『万引き家族』でカンヌ国際映画祭の最高賞を手にした是枝裕和監督。自ら脚本を書き下ろした新作の舞台はパリで、スタッフの多くがフランス人、しかもカトリーヌ・ドヌーヴら欧米の大物俳優たちが出演する、是枝監督にとっては初めてづくしの作品だ。
ドヌーヴ扮するのは『真実』と題した自伝本を上梓した大女優のファビエンヌ。彼女の瀟洒な邸宅に、NYで暮らす娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)が、夫のハンク(イーサン・ホーク)と、7歳になる娘と共にやってくる。だが到着早々、自伝本に目を通したリュミールは、その内容に愕然とする。自分と母の関係は都合よく美化され、離婚した父親は死んだことになっており、母親の親友で最大のライバルでもあった今は亡き女優の“サラおばさん”は名前さえ登場しないのである......。
本作で圧倒的な存在感を示すのは、やはりドヌーヴだ。「私は酷い母親だったかもしれないけど、良い母親で酷い役者であるよりはマシ」と開き直るファビエンヌは、毒舌で傲慢だが、どこか憎めなくチャーミング。ドヌーヴは会見で「自分とはまったくかけ離れた人物を演じられて愉快だった」と話していたが、実在と架空の女優の姿がオーバーラップする仕掛けは楽しく、時に笑いさえ誘う。またファビエンヌが撮影している映画のシーンが劇中劇として盛り込まれ、まさに虚実ないまぜの女優という職業が描かれるのだ。
もちろん家族(それもかなり風変わりな)というテーマにこだわり続けてきた是枝監督の作品らしく、物語の核をなすのは母と娘の相克である。だがそのアプローチも、たとえばイングマール・ベルイマンの傑作『秋のソナタ』のように、互いをとことん傷つけあう容赦のないものではなく、諍いの渦中にあっても2人の根底にある愛情が滲み出るような、優しい目線が感じられる。
役者やスタッフが国境を越えても是枝監督は気負うことなく、自らの作風、魂をしっかり作品に息づかせている。映像作家としての確かな力量を改めて示した作品だ。
108 分。10月11日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開。
配給:GAGA
文=永野正雄(ENGINE編集部)
photo L. Champoussin ©3B-分福-Mi Movies-FR3 2019Getty Images
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