディーゼル Q4
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4690×1905×1680㎜
ホイールベース 2820㎜
トレッド 前/後 1610/1650㎜
車両重量 1820kg(前930kg : 後890kg)
エンジン形式 直列4気筒DOHC 16V直噴ターボ過給ディーゼル
総排気量 2142cc
ボア×ストローク 83.0×99.0㎜
最高出力 210ps/3500rpm
最大トルク 47.9kgm/1750rpm
変速機 8段AT
サスペンション 前/後 ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 235/60R18 103V/235/60R18 103V
車両価格(税込) 617万円
■アルファ・ロメオ・ジュリア 2.0ターボ・スーパー
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4645×1865×1435㎜
ホイールベース 2820㎜
トレッド 前/後 1555/1625㎜
車両重量 1590kg(前800kg : 後790kg)
エンジン形式 直列4気筒SOHCマルチエア16V直噴ターボ過給
総排気量 1995cc
ボア×ストローク 84.0×90.0㎜
最高出力 200ps/4500rpm
最大トルク 33.7kgm/1750rpm
変速機 8段AT
サスペンション 前/後 ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 225/45R18 91W/255/40R18 95W
車両価格(税込) 543万円
話す人=齋藤浩之+新井一樹(ENGINE編集部)+佐野弘宗 写真=望月浩彦
(ENGINE2019年10月号)
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