ドイツのユーロスピードウェイ・ラウジッツ、通称ラウジッツリンクで、ポルシェ最新のサーキット走行専用モデル3台の国際試乗会が開催された。スリック・タイヤを履いての全開テストに臨んだ田中哲也氏が報告します。
コクピットに収まるレーシング・ドライバーの田中哲也氏。
まずは718ケイマンGT4クラブスポーツから試乗することになった。舞台はドイツのラウジッツリンク。このマシンはポルシェのヴァイザッハ研究開発センターで生まれた生粋のレーシング・カーで、ボディ・パーツに天然繊維を使用した初のレーシング・カーとしても話題を集めている。そして、これは今年から日本で始まった新シリーズであるポルシェ・スプリント・チャレンジ・ジャパンへの参戦を前提としたマシンで、現在レースの世界で話題のカテゴリーであるGT4クラスに属する。
ミドシップに積まれたエンジンは3.8リットルの水平対向6気筒で、425psを発揮する。トランスミッションには6段PDKが採用されていて、ロールケージやレーシング・バケットシート、6点式シートベルトなど必要とされる安全装置を完璧に備えている。それでいて車両重量はわずか1320kgでしかない。
エンジンのかけ方はノーマルと同じだ。PDKはノーマルと同じ使用方法だから問題はないが、レーシング・カーに仕立てたGT4との相性はどんなものであろうか。トラクション・コントロールや姿勢安定装置はオン・オフがそれぞれ可能で、試してもいいということだった。このマシンにはエアコンも装着されている。デジタル・メーターには様々な情報が提供され、ラップタイムとタイヤ空気圧が表示される。最近のレーシング・カーでは珍しくないが、あると非常に助かる情報である。
2015年の秋に導入された競技用車両、ケイマンGT4クラブスポーツの再販というかたちで再投入された718ケイマンGT4クラブスポーツ。エンジンは先代と同様に自然吸気3.8リットルボクサー6のままだが、最高出力は40ps引き上げられて、425psを発揮するほか、各所がブラッシュ・アップされている。変速機は純レーシング・タイプのシーケンシャル式ではなく、ロードカー同様、PDKを使う。
リア・ディフユーザーが、ミドシップの718ケイマンGT4クラブスポーツのセンター部に設けてある。
いよいよコースインだ。ミシュランの新品スリック・タイヤが装着されていて、冷えている状態では気を付けてくれとのこと。PDKなのでスタートはノーマルと同じで簡単。エンストがないだけでとても気楽な気分だ。最初はかなり慎重に走り始めたが、思ったより初期からグリップが発生してくれた。この温まりやすさはありがたい。
第一印象は、ピュアで癖のないレーシング・カーでありながら、PDKのお陰で最初からドライビングに集中できるクルマというものだ。エンジンは軽快で、パワフルな加速はレーシング・カーとして十分満足出来るレベルにある。低回転域のトルクで走るタイプではなく、7800rpmのレヴリミットまでしっかり使い切りながら、6段PDKを駆使してエンジン回転をパワーバンドにしっかりキープしてやると、とても軽快に走れる。扱いやすい特性だ。
マシン・バランスはアンダーステアが少なく良く曲がるのが印象的である。サスペンションに関してはややソフトな印象で、ダイレクトにロールやピッチングを感じることが出来て、バンプもとてもスムーズにクリア出来る。そのおかげで、ドライバーが容易に荷重移動を発生させてマシン・バランスを変化させることが出来る。しかし、時にスロットルをラフに扱うと、特にコーナリング中のパワーオフでリア荷重が減少した時に、リアがスライドしてしまうことがあった。
それがダメかというと、そうではない。アクセル・ワクや荷重移動を学ぶにはもってこいだ。基本的なグリップ・レベルは高くてしっかりしているから、先に述べたアクセル・オフによる荷重移動をしっかり使って向きを変えれば気持ちよくコーナーをクリア出来る。もちろん姿勢安定装置のオン・オフでも挙動は変わり、マシンの向きを積極的に変えたいときはオフにしたほうが走りやすい。
