現在の愛車は、現行型(正確にはマイナーチェンジ前)のゴルフGTI。その前には、フォルクスワーゲン初のプラグイン・ハイブリッド車であるゴルフGTEに乗っていた。さらに遡れば、6代目以外の各世代のハッチバックやステーションワゴンのヴァリアントを乗り継いできた。あの端正な2ボックス・スタイルに憧れ、実際にステアリングを握ってみると、えもいわれぬ安定感と安心感がたまらず、気がつけばすっかり虜になっていたのだ。
しかし、単に好きだけでゴルフに乗り続けているわけではない。ゴルフは「コンパクト・カーのベンチマーク」とよくいわれるが、どの世代もパッケージングやシャシーの性能がライバルのお手本になっていたし、近年では直噴ガソリン・エンジンのTSIや、デュアル・クラッチ・トランスミッションのDSGといったパワートレインの分野でも時代のトレンドを生み出してきた。
それだけに、自動車ジャーナリストである自分がゴルフに乗ることが、クルマの評価の基準をつくるうえでとても役に立っている。そんなゴルフにも、日本では欠けていたものがあった。それが、TDIと呼ばれる直噴ディーゼル・ターボ・エンジンだ。
本当は、2015年の東京モーターショーでTDIがお披露目される予定だったようだが、例の「ディーゼルゲート」により計画が白紙になり、ディーゼル車導入ではライバルに後れを取ることになったフォルクスワーゲン。しかし、地道にブランド・イメージの回復に努めてきたかいあって、一時落ちた販売台数は増加に転じ、TDI搭載モデルがその一翼を担っているというのは皮肉な話。TDIが用意されるモデルでは販売の半数以上を占めるという。パサート・ヴァリアントではその6割、ティグアンでは8割超にいたる人気モデルになっている。
それだけに、主力モデルのゴルフ、なかでもアクティブなライフスタイルの持ち主が選ぶゴルフ・ヴァリアントは、輸入車ナンバーワン・ブランドに返り咲きたいフォルクスワーゲンとしては、大いに期待を寄せているに違いない。
ディーゼル・エンジンのトレンドを網羅するVWTDI。最新のコモンレール式燃料噴射システムは、エンジン・ノイズや振動を抑えながら、NOx(窒素酸化物)やPM(粒子状物質)の発生を低減する。さらに、排ガス中のPMを吸着するDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)を採用。NOxは尿素水溶水「AdBlue」により、窒素と水に還元する。WLTCモード燃費は18.9㎞/ℓ。
ゴルフTDIに搭載されるのは2ℓの直列4気筒エンジン。基本的にはパサートなど、日本に上陸ずみのモデルに搭載されるのと同じ「EA288」エンジン・ファミリーのディーゼル・モデルである。ゴルフの場合、最高出力が150psとファミリーのなかでは控えめなスペックであるが、最大トルクは34.7kgmと、それでも力強さはスポーツ・モデルのGTIに匹敵するレベルだ。
これに、フォルクスワーゲンお得意のDSGが組み合わされるが、ゴルフTDIでは最新の7段DSGを採用。WLTCモード燃費は18.9㎞/ℓを達成する。
気になるのがTDIエンジンの排ガスだが、もちろんゴルフTDIは、最新のディーゼル技術と排ガス浄化技術によって、日本のポスト新長期排ガス規制をクリアする。
さっそくエンジンを始動すると、ゴルフのガソリン・エンジンよりも明らかに目立つノイズを伴いながら、アイドリングを開始した。といっても、おそらく多くの人が抱くディーゼル・エンジンのイメージよりもはるかに音量は小さく、振動も十分許容できるレベルに抑えられている。
そして走り出せば、すぐにTDIの力強さに魅了されるはずだ。ゴルフTDIは動き出しが軽く、1300rpmも回っていれば十分なトルクを発揮するエンジン特性とあいまって、低回転からスムーズで、ストレスのない加速が楽しめる。1750rpmから3000rpmで最大トルクを発揮する2.0TDIエンジンは、あまりアクセル・ペダルを踏まなくてもグイグイと加速。この実用域での扱いやすさこそ、ガソリン、ディーゼルにかかわらず、歴代ゴルフに共通する魅力のひとつだ。7段DSGの動きもスムーズで素早く、最新版の完成度の高さには舌を巻くほどだ。
速度が40㎞/hを超えたあたりからは、ロード・ノイズにかき消されるおかげで、TDI特有のノイズはあまり気にならなくなる。さらに速度が上がり、100㎞/h巡航では7速ギアで1450rpmと低いエンジン回転に保たれるから、ガソリン車よりもむしろ静かなほどだ。
