ジャガー初のSUV、Fペイスが上陸して早3年が経った。それまでジャガーの代名詞といえばサルーンとスポーツカーだったが、XJもXFもXEも、Fタイプも、結果として今ひとつブレークには繋がらなかった。ところがFペイスの登場は、ジャガーを変えた。ひとまわり小さなEペイスやフルEVのIペイスも 加わって、今やジャガーの主力は完全にSUVへと転じている。
このターニング・ポイントとなったFペイスに、Fタイプやレンジロ ーバー・スポーツで先行していた高性能モデル、SVRが加わった。従来のSVRたちと同じ鮮やかなウルトラ・ブルーをまとったその姿は、華美でありながら、ただならぬ重圧感を周りに伝えている気配がある。ややえぐみがあって、あくも強いが、ギリギリのところで止まっているような感じがする。
ボンネットに大穴が開き、バンパーとフェンダーもあちこち筒抜けなのは、550ps/69.4kgmを発揮する5ℓV8スーパーチャージド・ユニットや強化されたブレーキ・システムを冷やすためだ。22インチ・ホイールと樹脂のオーバー・フェンダーはピタリとマッチしているし、大型のルーフ・スポイラーや魚のえらのような複雑なサイドシル・パネルも、個々で見るとその大きさに戸惑うけれど、全体で見ると違和感なく収まっている。
ドアを開ければ、上質なレザーを張り巡らせたインストゥルメント・パネルと、ダイヤのスティッチの入る豪華なバケット・タイプのシートが出迎えてくれる。シフトは円筒形セレクターに代わり、小ぶりで感覚的に操作しやすいノブに変わっていた。・・・・こうしたクルマの仕立て方は、いかにもオールドスクールで、 往年のスーパーカーみたいだ。
撮影のため走りはじめて、そうそうこれこれ、と思ったのはスタンダードなFペイスと同じ軽快なステアリング・フィールだ。ステアリング は遊びがなくて、切ったら切っただけぐいぐい曲がる。さらに、電子制御式ダンパーに組み合わされる前後スプリングはそれぞれ30%、10%ずつ硬く、ロールを5%低減するアンチロールバーも備わる。
このセッティングのせいもあって、同じ5ℓV8過給エンジンで、さらにパワフルなサルーンのXJR575よりも足の仕立てはずっと硬く感じられる。市街地の地下鉄工事で路面が何度も掘り返されているようなところだと、てきめんに身体が大きく揺さぶられる。いっぽう路面がいいと、じんわりときれいに足が動いて、ジャガーらしい懐の深さを見せる。
エンジンとアクセレレーターの協調制御にはじまり、変速のタイミングと速度、ダンパーの可変特性やステアリングのアシスト特性など、電子制御プログラムはFペイスSVR専用。駆動システムはスタンダードなFペイス同様、基本後輪駆動のオンデマンド式4WDだが、新しい電子制御式アクティブ・ディファレンシャルを備え、よりスポーティな走りを実現している。
5ℓV8ユニットはひとたび回転を上げると「ドゥルルルッ」と荒々しく唸り声を上げる。専用のエグゾースト・システムにはバイパス・バルブが組み込まれているのだが、走行モードの変化に関係なく、右足を深く踏み込むだけで、ちょっと呆れるほど大きな音を発する。意識していれば大人しく走らせることも可能だけれど、目の前が開くと、ついついこの音が聞きたくなってしまう。
それにしても、ジャガーは相変わらず重さやパッケージングがもたらす運動特性をドライバーに伝えるのが本当にうまいと思った。2tを超える重いものを動かしていることを常にドライバーに認識させながら、明確かつ適切にクルマが今どうなっているかをフィードバックする。巨大なSUVなのに背の高さや重さを持て余すような感じがしないのは、巧みなシャシー・セッティングと、この高い情報伝達能力のおかげだろう。
3年前にはじめてFペイスに乗って、FペイスをSUVの形をしたスポーツカーだ、と評したけれど、FペイスSVRは、もはやSUVの形をしたスーパーカーの域にあると僕は思う。
ジャガーFペイスSVR
文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=山田誠人
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