コーナー出口に向けてパワーを思い切りかけていってもパワー・スライドが発生することはほとんどなく、トラクション・コントロールをオフにしてもオンにしてもその差をあまり感じることがないくらい、トラクション性能は優れている。動きがわかりやすく唐突な挙動が少ない。ゆっくりした動きの中でマシンの動きが推移する。これは本当に素晴らしい部分である。
そして、ブレーキ・タッチもノーマルに近い。踏力も感触もノーマル同様だ。大きな踏力が苦手なドライバーにはありがたい。それでいて繊細なコントロールもかなり高いレベルで行うことが出来て不安感が少なく、止めることと荷重移動による姿勢づくりに集中したブレーキングを分かりやすく行うことが出来る。エアロ・バランスは中速や高速からのブレーキングでリアがしっかりしている印象があり、ダウンフォースが効いている感じだ。
しかし、何よりも印象的だったのは、PDKである。これが使えることで、レーシング・マシンとしての敷居は大きく下がったと思う。その作動はスムーズで、変速速度も十分だ。レーシング・カーとして全く問題ない。それどころか、発進やシフト操作が誰でも簡単に行えるので、メリットは非常に大きいと思う。
レース経験の少ない人や基礎を学びたい人のトレーニングにはものすごく優れたマシンだと思う。勘違いしてほしくないが、GT4マシンとしてのポテンシャルは相当高いところにある。ニュルブルクリンク24時間レースを見てもわかるだろう。
911GT2RSクラブスポーツはGT2RSをベースにしたサーキット走行専用モデルだ。外観はノーマルとは大きく変わっていて、CFRPを多用して軽量化を図りながら、エアロダイナミクスの追求からボディ・サイズは大型化されている。車両重量は80kgほど軽量化されて1390kgしかない。その他、ブレーキはもちろん強化されていて、ロールケージやレカロ製レーシング・バケットシート、エア・ジャッキなどサーキット専用マシンと呼ぶにふさわしい装備が施されている。
以前911RSRやGT3Rを試乗した時はショート・コースであったが、今回はラウジッツリンクのフルコースを使う。おかげでこのクルマの凄さを存分に試すことが出来た。718ケイマンGT4クラブスポーツの後に乗ると、エンジン・パワーの差が物凄い。GT2RSと共用で実に700psを発揮する。7000rpmまで回るこのエンジンの素晴らしさは、トルクが強烈なことと、高回転域のパワー、そして過給レスポンスが大型のタービンを使っているとは思えないくらい素晴らしいところである。最高出力は数字以上に出ているのではないかと感じるほどにパワフルで刺激的である。
GT2RSをベースにサーキット走行専用競技車両として開発された911GT2RSクラブスポーツ。200台が限定生産された。CFRPパーツを多用するなどしてベース車両から80Kgの軽量化が図られている。シートは1つだけの単座マシンである。700psを叩き出すターボ過給ボクサー6はベース・モデルと共通する。変速機もPDKを使う。スパ24時間レースで実戦デビューを果たしている。
低速コーナーで2速か3速かを迷うようなところでは3速で低回転域のトルクを使いながら走ることにした。少し回転が低いと感じるが、低速コーナーで2速を使うとパワーがかかりすぎてリアがパワー・スライドしてしまう。そこでPDKを駆使して3速で走ったり、コーナーのボトム付近で一瞬2速に入れすぐに3速に上げたりと様々なことを試したが、3速の低回転からのトルクを使って走るのがスムーズに走るコツのようだ。
低速域からのレスポンスをうまく使えるのが非常に素晴らしい。高回転域のパワーは、凄い! の一言しかない。コースのオーバル部分を全開で加速していくと、3速でもトラクション・コントロールのランプがずっと点滅していた。
そしてこのマシンもまた、PDKが素晴らしい。変速速度はもの凄く速くて、GT3カップカーに装着されているレーシング・トランスミッションと比較してもポテンシャルの差を感じない。それでいて、2ペダルなのでスタートが楽なことは圧倒的。変速テクニックの技量差が一気になくなってしまう感じだ。