レッドゾーンが4600rpm強から始まるこのエンジンは、4000rpmを超えたあたりから加速が鈍り始めるが、だからといって運転が退屈なわけではない。最新の「MQB」プラットフォームの上に成り立つ現行型ゴルフは、GTIやRといったスポーツ・モデル以外でも素直で軽快なハンドリングを示し、リアにマルチリンク・サスペンションがおごられるこのゴルフTDIでは、実に爽快なコーナリングが楽しめるのだ。
それでいて、きわめて剛性感の高いボディや優れた直進安定性、フラットな乗り心地などにより、グランドツーリングはお手のもの。そのうえ、高速燃費は22.2㎞/ℓを超える。力強くスポーティな走りでありながら、懐に優しいゴルフTDIは走行距離が多い人にとって、まさに打ってつけの選択肢なのである。
ハッチバックより広い荷室が自慢のヴァリアント。通常時でも605ℓ、後席を倒したときの最大荷室容量は1620ℓにもなる。そのため、ハッチバックより310㎜長く、60㎏重い。2ℓ直4ターボ・ディーゼルのレッドゾーンは4600rpmから。2000rpmも回せば力強い加速を味わえる。7段DSGのマッチングも見事。
優等生のゴルフTDIだが、個人的には不満がないわけではない。ひとつは、ゴルフのデザインの特徴ともいえる太いCピラー。おかげで運転席から左後ろの確認がしにくいのだ。そして、最近、移動の際の荷物が増えている私には、ラゲッジスペースが手狭になってきた。
その点、リアピラーが狭く、代わりに大きな窓が備わり、持て余すほど広い荷室が自慢のゴルフ・ヴァリアントは、私の好みにぴったり。ハッチバックに比べて60㎏重量が増えるが、同じスペックの2.0TDIエンジンに不足はなく、乗り心地に関してはハッチバックよりも良好である。私はヴァリアントこそが、ゴルフ・ファミリーの真の優等生ではないかと思う。
ゴルフと同時にディーゼル車が追加されたシャランも、実は好きなモデルのひとつだ。その理由を挙げるときりがないが、たとえば、独立したセカンド/サード・シートにはそれぞれISOFIXのチャイルドシート固定装置が備わり、2列目だけでも3つのチャイルドシートが装着できたり、子供2人とママが座るといったことができるミニバンは実はほとんどない
使い勝手の良さで人気のミニバン、シャラン。7人乗車時の荷室は300ℓ。2列目、3列目のシートを倒すと2297ℓというフラットで広大な荷室ができる。さらに助手席の背もたれを畳むと、2.95mという長尺物も積むことができる。
インテリアはクリーンでシンプル。7人乗車時を考慮しているのか、ひとりで運転するとやや硬めの乗り心地。容姿からは想像できない軽快なハンドリングも魅力である。
しかし、私としては、シャランの魅力はなんといっても、ミニバンらしからぬハンドリングの良さだ。あの大きなボディからは想像できないほど、軽快にコーナーを駆け抜ける走りを一度体験してしまうと、他のモデルが目に入らなくなる。
シャランの優れたハンドリングは初代から定評があり、この2代目も日本のメーカーがお手本にするほど。ミニバン王国の日本メーカーが一目置くのがシャランというわけだ。
まさにミニバンの分野でベンチマークとされるシャランだが、これまで日本には1.4ℓ直列4気筒ターボ&スーパーチャージャー(導入当初)、または、1.4ℓ直列4気筒ターボエンジンだけの設定だった。それだけに、より力強い走りと燃費性能を求める人にとって、シャランTDIの追加は朗報である。
実際に走らせてみると、ゴルフTDIよりもハイチューンな2.0TDIエンジンは、出足こそややもっさりしているが、回転が1800rpmを超えたあたりからトルクが豊かになり、さらに2500rpmより上では力強さを増していく。4000rpmを超えてもその勢いに衰えはなく、高速道路での合流でストレスを覚えることはないだろう。
ハイブリッドに頼らず、燃費と走りを高い次元で両立するTDIは、おそらくシャランの販売の主力になると思うし、走りにこだわる人には、ぜひショッピング・リストに加えてほしい1台である。
フォルクスワーゲンは今年のフランクフルト・ショーで電気自動車のID.3を発表し、電動化の推進をアピールしているが、それでもまだしばらくは内燃機関の時代が続く。高効率なエンジンを搭載するゴルフやシャランが、コンパクト・カーやミニバンのベンチマークの座を明けわたすのはまだ先になりそうだ。
文=生方 聡 写真=茂呂幸正
VWゴルフTDIハイライン・マイスター
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