サスペンションは少し硬めでバンプに対しても少し跳ねる。ロールやピッチングは少なめで、GT3マシンのような印象である。ハイスピードからのブレーキング時や中速コーナーでのリアの安定感が高く、総じてハイスピード領域でのリアの安定感が素晴らしい。これほどのハイ・パフォーマンスなマシンともなると、高速域でのリアの安定度が十分か否かは非常に大切だ。大型化されたボディを使ったエアロ効果は存分に発揮されていると感じた。
姿勢安定装置に関してはオフのほうがコーナリング中に向きを変え易く、その挙動も自然だ。オフにしてもリアがナーバスになることもなく、滑り出しが分かりやすい。安心感はオフでも十分なレベルにある。ステアリングには少し遊びがあるが、シビアさをなくすためのセッティングなのだと思う。ブレーキはGT3マシンのようにしっかりしていて、思い切り強い踏力でコントロールするレーシング・タイプのそれだ。
GT2RSクラブスポーツは、しっかりグリップを発揮させ、思い切りアクセレレーターを踏むことが出来るように、マシンが仕上げられている。パワーを使い切って走ると、征服感のようなものを感じるくらいの快感が得られる。刺激的だ。700psを完全に使い切れる。こんなマシンはなかなか体験出来ない。
ポルシェの70周年を記念したこのマシンは、かつて大活躍した伝説のポルシェ935へのオマージュとして企画されたものだ。GT2RSをベースに、レギュレーションによる制約を受けることなく作られたマシンである。935のイメージをよく再現しながら、フロントのホイールアーチの通気口などはGT3Rの技術を転用していたりと、新旧の技術が入り混じっていてとても面白い。
ポルシェ70周年を記念して77台が生産された、サーキット走行専用車両。伝説のレーシング・カー、935にオマージュを捧げるもので、ベース車両は911GT2RS。ただし、どのカテゴリーのレース・レギュレーションにも適合した純然たるクラブスポーツ・モデルだ。ボディ・ワークは935でもロング・テール仕様の935/78型がモチーフになっている。機械内容は935GT2RSクラブスポーツに準じる。
911GT2RSクラブスポーツでは設置が不可能なリア・ディフューザーも、935/2019ではオーバーハングを延長することで採用可能に。
GT2RSクラブスポーツに乗った後で乗ると、マシンのバランスは明らかに体感できるくらいに違うことが分かった。エンジンの基本性能は同じなのだが、エキゾースト・システムの違いの影響で微妙にサウンドが違う。こちらのほうが少し太いサウンドに感じる。
ボディ・ワークが大きく違っているので、エアロダイナミクスがGT2RSクラブスポーツとは大きく違う。挙動は935のほうがアンダーステアが少なく、フロントのグリップが高く感じる。コーナーの中程では少しアクセルを踏んでバランス・スロットルを使わないとリアが不安定になるときがあるが、とにかくよく曲がる。コーナリング速度はGT2RSクラブスポーツより高い。
高速域でのブレーキングの安定感はGT2RSクラブスポーツとほとんど変わらないが、低速コーナーではより安定していて、ブレーキングでオーバーステアが発生することが少ない。それと、ステアリング・インフォメーションがしっかりしている。ダイレクト感がありリニアリティも高い。路面やマシンの状況をしっかりと確認できるところが素晴らしい。よく曲がるマシンなので姿勢安定装置はオンのほうが自然な印象があった。
ダウンフォースは少し大きくなり、そのバランスは前寄りになっている。ストレートでのドラッグは増えたように感じたが、タイム的にはGT2RSクラブスポーツよりほんの少し速かった。気持ちよくコーナーを攻めることが出来るマシン、それが935/2019だと思う。このマシンの開発には、ニュルブルクリンク24時間でマンタイ・ポルシェに乗っていたマルク・リープがエンジニアとして関わっている。このマシンの奥深さには、それも関係しているのではないかと思った。
文=田中哲也 写真=Porsche AG
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